072話「偵察作戦」
大規模作戦が終了し、現世時間にして約1ヶ月が経過した。座標105Bまで進行することができるようになったためこの機に小隊と任務を交代し、異界での拠点設立などが進められた。最前線とされる105Bでは改良型の聖魔法結界が使用され強固な城壁までもが作られた要塞が出来上がっていた。本来の工事と違い小隊の魔術師たちが突貫工事で作り上げたため、一見脆いという意見も見られるがそもそも城壁が時として役に立つかどうかわからない以上。私たちにとってはあるだけマシなのである。
大隊は今回の大規模作戦で欠けたメンバーを埋めるようにそれぞれが独自に訓練を開始し始めた。お遊び気分で来ているわけではないものの魔人族なんて連中と鉢合わせれば誰でも現状に常に満足しなくなる。
そうした1ヶ月を経て、私は再度異界へと足を運んでいる。今回の任務は偵察である、特殊な装備にはないものの以前のものよりグレードアップした対異界用装備が支給され、実感するほどの性能がこの荒れた大地でも体感できるようになっていた。
「ラナさん、刀の調子はどうですか?」
新調したのは防御面だけではない。武器まである、前回の魔人族との戦闘によって自分でも気付かないほど刀は刃こぼれを起こしていた。一途に私の扱い方が下手くそなのだと言ったのだが、クリスはこれに首を振り次までに直してさらに良くして見せると言ってくれた。
有言実行の通り、刀は返ってきてさらに魔術式が刃の部分に加えられ前回に比べてデザインもよりシャープになっていた。
「いい感じだよ。クリス、わざわざ改良してくれてありがとう。」
「いいえ!それより私の贈り物を大切に使ってくださって私の方こそ嬉しい限りですわ!」
「刃こぼれしたのに?」
「それはそれだけ使い込んでるからですよ。そもそも刀を渡したのはもうニ年前のことですし、そろそろラナさんのためにもアップデートが必要かと思いまして。」
「今度は魔術式も組み込んだの?」
「はい。具体的には靭性強化と属性透過を付与しております。」
「属性透過?」
「ラナさんが魔術を発動する際、その属性を魔法式によって一時的に再現するものです。簡単に言えば刀そのものに属性が付く感じなので、魔術および魔法使用時アクションリスクを減らし抜刀術に自然と織り込めるはずです。」
「へぇ!!あ、これ。」
「もちろんリミッターを設けています。魔術神経が正常稼働しているうちのみです。ポテンシャル低下なども判断基準になるので、文字通り意思なき剣に力は宿らずってことです。」
「ありがとう。これ相当したでしょ?」
「大したことありません。素材にはオリハルコンを使用しましたから。」
「え、オリハルコンって言った?」
オリハルコンとはこの世界に存在する最高硬度の金属である。その特性はなんと言っても優れた耐久性、オリハルコン性の武器は腐食することがなく永遠に輝きを保ち続けたまま一度制作してしまえばその武器の存在は一生安泰だと言われるほどである。
「はい。ドワーフの里まで赴いて里一の鍛治氏バートンという方に制作させていただきました。」
「そんなことまで……なんか使うのにためらっちゃいそうですね。」
「そう言わず!ラナさんの専用装備ですから!!」
「うん……うん〜。」
友人の押しが強い。昔からお願いを断りずらい私だがこればっかりはと言いたくなってしまう。純白の刀剣はこの暗黒の世界であろうとまっすぐな輝きを保っている、武器を扱う者としてありがたい限りではあるがそれでも唸ってしまう。
「では、次の休みにデートというのでそれで手を打ちませんか!」
「デート、それでいいのならいいんだけど。本当にいいの?」
「もちろん!!ラナさんとのデートなら私は大歓迎でございますっ!!」
デートとは恋人同士がする者じゃないっけ?とか考えながらまぁクリスなら大丈夫だよねと思いつつ私はそっと刀を懐へとしまった。
友人が私のためをすごく思ってくれることは理解しているけれほども、私も何かクリスに本当にすごい恩返しをしてみたいなと思う。今の所クリスに助けられてばかりであることには変わりないことだし。
「大隊集合!」
「っと、集合ですわ。いきましょうラナさん。」
「うん。」
ナリタテンマの集合に私たち大隊は集結した。この1ヶ月誰もが仲を深めるという行為よりも二度とあんなことを起こさないという決意のもと動いていた。そのせいか全員の顔立ちが違って見える、言い換えれば怖くも見える。
変わってないのはファルニアやプリエル、そしてもちろんナリタテンマとクリスなどの馴染みがあって尚且つスタンスが変わらなさそうな人ばかりだ。
「今回の任務は偵察である。偵察の目標は件の作戦にて撤退を余儀なくされた133GDの偵察である。そこからさらに西側へと進行する。また今回の偵察では私を主体として動く部隊とクラスタを中心にして動く部隊の二つに分ける!」
「……!」
名前を呼ばれたクラスタ先輩はより一層顔を整えて、まっすぐ前を向いた。しかしその表情にはどことなく自信のなさが垣間見える。
クラスタ先輩はこの大隊の中でも珍しいくらいの気弱な人だ、ただその能力は戦闘というよりも統率向きでありあのクリスが手放しで褒めるほどの能力がある。だがそれぞれが独自に動くことが得意なこと大隊の中ではクラスタ先輩をあまりよく思えない人もいる。実力主義の中ではその才能が垣間見得なければ難しいのだ。
「私の部隊は北方面の調査に向かう。また、本偵察において魔人族との接触があった場合どんな手段を用いての逃亡を許可する。命を必ず持って戻って来い!」
『はい!!』
「以上。」
ナリタテンマの話が終わるとそれぞれ装備の点検に移った。もちろんクリスは私の隣でそれを行っていた、徐に私と話がしたいという意思表示にも見える。
「お父様も相変わらずですね。定のいい理由を作るのが。」
「どういう意味?」
「前回あの厄災……失礼。ゼル・プラノードが来た方向がちょうど北側だったのです。」
「言われてみれば。」
「お父様は今回の調査であわよくばしっかりとしたコンタクトを取るつもりなのでしょう。現にお父様側の調査の配属は私とラナさんとお父様です。」
「……三人だけ?」
まずくないのだろうか?という意味を含めて私はクリスに聞いてみる。クリスは口を尖らせながら肩をすくめた。
「正直、風当たりは強くなりましょうね。お父様は相変わらず前が見えているのか見えていないのかわかりませんから。」
「…………。」
クリスの手前こんなことは死んでも言えないけど、やっぱりナリタテンマとクリスは本当に親子なんだと実感する。




