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081話「休日の間話」





 実家へ帰省してから約1ヶ月が経過した。自分の部屋で目を覚ましてそして一階へ階段を降り、リビングへと入ると。


 「あ、ラナおはよう!」


 「おはようございますお母様。」


笑顔な母が出迎えてくれる。私の起きる時間をなんとなくで知っているのかリビングのダイニングテーブルにはすでに食事が用意されてあった、今日は目玉焼きとパンである。

父はおそらく庭で自主鍛錬をしている、元から父はそうやって毎日欠かさず朝は少し早く起きて自分の戦闘能力を継続させるような、そういう人なのである。


そして私はここ数日、たまに父に付き合いながらも体と心をしっかり休ませている。おかげさまでというべきであろうが、心の底から今は毎日が楽しいと思う。あの10歳の頃の一件以降どこか私の心は置いていきぼりだったが、今は決してそんなことはない。


 「ラナ〜。」


 「お母様……」


私の背後から抱きつく母、頭を擦り合わせる愛情表現である。この母も考えてみれば本当に久しぶりである、父が居なくなっていた間は母にはこれをする心の余裕もなかった。ただ今は懐かしい母の温もりを感じながら一緒に過ごすことができる。


 「はぁ、本当に大きくなったね。」


 「お母様、私ももう19ですよ。」


 「関係ないよ、私からすればラナはいつだって私の大切な娘なんだから。こうやって、一緒の時間が過ごせるだけで私は幸せなんだよ。」


 「………はい。」


母の言葉には偽りはない。だからこそ自分の今までの無自覚の行動に少し傷がつく。私はもっと母と共にいてあげればよかったのかもしれない。母は父のことももちろん大切だが何より私のことを大切に思ってくれている、それは明白だったからだ。


 「そういえば、ラナは今も剣術をやっているんだっけ?」


 「はい。」


朝食を食べ始める私を邪魔しないように顔髪を櫛で解いてくれている母が質問をした。ここ1ヶ月はそう言った質問はなかった、多分私を少し気遣ってくれたのではないのだろうかと思う。


 「そっか、強くなった?」


 「……それは、幼い頃に比べればですが。」


 「そっか、いつかお父さんを超えちゃうのかな。」


 「それはまだ先ですよ……お父様は特別なんですから。」


 「うん。でもね、何でもかんでも突っ走ったり一人で抱え込んだりって、完璧なわけじゃないんだよ。それにラナは私の血も引いてるから。」


 「……お母様の?とは。」


 「あれ話さなかったっけ?私、昔は冒険者だったんだよ?」


 「……はい?」


 「あれ、本当に話してなかった?」


 「はい。初耳ですが。」


恐ろしいカミングアウトを聞いた私は思わず手を止めてしまった。私の記憶にある母はいつも温厚だ、それこそ家族愛が凄まじくその体戦士のような闘争気配は一切感じとれない。私の感覚が単に鈍かったせいなのかもしれないが、それでも母が冒険者で武器を持って戦っていた人というのは驚きだった。


 「そっかそっか、ごめんね。」


 「いぇ、そのお母様は冒険者。あの、戦ったりとかしていたんですか?」


 「うん。魔物を倒したりお父さんと手合わせしたり、冒険者時代はエルザードとエルフル、そしてお父さんと三人でいろんなところを旅したよ。」


 「………そんなことが。」


 「信じられない?」


 「もちろんです。」


 「そっか。じゃああとで私と戦ってみる?」


 「はい?!お母様と!」


 「うん。あれ、変だった?」


 「いえ、そういうわけではしかし。」


私が母の体を心配して言葉を続けようとするがそれを遮るように母は私の頭に手を置いて少し強めに撫でながらどこか得意げにこう言った。


 「私の体は大丈夫。確かに治り気味で、全盛期とは程遠いけど、それでも武器を持って戦えるくらいには回復しているから、だから少し手加減してね?」


 「は、はぁ。そのお言葉ですが、あまりご無理なさらない方が。」


これを父が聞いていたのなら一体どんな顔をするかと思う。父は母のことを私以上に大切にしている、それはもちろん夫婦なのだから当たり前と思うのだが、その心配性は多分私よりも高い。


 「お父さんに関しては、私からいえば大丈夫!それに運動不足だから、こうやって少し粗治療気味にやらないと回復しないからね!」


 「粗治療、それでは余計に。」


 「獣人族なんだもん。それにラナより私の方がもしかしたら強いかもよ?」


 「……!」


そのあからさまな挑発に私の心には火がついた。余裕が生まれたのか今まで挑発などには一切乗らないような私でもこの母の言葉一つで簡単に火がついてしまうような安い心になってしまっていた。


 「では、食事が終わり次第始めましょう!お母様には負けませんから。」


 「そっかそっから。じゃあ私も装備を引っ張り出さないとね。」


食事を終えた私はすぐに自室へ駆け込み、いつもの戦闘用の服と木刀を持って庭に出た。我が家の庭はかなり広く一つの修練上くらいの広さがある、なんでも父曰く私がのびのび育てる用に庭を広くしたらしい、それが今では私とお母様の戦いの場になりそうなのだが。


 「ふっ、ン。ラナ?」


 「お父様おはようございます。」


 「おは、よう。どうしたんだ?装備なんか、」


 「今からお母様と戦います。」


 「…………え、ミィーナと?」


私の言葉に父は面食らったような顔をする。それはそうだしかも聞いた私よりも反応がすごいところを見るに本当に困惑している。


 「そういうことだから、ゼル。審判をよろしくね。」


 「ま、待った!ミィーナ、それは少し!」


 「早いって言いたいの?ゼル、私が元々どういう性格か忘れた?」


 「いや………ぁぁ。」


父は母の言葉に強く出れなかった。心配する気持ちは最もあるが母に睨まれて父は愛ゆえに何もできない。それと元々というところを見るに父も母の今じゃない姿を知っているのだろう、その姿はきっとすぐにわかることだがこの反応から若干私の身に力が入った気がした。


 「それじゃあ、はじめよっか。おでかに軽く一発でいい?それとも相手を地面に落として武器を突きつけるとか?」


 「………ではその両方で。」


一瞬、実践形式の。参りました。を言うまでにしようかと考えたが母の体力的な問題を考えた時あまりにキツくなるのではないかと考え、提案した通りにした。


 「じゃ、いくよ。」


母は身を屈めて今からダッシュするかのような体制に入る。その両手に握られた双短剣の木剣から母の戦闘スタイルをどことなく連想しながら私は木刀を構えて、正面から向かいうつ構えを取る。反射神経はこちらの上のはず、ならば母がこちらの眉間を狙ってきた瞬間に即座に反撃することができる。


 「─────」


母の目から慈悲が消えた。目の色が変わったと言うべきかそれとも全身に纏っている何かが消えたと言うべき私は口を開けてその姿を分析しようと頭を回していた。その時だった。


 「ス────ッ」


 「…………ッ!?」


私の動体視力は一瞬にして母を見失い、次の瞬間には下段からの攻撃が開始していた。目が追いつき体がオートで判断し始めた時にはすでに木刀は振り下ろされ、母の眉間に関わらず一刀両断する勢いで振り下ろされていた。


ダンっと鋭く地面を叩く音。思わずしまったと思ったが当たったのは地面でありそこに母はいなかった。


 「……っやっぱり鈍ってるね。」


 「!」


振り返り、腕を回しながら身をほぐす母の姿に私は再び驚愕する。これの何がおかしいか、それは何がなんでも早すぎるという点だ。


 「……(油断していたとはいえ、目が追いついて行けなかったなんて。)」


こんな経験初めてだった。クリスと対面している時でさえこんなことは起こらなかった。魔術の高速的な軌跡も軌道もしっかり全て見える私が、初めて万全で追いつけないものを見たのだ。


 「ラナもすごいね、少し遅かったら斬られちゃってたよ!」


 「いえ。お母様は───。」


 「じゃあ、続けるよ…!」


母は再び世界を置き去りにして消え去った。私はすぐに魔術を同時発動させお母様の姿を捉えようとするが、反応はどこにもなかった。


 「っ!!」


そう探知に専念しているとすぐさま鋭い木剣が私のガードを破壊しようと飛んでくる。一瞬本人かと思ったがすぐにそれは投擲だと気がついた。


 「っ」


プラノード抜刀術ですぐさま背後からの奇襲に対応して振り下ろすも、それすらも空中で回避され、投擲して落としていた木剣を拾い直し二刀での斬りかかり始めようとする。


 「!」


それを理解した瞬間、木刀を前面に押し出し刃が眉間に届かないように全力でカバーする。


 「……っあ、これも。」


 「はぁ、はぁ。」


母は驚いた顔をして撤退した。対して私はそんな余裕な母とは対照的に命がいくつあっても足りないようなそんな危機感を感じながら息を切らしていた。だがそんな私はなぜ魔術による探知がまともに反応しなかったかを同時に考察していた、そしてまさかだとはと思いつつそっと口に出す。


 「……まさか、身体強化なしですか?」


 「うん。うん?身体強化って?」


 「ガイアスがいつも使っていたやつだよミィーナ。」


 「あ、あれね。」


父の一声に母も理解したようだ。だがその体はなんの強化も施されていないままの素の状態でこれだということが分かっただけだった。私の心に少し絶望感が生まれる。


 (身体強化なしでこの動き、お母様は、間違いなく。強いッ!)


数十年間はお母様は全く激しい運動をしていないはずだ。少なくとも母が母になった時から、そのブランクがあってこの動きができるのかと私は驚愕せざるおえない。そして同時にあることを思い出す。


 『お父様はね、私よりもとっても強くてね。それで優しくてね。そんな人だから私も結婚できたんだよ。』


それは幼い頃から母が父のいないところで私に言い続けてくれた言葉だった。一見愛ある言葉のように見えるが私からすれば。


 (この高速のお母様より強いお父様は一体………っ。)


という新たな強敵に対する恐怖しか生まれなかった。


 「あれ難しいんだよね……でも私もちょっとはしゃぎすぎてるから。次で決めようかな───」


 「っ!」


母が身体強化を使ったのか再び目の前から消失した。その動きはまるで闇討ちをするアサシンのように素早い、私も同時に全身に身体強化を施し、防御の姿勢に入る。最悪母からの攻撃を一度身体強化の一撃で防いでから高速でカウンターすることで勝てるはずだと踏んでだった。


しかしそんなことを思う暇なくオートで体が動き始めた。気づけば母が両手の木剣で高速攻撃を行っていた動体視力は強化されているのに一瞬しか見えないような連続攻撃、私の守りを突破するつもりだとすぐにわかったため全てを受け流しつつ、一瞬の隙を生まれさせてから木刀をかなり強気で母の眉間に向けてはなった。


 「!」


しかし母は私の身体強化を施した一撃を、一瞬の身体強化によって得たブーストを使って回避。


 (一時的な、身体強化っ!?)


理屈はわかる攻撃が当たる瞬間に身体強化を使うことによって燃費を抑えそして瞬間火力を爆発的に伸ばす方法だ。しかしそれはいつも家族に見せてくれている穏やかな母の姿とは大きく一線を画すものであった。


 「はいッ」


 「っあ!!」


眉間あたりににデコピンをかまされその場で尻餅をつく私、オデコはヒリヒリと痛みが押し寄せ思わずそこを手で押さえながら完全敗北の気持ちで立ち上がれなかった。


 「……はぁ、ラナすごいね。あんなに長く身体強化を使えるなんて!お母様、すっごく感動しちゃった。」


 「それは、どうも……」


なんと言ったらいいのだろう。私は母のことを本当に甘く見ていたのだと痛感した、私なりに本気で戦ったつもりなのだが最後のデコピンを含めて完全に遊ばれてしまった感が拭えなかった。自己分析すればするほど悲しくなる。


 「大丈夫?」


 「はい。」


母の手を取って立ち上がる。母は少し息を切らしているだけで私の方はオデコはヒリヒリするし体は汗だらけでちょっと情けない。


 「ふふ、よく頑張ってね。」


 「ぁ、はい……。」


私の頭を撫でる母、その顔は満面の笑み。私はそんな母の幸せそうな姿を見て敗北して頭を撫でられているのに少し嬉しい気持ちになった。


 「……ラナ、お母さんは強かっただろ?」


 「はい。これほどとは。」


 「え、ラナも実戦だったら私に勝てたでしょ?」


 「でも私も驚いたよ。この間まで寝たきりだった妻がまだまだこんなに強くてね。」


 「…………ゼル、次やってみない?」


 「え、いや私は。」


 「久しぶりに火がついちゃったから、逃げないでね。ラナ、審判よろしく。」


 「……はい。」


 「ちょっと待ってくれ、ミィーナ流石に体を労って。」


 「私はまだまだいけるよ、それに何かあったら回復してね?」


 「魔法を便利に扱わないでくれ!」


その後母と父との対決が始まったのだが、父は母をできるだけ傷つけないように気をつけながら立ち回っており、結果的には息切れした母がすごく不満そうな顔をして父を睨むような形で終わった。


 (お父様、右目と右腕ないのに。強すぎませんか?)


よくよく考えてみた感想を私は思って二人の底知れなさを実感した。




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