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084話「12と1の誓い」




部屋で待機していた私は窓から外を眺めていた。自分の荷物を整理しつつ、服をロッカーにしまい小物をそこら辺に配置することはもうやってしまった。天気は曇りしかし雨が降りそうな予感はしない、晴れよりの曇りだった。だが私はいっそのことこんな中途半端ならば雨でも降って欲しいと願った。

もちろん雨は嫌いだ、だが雨水がどこかこの重苦しい何かを長い音してくれたらいいのにと少しの願望が織り混ざっていたからなのかもしれない。


空に想いを馳せていると扉がなった。振り向き、はい。と声を出すと扉を開きそこから父と母の姿が現れた。


 「ラナ、いるか?」


 「お父様!お母様!」


私はそれを見るや否や、年不相応の幼心をみせ二人に近づいた。それを見て母はニコリと笑う、父の方はどこか疲れ気味な顔をしていた。


 「お父様、ナリタテンマとは。」


 「あぁ、酷く言われたよ。」


お父様は首の裏に手を置きながら自然に苦笑いをした。


 「覚悟はしていたんでしょ?」


 「そうだが、昔とはだいぶ違ったからな。」


母の言葉に答える父は思っていた結果とはだいぶ違った現実にも参ったようだった。昔のナリタテンマは今とは違っていたのだろうと軽い予想ができる。


 「思った以上にこっぴどく言われた。あれは父親の叱り方だな。」


 「でも、あなたはラナを怒ったことないでしょ?」


 「親父には怒られたことはあったさ。」


夫婦の会話に入りずらい私を察してか、父は部屋に荷物を置くと近くのベットへと座った。母は軽く壁に寄っかかっている。


 「ラナ、明日ナリタテンマから招集が入る。」


 「知っています。」


 「そうか。ミィ─お母さんと、エルザードとエルフルは待機だ。


 「待機、ですか?」


 「あぁ。」


 「なんでも、絶対条件だって。」


 「な、るほど。」


母の困ったような笑いを見てナリタテンマがどういう意図で母を仲間外れにしたのか少しわかったような気がする。覚悟をしていたとはいえ自分の妻を戦場に送り出すなどナリタテンマの意識的には猛反対を下しそうだものな、と。


 「お父様、ナリタテンマがなぜ私たちを招集するかは?」


 「知らないが、なんとなくわかる。勇者時代にも似たようなことがあったからな。」


 「似たようなこと、ですか?」


 「あぁ。アイツが私たち、そして他の集まった部員に配るのは、新造された魔術秘宝だ。」


 「魔術秘宝、それは一体。」


初めて耳にする言葉に戸惑いながらも私は父に尋ねる。聞こえから感じる印象は、その名の通り魔術の秘宝なのだが直感がそれは生半可なただ物ではないと告げてきている。


 「人間国王家が大々律儀に継承してきた、証だ。これを持っている者が実質的な王家だな。もちろん血統もあるが、本命はこちらだ。」


 「それを、配る?ですか。」


 「先代女王、今はナリタカテナだな。彼女も私達が魔王と戦う時に魔術秘宝を解放した、そのあとナリタテンマがすぐに王位に座ったから貴族の好きにはできなかったがな。」


 「では、今回は。」


 「そういうことだ。」


 「それじゃあ、クリスちゃんは王女様じゃなくなっちゃうじゃない?」


母の言葉を聞いて私は少し考えるが。


 「………なんか、それはそれですごく嬉しそうな気がしますよ。」


クリスの笑顔が目に浮かぶ。今までのような無法はできなくなったかもしれないが、クリスは実力派の人間なので多分生きていくには苦労はしないのだろうと軽く予想できる。


 「ぁ、ですがそれだとナリタテンマは。」


 「アイツは困らないさ、カテナも修羅場は括ってきていた。たとえ平民や格が落ちたとしてもあの家族にとってはメリットになると私は思うよ。」


 「………そうですか。」


お父様の言葉に私は納得せざるおえなかった。でもナリタテンマが承知でことを進めているのなら、私やお父様は相応の覚悟を持ってこれに対応する。それが知っている者のせめてもの礼儀だと感じた。


 そして次の日、早朝から目が覚めてしまった私は軽く準備体操をして身なりを整えた。それと同時に父もベットから起き上がった。


 「ラナ。」


 「お父様、おはようございます。お母様?」


父のベットをよく見てみると母が寝ていた。私から1番遠く三つ目にあるベットには昨晩まで寝ていた母の姿はなく、父のベットまで移動してきたことがなんとなくわかる。


 「あぁ、離れて寝ることに慣れてないだけだ。娘の前で少し恥ずかしいが。」


 「いいえ。お父様とお母様にはもっと時間を差し上げたいくらいです。」


 「……あまり気負わなくていい。これからは、絶対に一緒だからな。」


 「…はい。」


父の手が私の頭に乗ると私は穏やかに返した。父が母に掛け布団を被せ、私と同じように身なりを整え始めた頃だった。コンコンと窓の扉を叩く音が聞こえた。


 「……?」


私は閉ざされたカーテンを開け、その正体をみるとそこには浮遊の魔術を使ったクリスが窓につかまりながら私を待っていた。向こう側に見える朝日とまだ青みがかった空がとても幻想的に見えていた。


 「クリス!?」


 「おはようございますラナさん。」


 「とりあえず、中へ!」


 「いいえ。このままで、お二人はご準備できていますでしょうか?」


 「私はできている。」


ちょうど支度を終えた父が私の隣に立った。クリスはそれをみると軽く一礼して、事情を説明した。


 「こんな形で申し訳ございます。お二人をお迎えにあがりました。」


 「呼び出しがきたということか。なるほど、確かに早朝で窓なら騒ぎになることもないか。」


 「おっしゃる通りです。私は案内としてきました、誰も窓からどこに繋がっているなんてわからないでしょうから。」


 「それはそうだな。」


 「それではいきましょうか、ラナさん私の手を。」


 「ええ。」


母を一瞥して静かに眠っているとわかった私は安心してクリスの手を取り、窓の外へ。浮遊の魔術程度なら私も使えたため少しバランスに難があるが簡単に宙に浮くことができた。高いところが苦手な精神でなくて良かったと心の底から思う。


 「あ、お父様は。」


 「大丈夫だ。私は元々飛べる。」


背中に武器が現れると父は私よりも安定した状態で宙に浮き始めた。それがどういった理由でどういった原理で行われているかわかる前に、器用に父はカーテンを閉めた後、窓を閉めた。


 クリスは不安定な私を気遣って手を繋ぎながら一緒に屋根の周りを飛び始め、無言で案内し始めた。


 「私のお父様は飛べないのですが、さすがですね。」


 「アイツはいいとこ大ジャンプがせいぜいだからな。私は弱くなっているがアイツのできることの4倍はできる。」


 「随分、具体的ですね。」


 「勇者の武器四つ分だからな。基本的に使うのはこれだけだが。」


父は背中にある槍を突きながら語る。父の背に構えるようにひっついている槍は全部で4つである。それが力のサイズなのかそれともただの槍の複製体なのかはよくわからない。


 「お父様から、ゼル様は複製ができると。」


 「権能でな。これでも元はたいそうな職についていた、その名残だ。」


私の質問を読み取ったかのようにクリスが問いかける。父は肩をすくめながら答え、それに私は再び違う疑問を浮かべる。


 「なぜお辞めに?」


 「ン、お母さんと結婚したからだよ。」


私の肩に手を置きながらお父様は優しく語った。そのロマンチックな回答に、なんだが母ではない私の方が照れてしまう。


 「素晴らしいお話ですね。私の父とは大違いです。」


 「まぁ………」


父はクリスの言葉に複雑そうに返した。それが事実であることが何よりも本人にとってかわいそうである。


 「もうすぐでございます。王の間はおそらく貴族と繋がりがある兵がいると思われますので、こちらで行います。」


大窓を開けたクリスの手を取って私も中に入る。少し広々とした場所であるが人気の少なさや隠れごとをするのに一見最適だと見抜く。


 「ここは、屋根裏のようなところか。」


 「はい、使われていない場所です。あっと、先先代はここで魔術の訓練をしていましたが。」


 「……なるほど、アイツの修行場所か。」


 「あのお父様は。カテナ様の前の、先先代の国王をご存知なのですか?」


 「いいや。全く。」


父のあべこべな言葉に首を傾げながら進むクリスの後を追った。屋根裏部屋と言いつつ、私が知っているものとは広さが全然違った通路を通りながらクリスは指先に炎を出し灯りを確保しながら向かう。


 「もしかして、私たちが最後か?」


 「はい。お二人にはゆっくり休んで欲しかったので。」


クリスは気遣いの言葉を言いながら古めかしい扉の持ち手を何回かドアに叩いた。それは何かの法則性を帯びていると一見わかるが、私には何がなんなのかさっぱりである。


 「モールス信号か。」


 「モールス?」


父の言葉に首を傾ける私。それを無視して叩き終わったクリスに一呼吸おいて扉の先から、入れ。という声が聞こえてくる。


 「失礼致します。連れて参りました。」


 「ご苦労副隊長。」


 「!」


そこにはナリタテンマと見慣れた顔ぶれが全員待機していた。

右を見ればプリエル、ノーブル・フォース先輩、パリス・アイネリア先輩、アングラス・ベドート先輩、ファルニア(・カルゴーン先輩)。

左を見れば、ペリー・クラスタ先輩、アルシュド・オルバルス先輩、スワード・ワルツ先輩、セルスス・ヤルド先輩。

いずれも大隊の中で優れた能力を持つ人達だった。でも私が感じたのはそれだけではない。


 (これだけ。)


そう大隊にはもっと大勢の仲間がいた。だがこの場にいないとするならば、それはクリスが言っていたように戦争を辞退した者なのだろうと理解する。もちろん、戦うのは怖いことで戦争はもっと悲惨であるそれに耐えきれないとわかっているのなら辞退するのは容易である。

だが私は彼らを責めることはできないできるのはただただ無事な暮らしを祈ることだけだった。


 「これで全員です。」


 「では始めよう。諸君ら、私を含め13人の戦士たちは今宵から世界を守る最前線に立つ勇士である。魔人族、圧倒的な力を持ち我々人を脅かし蹂躙を語る者、彼らを打ち倒すことこそ我らが悲願であり。この世界を守る使命である。誓いをここに。」


ナリタテンマが言葉を口にし、クリスが丁寧に一つずつ魔術秘宝を手渡していく。私もクリスからその一つを受け取る、思っていたものとは違い魔術秘宝はまるでアクセサリーのような小さな者であった。けれども魔術を使うことができること体はその小さな物体がなんたるかをすぐに理解した。

 固有の魔術が一つ内包されているだけではなく自身の魔術神経の活性化やその他を含むとても一つでは収まりきらないほどの大量の加護などが重ねられた攻防一帯の装備である。正しく秘宝というのに等しいほどのこの世で唯一無二の存在だと知覚した。


 「我々はここに魔人王討伐を掲げ命尽きるその時まで戦い続けることを誓え!」


 『誓う!!』


部屋を満たすほどの声は、私たちの団結であり私たちの意志の表れであった。この手は小さく魔人族と相対するには不足かもしれない、それでもやらなければならない。この命をかけるだけの想いと、その背にある世界がそこにはあるから。




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