076話「先延ばしの再会」
「……お父様っ!!」
戦闘が終わって真っ先に駆け出したのはクリスだった。その姿を見て私もようやく目の前で起こった苛烈な戦いが終了したのだと理解し、ナリタテンマと自分の父が倒れている場所まで現実味を持たないまま走り出したら。
「クリス回復を──私ならこれくらいでは、」
「黙っていてください!」
剣を杖にして立ちあがろうとするナリタテンマ、そして倒れている私の父に近づき両手で回復魔術を使い始めるクリス、いつもの冷静沈着さとは比べて息を切らしているところを見るに焦っていることは誰の目にも明らかだった。
「私も手伝う!」
私も近づき回復魔術をナリタテンマへと施し始める。
「クリス……。私はこのくらいでは。」
「少し黙っててください、怪我人は動くと面倒ですから。」
「あぁ。」
「なぜあのくらいの攻撃を回避しなかったのですか?」
「───受けるべきだと思ったんだよ。あれくらいは、」
「ほんとうに、そういう意味のわからないものは。私は嫌いですから。次からやらないでください。」
「……わかった。」
クリスの怒りを中心に複雑に絡み合った言葉はナリタテンマを困惑させつつも納得させた。その様子に一安心の気持ちでいる私だが目の前でナリタテンマに刺され、動かなくなった私の父にそっと目を向ける。左胸の内臓を斬らないように立ち回った傷はクリスの回復魔術によってたちまち回復していった。
「……クリス、回復魔術。」
「え?なぜ……!」
「?」
クリスの驚く顔に私は疑問を抱いた。回復魔術の効力によって傷口はものすごいスピードで治っていく、だが彼女の驚き具合からしてそれは望むところではないということがわかる。
「これが勇者の加護みたいなものだよ、見たことないんだろ?肉体の回復速度、身体能力全てが人間離れ獣人族にだって引けを取らない。」
「!うるさいです!」
「私の傷がすぐ治るのも、こいつの傷がすぐ治るのも同じだ。だが、流石にお前は人だな……安心していいのか。」
「人?」
「………見てみろ。」
私の疑問にナリタテンマは全身を覆い隠されていた布切れを払い上げ、父の体のラインをわかりやすくした。だが私の目に入ったのは五体満足の父ではなく。
「………ぁ、そ」
右腕がない。父の姿だった。
「腕が、欠損しているのですか?」
「それと右目もだ。さっき戦っている時に気がついた、ガードが甘かったからな…」
「これは、」
「流石に人であるこいつは治せない。体の欠損が治せるのはもっと魔族とかその中でも指折りじゃないとだからな。」
ナリタテンマは落ち着きながら、どこか悔しそうに語った。私はその言葉を聞きながらただただ呼吸をするほど精一杯であった、やっと出会えた父が、父の腕がなくなっていた父は私のせいで大切なこの世に二つの腕のうち一つを無くしたのだと、そう考えるだけで視界が揺らいで今まで感じまいと堰き止めていた何かが溢れ出そうになった。
「ラナさん?」
「、大丈夫。」
大丈夫ではない、大丈夫ではないけれど今の私には我慢して誤魔化して首を振ってまとわりつく吐き気と気持ち悪さをできるだけ感じないようにするしかなかった。罪悪感という名の悪魔は私の心に救ったままだけれど。
(それでも父を母の元に届けるまでは。)
これを耐えなくてはならない。罪を犯した私は、これを耐えて最後に罰を受けるのだ。
「……こいつが目覚めるまでしばらくはある。今のうちに拘束しておこう、クリス。」
「拘束、ですか?」
「あぁ、やってくれるな。」
「………」
返事をせずクリスは魔術を使って父の体を念入りに縛りつけた。
「どうしてこんなことを?」
「こいつは肉体的に止めただけだ。精神はいまだに荒野を彷徨っているんだよ、また暴れたら止めるのが難しい、そこで……プラノードだ。」
「私が父の精神を取り戻すと?」
「そう信じている。」
(……私にそんな資格なんて本来はないのに。)
信頼に対しての回答は黙秘した。しかして心の中ではいまだに罪悪感がつきまとう、私なんかが父の心を、あの厄災と化していた父を元に戻せるなど到底思ってないからだ。
(父は、父は私のことを恨んでいますよね。)
「ではラナさん。お父様をよろしくお願い致しますね。私は自分のお父様で精一杯なので、」
「あ、うん。」
魔術の腐りで縛られた私の父を背負う感覚は如何せん慣れなかった。だが背負った瞬間に感じたどこか子供の頃に感じた懐かしい記憶は私の心をかき乱していた、いつも感情があまり出ない私が壊れてしまったように自分自身思う。
三人で少し早足で座標133DGへと戻った。向こうにはクラスタ先輩がいるがナリタテンマ、そして副隊長のクリスがこっちにいる分戦力配分的には五分五分でも単体の突破力はこちらの方が上だった。この空気感で共有されるクラスタ先輩への心配は私にも伝わっていた。
「……お父様!」
クリスが真っ先に返事をした。異変に気が付いたという態度だった、私もすかさず前方を見ながら目を凝らしもうすぐ到着予定の133DGを確認した。
すると、そこには多くの仲間の負傷兵たちがいた、全員敗走という面持ちで回復系統の魔術魔法が得意なファルニアと比較的マシな隊員が忙しなく動いて救護活動にあたっていた。
「!」
その姿に足を早めたのはクリスだった。魔術によるブーストだけではなく炎魔術の応用で脚から炎を出し蹴りながら真っ先に現場に急行したのだった。
現場は遠目で見た時より酷かった。肉体の欠損はなけれども重度の怪我を負った仲間たちが簡易的に用意された布の上に寝かされ、あるものは顔に真っ白な布切れまで被せられていた。それが何を意味しているのかは若い私ですら知っている。
「副隊長!隊長に、プラノードさんまで!!ご無事で!」
そう真っ先に口にしたのは、現場に指示出しをして不安そうな顔をしていたクラスタ先輩であった。
「ペリーさん!大丈夫ですか!?」
「…っ、いえごめんなさい。部隊を任されていながら、この…ザマで。」
「いいえ、貴方は大丈夫ですか?!」
「………すみません、でも大丈夫でいないと、いけないのでっ。」
今にも泣きそうな声でクラスタ先輩は語る。彼女は先のブレクトルコクーンの戦いで仲間を失った時かなり心を痛めていたクリスもそのことを察してか、彼女の肩を掴んでは怒りではなく心配の顔で接していた。その優しさがペリーにも伝わったのだろう。
「よくがんばりました。………状況を報告できますか?」
「は、はい!!報告させていただきます!」




