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077話「逃げられなくなった動向」




 クラスタ先輩率いる偵察部隊は予定通り西側方面の偵察を行っていた。この異界において、西へ行くということはそれだけ強力な魔暴が生息しているという意味合いもあったため、ブレクトルコクーンしかり、厳重な大勢で偵察へと望んでいた、そんな折だった。


 「!クラスタさん、向こう側から飛翔する物体……いや人型が!」


 「なに。」


そこに現れたのは、クランクドラインと一度私たちを襲ったことのある魔人族だった。しかし彼らはクラスタ先輩を見つけてから即座に攻撃はしなかった、それはまるで対話をするような面持ちで。


 「フ。」


 「っ総員撤退!」


しかし悪い予感がした。魔人族の二人が浮かべた笑みは決して対話ではなく一方的な、宣戦布告なようなものを抱かせるものだった。そしてクラスタ先輩がそう叫んだもの束の間。


 「きたぁぞぉぉぉぉぉぉ!!!きたんだぁ!人間がアアアッ!!」


少年が隊員の一人に飛びかかりその心臓を穿った。その光景を間近に見せられれば誰もが応戦するという思考に置き換わる、それは人が抱える同法の死に対しての怒りであるからだ。

しかし応戦虚しく、隊員の半数が死亡したところで攻撃は止んだ。だが生き残ったものたちに取ってはそれがどれほどの屈辱だったのか。


 「こんなものか。腕の立つものはいるようだが所詮は人間だな、」


 「……あんな達はなぜ。イタズラに殺したというのか!?」


 「そういうわけではない、これは生贄である。」


 「生贄……そんなの見せしめじゃないの!?」


 「履き違えるな。とまぁこう言ったとしても貴様らには伝わらんだろう。だから、嗚呼────そうだ、これは宣戦布告だ。」


 『っ!?』


 「聞け、我らが世界に足を踏み入れた勇者ども!この声、この言の葉を伝えるは我らが王!!魔王であるッ!暗黒の世界を統べる究極たる者が貴様らの世界を蹂躙する!これは娯楽である、これは酔狂である、だが……貴様らのという存在が真に全ての世界を飲み込むのならば、これは戦である、ゆえに宣戦布告しよう貴様らを蹂躙すると、貴様らを殲滅すると!」


クランクドラインは告げた。その隣で少年は歪んだ笑みを見せていた。魔人族、私たちがそう呼んでいた存在の王、すなわち魔王、魔人王が私たち人間に対して軍事的宣戦布告を決めたのだった。


 「終わりだ。人間、貴様達は己の罪と向き合いながら終焉まで怯えて待つが良い、それが我らの王の望むところである。」


 「ッハハハァァ!」


クランクドラインと少年はそれだけ伝えた、そして再び攻撃を仕掛けようと戦闘姿勢をとり真っ先に攻撃を始めた。


 「クラスタ!どうにか撤退するぞ!」


 「わ、わかってます!!」


クラスタ先輩率いる偵察部隊はなんとか突破して帰還しようとしていたが、それをクランクドラインと少年は許さない、宣戦布告を始めたその瞬間からこの争いは蹂躙ではなく戦争に代わっていた、しかし力の差は歴然であったのだ。


 「つまらんな。何も起こらぬ、変わらぬの光景は実につまらん。そうだ────おい、プレイドル、止めだ。」


 「アァ?」


プレイドル、そう呼ばれた少年は攻撃をやめ、クランクドラインの隣に並んだ。そしてクランクドラインは不適な笑みを浮かべながら彼女達にこう言い放った。


 「人間ども、貴様らに素晴らしい提案をしよう。我々魔人族も初陣がこれで宣戦布告もあぁでは示しがつかない。ゆえに我らは生贄を所望しよう、貴様らの中から一人だけ置いていけ、その他はみすみす撤退でもしろ。」


 『!?』


それは侮辱だった。私たち人間はどうあってもあの魔人族には勝てない、それゆえの施しだった、戦略的に見ればここで撤退するのが正しいのだろう。しかし


 「ふざけるな、俺たちを舐めているのかッ!」


 「舐めるも何も、貴様らには味がしないではないか──。」


 「ッ!」


そう叫んだセルスス先輩の言葉はすぐに切り捨てられた。それは総意であったが同時に個人の意見としてカウントされたのだ、だがクランクドラインは気が短い、そうこの場の誰もが感じていたのだ。それゆえにクラスタ先輩は決断を急ぐ必要があった、彼女に視線が集まる中決めきれない心を持っていたクラスタ先輩は、どん底に沈んでいた。


 (決められない───こんなの!こんなのぉ!)


仲間思いな彼女が誰かを捨てるなんてことはできなかった。そして彼女に向けて立候補する者もいなかった、ここにいる全ての者が消耗しきっており誰も誰かのためにという心持ちではなかったのだ。そんな時だった。


 「私が行きましょう。」


 「!グランドリア、さん。」


 「皆さん、その隙に撤退してください。」


 「待ってくれ、グランドリア、君が!!」


 「…………早くしてください。私の心が変わらないうちに。」


 「────全員、撤退!!」


バーゲルドライン先輩が立候補した。誰もが恐怖で怖気付いている中で、ただ一人仲間のためを思っての行動を見せた、そして沈黙が破られる。


 「いいだろう、小娘。さっさと行け、人間ども……こいつが消費される前にな!」


 「!!撤退ーーー!!」


クラスタ先輩の叫びによって、大勢の死人を抱えたまま、部隊は撤退した。グランドリア先輩という一人の勇気あるものを残して。


 「そう、ですか。」


 「ごめんなさい、わたし……何もっ!」


 「いえ、いいんです。それよりこれはまずいことになりましたわね。」


 「────。一度撤退するべきだろう。」


そう判断を下したナリタテンマ、私たち大隊、及び後方に控えていた小隊はひとまず本部へと帰還することとなった。今回起こった魔人族からの宣戦布告、そして及び異界での様々な出来事を適切に順序を追って処理しなければならないため、私たちはしばらくの休暇を得ることとなった。そして数日が経過した。


 「……。」


いつも大勢の仲間達が利用していた食堂は閑散としていた。みんな心に傷を負い、それぞれの実家や帰る場所へと帰省しているのだ。かくいう私も獣人国の実家へと戻るべきなのだろう。母には時間があまり残されていないということも理解している、だがだからこそ。


 「……お父様。」


父はあの日から目を覚ましていない。ただただずっと目を瞑ったままでぴくりとも動かない、生きているのか死んでいるのかすら私には判別がつかない。でも


 「お願いです、生きていて……お母様を。」


やっと出会えた父に対する願いというのは私個人のものではなく、母の救済のものだった。エルザードおばあちゃんの口からはもう母は長くないと聞かされていた。立つこともままならず日に日に確実な死へと向かっていっている、私の顔も見せて欲しいと言ってくれたが。


 (そんな資格ないんですよ、だから……だからせめてお父様に。)


父は母の希望だ。私よりもかけがいのない存在で私よりも大切な存在、そんな父だからこそできることがある、だから今はただただ。


 (早く、目を覚ましてください。お父さん……)


そうして私は目を瞑った。気疲れからか、私はそのまま眠っていた。それとも変化はしているが父の姿を落ち着いたところで久しぶりに感じたからだろうか、昼を過ぎ夕方となり部屋の明かりだけが唯一の時間となっていた頃だった。


 「?お父様………」


そこに父の姿はなかった。




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