071話「そんな夢ばかりを」
鋭い刃が私の首元に当たる。その瞬間、ここが戦いの場だったと思い知らされる。
「っ!」
甘えられた攻撃を大きく身を翻して回避する。後方に下がる私を容赦無く追いかける敵の姿はない。というよりもその敵というにはあまりにも殺意も敵意もない相手に私は苛立ちを覚えていた。
「………」
敵の姿は全身真っ黒で靄がかかっていた。判別はできないが私はその人の名前を口にできるし断言できる。ただそうするとそれが相手にとって不愉快なのか攻め入ってくる。
「──こんな、こと!」
腰に据えられた刀を引き抜き相手の攻撃をガードし続ける。攻めではなく守りの思考、私がいかにこの人物に対して弱気に動けているかというのがよく体に出ていた。
「もう──私の邪魔をしないで!」
いつからかこんな夢ばかりを見るようになった。あの若い時まではどうしても届かない手を必死に伸ばして涙を堪えて少女らしくしていた私が今はこの惑わしい幻影と戦う夢しか見なくなった。それは、ナリタテンマから父の話を聞いたせいだったかもしれない、それともいつのまにか私の中での父はこれほど強い存在に格上げされたからかもしれない。
私の幻影は記憶の中にある父とは似つかない姿をしていても、私はこの存在が父であると知っている。私という弱さが作り出したどこまで私を叩き潰してくる試練だ。
「────っ!!」
守ることに嫌気がさした私は大きく一歩前へ。攻めの姿勢である。ただそれも剥き出しの感情を抱えたままのなんとも粗末な攻撃だった。父は私の攻撃を受けてもなんとも思っていないようだった。その手に握られた不可視の武器は何度も私の怒りの攻撃を弾き、そしてただただ静観している。
「私は、私は!ようやく貴方に会える、そうでしょう!?ならなぜこんなことを続けるのッ!」
「………。」
父は何も言わない。ただこれで終わりではないと私に無言で訴えかけ続けている、その姿勢が気に入らないのだ。私は貴方を探すためにここにきたのであって、貴方を超えて倒すためにここにいるのではないと。
「こんなこと、こんなこともういいの!こんなあるはずないこともういいんだよッ!!もう私の前に出てこないで!もう──私の試練でいないで、お願い……しますっ!」
「…………。」
私の叫びを聞き届けたのか父は大きく体を広げ、止めを催促する。その姿勢に今度は自分がトドメを指すという現実に耐えきれなくなってその場で武器を投げ捨てては泣き出す。
「ちがぅ、ちがう!私は───貴方を探しにきたんだよ……なんで?なんで、こうするしかないの。」
「………。」
私の不可解すぎる行動に嫌気がさしたのか父は再び不可視の武器を手に取り、私の頭上からそっと振り下げた。
結果として私は自分の頭を叩き潰され、脳の中身を空間にぶちまけたのだと思う。どちらにしても目も口もなく意識だけとなって漂う私にとっては後のことなど些事的な気持ちで向き合うしかないのだ。
(ただ、私は父を探しにきたんだ。父と戦うつもりも父を殺すつもりもないのに。)
これをただの夢と切り捨てることができれば良いのだろう。現実ではこうはならない現実は何事もなく親子との再会で終わる。
(でも、近づいてくる現実が。そうじゃないってこともわかってるよ……っ、お父様。)
前提として私の夢は予知夢であることが大半である。結果は変えられるかもしれないが、その過程はどうしようもなく現実に沿うものである。




