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08話「クリスの計略」





 次の日、昼休みの時間になった私はクリスに手を引っ張られていつもの陽気に当てられたベンチはとやってきた。ラプは誘わなくていいのかという私の問いに、今日も忙しいらしくて来られないとクリスが言っていた。多分本当だと信じて私は作ってきたお弁当を食べながらクリスの計略を聞くこととなった。


 「あ、ミドリ枝豆一つください。」


 「いいけど、何か関係ある?」


 「いえ、食べたかった──らけでふわ。」


私のお弁当からミドリ枝豆が一つ抜かれてしまった。あの身を食べるまでの工程は私にとってとても楽しみの一つだと言うのに。


 「クリスはサンドイッチ?」


 「ええ、手作りです。枝豆の代わりにおひとつどうですか?」


 「いや、多分お腹いっぱいになるから。」


自分の腹十分目まで作るのが私のお弁当だ。クリスのサンドイッチ一つ入れてしまってはおそらく午後は食後の睡眠となってしまう。また授業が聞けなくなるのはごめんだ。


 「そうですか。」


 「それよりクリス、その昨日話していた計略は?」


 「あぁ、それでしたら早めに食べ終わってから話しましょう。私昔から、」


 「流れ作業はできない。知ってる。」


 「流石。」


私とクリスはお弁当を早めに双方話ができる体制となった。クリスはお弁当を丁寧に片付け口をハンカチで拭き、そして鞄にしまったあと交代でノートを取り出した。そして挟んであった昨日のメモ書きでページを開く。

そこにはびっしりと書かれた図と説明があった。クリスはそれを反対側にして私に見やすいようにベンチの上に置く。


 「それでは、私の考察をご覧にいれましょう。」


 「おぁ。」


 「まず、キショウテンケツということで最初から犯人を申し上げます。ズバリ、犯人はエルフです。」


 「………それだけ?」


 「えぇ、ただのエルフです。」


私は唖然した。明らかに学園が炎に包まれていて、クリスが倒されている事態だったはずなのにその犯人がただのエルフ?そんなわけないと言いたいところだけど、話はまだまだ始まったばっかりだ。


 「では私がどーしてそんなふうに思ったかを語りましょう。」


ほらね。


 「まず目をつけたのは《学園は燃えていただけ》という点。レナさんはこの時建物が当落も崩壊もしていなかったと言っていました。」


 「うん。」


 「それつまり、《炎が全土に渡っているだけ》なのです。何が違うかと言えば威力は全くないという点です。」


 「……あれ?それおかしくない。」


自分であの光景を当たり前だと思っていたが、振り返ってみたらおかしい。炎が学園全体に広がっているのに、建物はまるで壊れていない。建物そのものには防御魔術がかけられていないことがこの学園の弱点であるが、だとしたら炎が学園全体に、一切の破壊なく広がっているのはおかしいことなのだ。


 「そう、少なくとも安い広範囲魔術、魔法を行使すれば建物に一つ一つつけると、絶対にどこがが魔法攻撃に耐えきれなくなり破壊されます。ですが起こった事象は《学園は燃えていただけ》しかも短時間で、いくら建物が木製でも炎が学園全体を燃え尽くすほどの広範囲大魔法を行使するのは普通に不可能です。それこそ一人の魔術師で行うのは。」


 「たしかに。」


 「そこで、私は考えました。いかにして短時間で《学園は燃えていただけ》の状態にできるのか?ヒントは威力が全くなく、かつあまり熱くなかったという点です。」


 「それがヒント?」


 「ええ、おかげで広範囲炎魔法、魔術はこれから外れました。そしてあるではありませんか、半永久的に魔法を使う方法が。」


 「エレメンツを用いた《完全循環方法》?!」


 「はい。」


説明しよう。

エレメンツとは魔法を構築する上で必要となる粒子のことだ。エレメンツは至る所で入手することができる、そしてこのエレメンツを得て、使う。得て、使う。を半永久的に行える手法が《完全循環方法》だ。

《完全循環方法》には以下の例が挙げられる。

まずエレメンツ(水)を使い、水魔法を行使する。そして行使した水魔法によって水ができ、そこからエレメンツ(水)を獲得。エレメンツ(水)を使って水魔法が行使できる。


仮にエレメンツの獲得量が、消費量と同じであった時。以上の行動を空論上で無限回行うことができる。これが《完全循環方法》である。


しかしこれには欠点がある空論上と言ったとおり、これは手動でのエレメンツ獲得が必ず手動で行わなければならないため、エレメンツ入手適性も含めて、人類の限界は最大で98%とされている。つまり水を救っても一滴ニ滴こぼしてしまったら、それは最後には無限回続けられないという結論になる。人が行う以上100%はあり得ない、それがこの理論を空論と言わしめている原因だ。


 「でも、人の手じゃ不可能なんじゃ?」


 「はい。エレメンツ獲得量は最大で98%、適正と持続的な集中力が必要なこの作業において、%は平均して2のn乗(n=回数)低下していくと論文が出されています。」


 「じゃあ無理じゃ?」


 「それがそうでもありません。炎のエレメンツなら、表面上これが判らなくできるのです。」


 「どういうこと?」


 「炎という性質は空気があり続ける限り、無限に燃えることができ木製など火が移りさらに範囲を広げることができます。エレメンツは濃度ではなく範囲に依存します。例えば1の力で木に火を灯して、その炎が10の範囲に広がれば獲得できるエレメンツも最大で9は確定で入手できます。」


 「あ!増えている!」


 「はい!増えているのです。ですのでこれならば擬似的に《完全循環方法》が完成します。もっともー、空気と燃えるものがなければ意味がないので擬似的なんですけれどね。」


 「もしかしてそれが?」


 「はい。《学園は燃えていただけ》は威力が低い初級魔法によって擬似的な《完全循環方法》を用いて行われたことがわかりました!」


 「それが、犯人がエルフである理由?」


 「あくまでもその一つです、もう一つありましょう。なぞは?」


 「あ、クリスが。」


 「そう、私が倒されてしまった理由です。私、慢心はしないタイプですが自分をしっかり評価するタイプなので、自分がそんじょそこらのエルフなどに負けるなどあり得ないと思っております。」


 「うん。」


そうクリスは強い。メンタル的にも能力的にも強い、立てにナリタは名乗ってないといっても過言ではないほど強い。魔術の腕はピカイチで、身体能力も獣人に匹敵するほどだ。その彼女が真正面から負けるとは考えにくい。


 「ですので以上の条件から私が負けるケースをいくつか考えました。」


 「条件っていうのは、《学園は燃えていただけ》の状態?」


 「ええ、真正面から勝てないのなら環境的なアドバンテージがあると思いまして、それを加味してみました。結果、私が負けると予想できる相手を絞りこちらになりました。」


ページをめくると子供のお絵かきのようなヘンテコな魔物?が描かれていた。そこで私は思い出した。


 (ヘタクソ!)


クリスは絵心がまるで皆無だということを。


 「このフレイムキラーという魔物、状況次第では私に勝てる見込みがあります!」


 「そ、そうなんだ。あれ、でも魔物はこの学園に入って来れないんじゃ?」


 「そのとおりです。そしてここでもエルフが犯人であると裏付ける理由を一つ、召喚魔法です。」


召喚魔法。魔法が普及し始めて人々の間でも使えるようになっていくこの時代で、いまだにエルフしか使えない魔法。エレメンツを希少な魔物性と通常のエレメンツを大量に消費することで魔物、精霊、妖精、理論上は現存する生物を呼び出すことができる、もしくは生み出すことができる魔法だ。


 「召喚魔法ならば、結界の内側である学園内に召喚が可能です。結界は外には有効ですが中には貧弱なので。」


 「それで、なんでフレイムキラー?」


 「先ほども言ったとおり、簡単に私を倒すことができる可能性があるからです。フレイムキラーは見ての通り大きな炎の大剣を携えております。そして炎魔術が得意な私に一方的な有利があり、周りが炎で包まれているのなら、フレイムキラーのエレメンツだけあれば容易に召喚が可能な点です。」


見ての通りと言われても絵心がなさすぎて大剣を持っているようには見えない。


 「そして炎の中のフレイムキラーは最強クラスの能力を誇ります。それならば私は倒されてしまうだろう。ということです!」


自分の生き死にをそんな簡単に語るなんて、流石クリスと言うべきか、それとももっと自分を大切にしてほしいと言うべきか。

どちらにせよ、クリスが言うなら本当なんだろう、でもまだ疑問は残ってる。


 「でもなんでピンポイントにフレイムキラー?」


 「調べました。ナリタの名前を使ってここ数日の合間にフレイムキラーが生息している大活火山付近にエルフの目撃情報があるかどうかを。」


 「そんなとこまで?」


 「私は抜かりなく行うので。それで案の定いましたわエルフ、しかも何やら魔物がいるあたりを積極的に練り歩いていたらしいです。」


 「て言うことは。」


 「私の仮説は可能性の中でもかなり確率が高いと思います。もちろん外れることもありますがね。」


 「そう、だよね?」


 「はい。ですがしないことよりもすること。用心に越したことはありません。少ない可能性に目を瞑った結果は歴史が教えてくれてますわ。」


クリスの言う通りだ。そしてそれ以前に私はクリスの言っている言葉に信頼を寄せている、彼女ならば嘘はつかないし言っていることの8割型が実際に起こることだと。


 「さて、こんなところですね。証拠の書類もここにありますので、今の話をラナさんが学園長に告げればおそらく相応の対策をしてくれるはずです。」


 「クリスが言わないの?」


 「私はあくまでお手伝い。それに信じるか信じないかはラナさん次第です。加えて、ラナさんが言ってくれなければ学園長の信用に足りるかどうかわかりませんもの。」


 「そっか。」


クリスのこの一歩引いたところから見る視点はなんだか距離を感じる。


 「それと、私かなり疲れましたから今日はもう頭を使いたくありません。正直もう帰って寝たい気分です。昨日は徹夜でしたので。」


 「あ、ありがとう。」


 「最後に。ラナさん、次から悪夢を見た時には私に話してください。それがいかようなものでも予知夢でもただの悪夢でも私はあなたの友人として友人を心配させてください。いいですね!」


 「は、はい。」


クリスの本気の目を見て返事をする。彼女に心配に余計な心配をかけてしまったと自分を反省する。たしかに友人として普通に相談するくらい、してもいいはずだ。それこそしないなんて友人に対して失礼に当たる。


 私はこれを胸に刻みつつ、今の話を学園長に説明した。説明を受け入れ実際に書類を渡してみれば学園長は私の賢さを誉めながらすぐに対応すると言ってくれた。なんだか手柄を横取りしたみたいな気持ちになったしまった。




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