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074話「勇王対かつての神」




 今でも覚えている。それは空が暁に染まる頃の話だった、俺とアイツは墓参りをしていた。といってもその下に誰かが眠っているというわけではない、いわゆる死体すらなかった迷える魂たちを納める鞘のような形をした慰霊碑だった。墓守が丁寧に今日まで磨き上げてくれていたのだろう戦争が終わって再び戦争が始まってまた終わってそんな怒涛な日常が俺の周りで起こっていたっていうのにその慰霊碑だけは暁色に照らされながらも依然として作られた時と変わらず白さを保ったままだった。


 「天馬、お前に渡すものがある。」


墓参りを済ませた俺たちは思い出話に影を作って話していた。そんな暗い話の中で切り出されたのは文字通り剣の形をした武器だった。

忘れるはずもなかった、アイツの手に握られた武器は俺が魔族との戦争、そして先の人と獣人との認められない戦争で使用していた勇者の剣と呼ばれるものだった。


 「これ……っ!」


久方ぶりの相棒(武器)との再会。ただ俺の心境は複雑だ、会いたかったような会いたくなかったような。それこそ目の前にいるアイツとほとんど同じ感想だった、もしかしたらそれよりも複雑だったかもしれない。これはいわゆる元カノと会う男の気持ちだったんだろう。


 「受け取れない……」


ゼルが何も言わず近づき、剣の譲渡がされるとき、俺は理性を振り絞ってそれを一度拒絶した。俺はその剣で間違いなく自分を守ってきた、自分の背後にあるはずの人々を守ってきたはずだ。ただそれが同時に意思あるものを踏み潰して殺してきたのもまた事実だった。

いつからだろうか、それが仕方ないと感じて自暴自棄に誰かの命令に従う機械になっていた頃は、あれは自分の中で最悪の体験だったと記憶に残っている。

だからこそ、もう二度とそれの剣は握ることはしないもう自分は戦士ではないのだと。戦士になってはいけない人だったのだと。


 「……いいや、お前が持つべきだ。」


 「だから!それはいけないんだよ!お前だってわかっているだろう、俺が何をしたのか!?」


 「わかっていて渡すんじゃない。お前は扱うことができて、そしてお前が適任だと思ったからだ。」


 「………ぇ。」


ゼルは友だから、自分が元勇者だからその剣を渡すというよりかはまるで資格があるから、ある時この剣を持っていることが大事になる時が来るから、そんな意味を含めた言葉でそれを俺に押し付けようとしていた。


 「この剣は俺(神)という存在の、力の側面が具現化したものだ。もっとも人の手で完璧に扱うには後数千年かかるが、でもお前以上の適任者はいない。」


 「ま、待てよ。それじゃあお前から力を──取り上げるって…!」


 「そうだな。もちろんこれが全てではないが、だがいずれ俺は良くないことに巻き込まれる。」


 「!」


 「そういう気がするんだ。そしてその中で俺の精神はいつかの魔族であった時よりも酷くなるだろうな。」


 「っんだよそれ!どういうことだ!!」


胸ぐらを掴んで怒りに満ちる俺にゼルは何も反応しない。ただ目を見たままこれから起こるであろうことを淡々と伝える機械のような冷たさだけがあった。


 「きっと、起こる。そういう確信だけがあるんだ面倒なことになる……だからその時戻すためのストッパーがいる。」


 「それが俺ってことかよ?なんだよ!なんだよ!!言っただろ、俺は勇者じゃない!もう成田天馬じゃないんだぞ!!」


 「……だがお前は俺の信頼のおける人物で、今や正道を歩む勇王だ。」


 「っ!」


 「これはその選別だ。使いたくなかったら使わなければいい、捨てたかったら捨てればいいだからひとまず俺の元からお前に譲っておく。」


そう言いながら期待と穏やかな顔をしながらアイツは俺の中にそれを埋め込んだ。まるで精神物をそのまま体に送り込むほど穏やかにそして特別なことが起こらず俺の体はその力を自然なまでに受け入れた。


 「………きたねぇぞ、ライ、雪島靁!!!」


 「当たり前だろう。だが、俺はもう……ゼル・プラノードだ。」


 「─────。」


肩をたたいてゼルは俺を通り過ぎていた。その姿はなんとも非人間っぽくて魔族のアイツと瓜二つだった、本当に最悪の気分だった。

大きいため息と苦しい笑いを浮かべながら心に決めた。


 (いいさ、お前が見たんのなら。俺だってやってやるよ、雪島靁としての最後の願いってやつを聞いてやるよ。)


前提として、俺の中では以下のことが確立している。それゆえに雪島靁という人間の言葉は見逃すことが決してできないのだ。


 (雪島靁って奴の言った言葉は全て本当になる。)


それが如何なる形であろうとも、いつか自分の前に立ち塞がる試練となる。アイツはそういう意味じゃ始めから終わりまで永遠に預言者なのだ。たった一人の悲しい預言者であるのだ。


 「───────さて、」


一瞬の塾考から解放されて目前に佇む厄災に本腰を入れる。背後には自慢の娘ともう一人のアイツの娘、きっと俺の背中は赤いマントに隠れているかとても凛々しく見えているに違いない、そうならばどれほど嬉しいか、だってかっこいいはずだからだ。普段娘から散々な言われようでもこの活躍の最後くらいには褒め言葉がもらえるはずだ。


対して向こうの懐かしい姿をした俺の親友は意思なき獣状態、こりゃあ魔族の時よりも精神状態が酷いゾっと軽い診断を心の中でする。空気を読んでくれているのか律儀に俺と一定の距離を保って待っていてくれている。初動を譲ってくれる気遣いは相変わらずだ。


 「……行くか。」


口調を大きく崩す。ここから先は勇王ナリタテンマじゃなくて、勇者成田天馬として振舞うからだ。


撃ち込みは大きく。

大昔に教えられた攻めの方をもう一度頭に思い出させる。けど体は覚えているようだった半月の半年間の修行ですっかり俺は後世、体が整えられてしまった。ゼルに勇者の力を没収された時に体の感覚も没収されてなくて助かった。

さもなければクリンタルという偉大な師匠の技を緊張で頭真っ白と同じく忘れてしまっているところだ。


 「この剣をもって再び返しにきた。」


 「………。」


 「魔族の時よりも無口すぎない───」


セリフの途中で攻撃するのは強者の特権だ。俺は自分が出せる最高速度を用いてゼルの懐まで潜り込む、今回はこいつと激しいレスバを繰り広げられないから永遠とこっちが話すだけになりそうで本当に嫌気がさす。


 「かっ!!!!」


互いの武器同士がぶつかり合う。砂煙と近くの岩が弾け飛ぶ音が聞こえる。そして勇者の剣と黒の槍が互いにぶつかり合って鍔迫り合いの火花が散っている。


 「───!」


接近されたこいつの取る行動はまず遠距離戦に持ち込み、攻めの型へと形態変化を取るところからだ。それはこの理性ないようなバカにも同じこと。髪の毛の延長線、先の尖った狂気の刃がこちらに飛来する。


それを悠々と回避して距離を取ったと思えば、地面、上、横っとしつこいくらいに四方八方から追尾してくる。勇者の剣に力を込めてこれを迎撃していると向こうのほうからやってくる。


 「わざわざそう来るか──お互い甘くなったなッ!!」


勇王剣を振るって目の前の刃と連携するゼルの一撃を弾き飛ばす。近くにある大丘ごと真っ二つなので威力は相当のもののはずなんだが、流石に向こうもこっちと同じ材質でこっちと同じ勇者クラスの肉体強度、一筋縄ではいかずうまく体を吹き飛ばすだけに収まっていた。


 (やっぱり、これじゃ難しいか。でも魔族のお前より一千倍は戦いやすい!)


地面を蹴って跳躍して、空中で追撃を行う。向かってきた攻撃を踏み台にしていき本体へと急接近する、昔の勘が自分の体をどんどん最適化していき嫌なくらい戦闘上手になるのを感じる。


 「そぉうらぁぁぁっ!!」


雄叫びをあげて力一杯の一撃を放ち、地面へと奴を叩きつける。流石に殺戮マシーン状態のアイツも、意思が宿ってないからか防御が崩れた。いつだって意思宿っている時のお前は何倍も強かったけど、これじゃあ魔王化して暴れ回る化け物の時の方が遥かにマシって感じだった。


 「お前言ったよな、どんな奴も壁にめり込ませたら気絶するって……!」


不適な笑み全開にする。こんなこと言うのは変でおかしいけどお前との戦いは本当に楽しい、生きている感じがする。勇王とか世間じゃ言われてその評価に甘ったれてデスクワークまっしぐらの今の自分にとって、この闘争本能を刺激しまくる戦いは本当に最高で最高だった。ただ二度とこんなことしたくない。


ゼルは武器を手放さない。機械が道具を手放すなんて役割放棄にも等しいからだ。だからその性質を利用する。ゼルの武器をこっちも持ってそしてその右腕がなくなって軽くなった体を地面に何度も叩きつける。


見てわかるくらいの巨大なクレーターができているのに、眉ひとつ動かさない。相変わらず戦闘になったら冷徹が増すのは悪いくせだ、ボスだってHPバーで今どれだけ苦しんでいるのかわかるって言うのに。


 「お、ま、え、のォォォォォ!!!」


悪癖はしっかりとラナちゃんに引き継がれてしまった。この責任力の高さもだ。全部あの子は抱え込んでいる、正直言って最悪だお前が二人に増えたみたいに最悪だ、お前は俺の友人でたった一人だから面倒を見れたのにだ、お前だって望むところではないはずなのに。


 「これ以上!お前みたいな奴を増やすかってんだよ!!!!」


 「…………っ」


 「!?」


一瞬反応があったことに気遅れて周囲に展開した刃が攻撃端末みたいにこっちにビームを放ってきていることにようやく気がつく。こっちもこの数年間で腕が落ちたわけじゃない、動体視力は未だ健在だし、人間離れの動きも未だ健在。これを難なく回避する。


 「そんな技使えたんだな。訂正だ、影よりよっぽど使える手足じゃんかよ!」


近接能力の時に絶大な力を発揮するのが魔族の時のアイツだった。ただいまはそれにテクニックが載って控えめにいっていやらしい理知的な戦い方だ。その顔は見えずおおよそ狂気に染まっている言動であるのにこれだから、こっちの気がおかしくなりそうでたまらない。


 (ラナちゃんには、悪いけどさ。ここで、お前の目を覚させてもらう。)


 「─────!」


 「第二ラウンドだ。ただやられて対策無しはお前らしくないんだろ?」


俺の宣言通りゼルは刃の数を倍増させた、その数に俺は少し冷や汗を流すもの体の震えは武者震いだった。


直ちにその刃たちによってのオールレンジ攻撃が開始された。四方八方から物理攻撃とビーム攻撃の二種類が完全ランダムに飛んでくる、圧倒的な身体能力と判断能力、動体視力を兼ね備えた勇者の肉体じゃなきゃまず八つ裂きにされているほどの弾幕だ。剣で防御をせざるおえないほどの数、それでも突破口は一点、俺はあえてその誘いに乗る。


 「─────っぱりな。」


その一点をついてきた俺を出迎えるのは30から先は数えられない無数の槍達、向こうはこっちが近接メインだってことを見越して置き攻めをしてきたってところだった。だが俺も昔ほど直感的で無鉄砲に動く勇者じゃない。


 「対勇者って、こうやるんだろ!!」


俺は自らの勇者の剣を放り投げてゼルの方へと投擲する。ゼルは俺のこの行動に心底驚いたらしくて、構えていた槍の半数が俺の投擲物のガードに回ってこれを防ぐことに成功、しかし相手の判断はやっぱり遅れたようだった。


俺は身軽になった体で全力疾走、槍の攻撃は俺の目の前の武器注目が言ってそもそも俺に目がなかった。俺は投げた自分の武器に追いついて、至近距離のゼルに向けてこう言った。


 「………これぞチェックメイトだ!!」


獅子王剣を一点集中して地面へと向ける。すると俺を中心にして大爆発が起きて視界は愚か体は炎に焼き尽くされることになる。こんな野蛮で自己犠牲が当たり前の行動を俺がやると思っていないだろうな、と俺は炎の先にあるゼルの顔面を鷲掴みにした。


 「捕まえた─────」


 「っ!?」


ゼルの頭に向かって渾身の頭突きをかます。こっちもすごく痛い、だけど相手の方がもっと痛い、それを見越してからか人間らしい反応をしたアイツにニ、三回、思いっきりの頭突きを構えす。それこそ脳震盪で気絶どころか即死まで持っていくほどに。


 「目を覚ませって!ゼル!!!」


 「!」


俺の言葉に動かなかった奴が少しの反応の後に黒槍を俺の顔目掛けて突きつけてきた。片腕で重苦しい一撃を受け止めそれを弾き飛ばす。手からやっと武器が離れたのを確認して俺はその方に向けて剣を突き刺した。


 「──────っ!」


だが動きが完全に止まる一瞬、足掻きか奴の刃は俺の背をズタズタに引き裂いていた、痛み的に肉がかなり切り刻まれたような気がするがそれは今では些細なことだった。


 「……この、往生際が悪いぞっ」


ゼルも俺も当たる場所が悪かったら即死である。だがこうでもしなければこうしなければこの武器は、勝利は俺に決して微笑んではくれなかっただろうし。


 「なによりお前は戻すのが一番面倒なんだよ、な。」


疲れた声でギリギリの笑顔で目の前の真っ黒になった友人にそう言った。




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