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070話「その後ろ姿は」




 厄災が多勢の魔暴を相手にしている隙に私たちは座標133GDから離脱。現在はストームラビリンスを大きく迂回した105Bという地点にいる、ここはストームラビリンスの攻略が難航した際のサブプランで攻略する予定だった中継拠点用の座標である。

いつか攻略するという意味では今回の作戦には含まれていないものの、もともと安定した立地があったため私たちは再度ここで魔術結界の構築と安全確保を行い、自分たちの拠点としていた。


突然の事態の連続にここまで判明した情報の統括なども行われた。クリスがクランクドラインとの会話で入手した貴重な情報、そしてストームラビリンス踏破の時のデータ、現在確認されている魔人族の二人に関する対応についてのミーティングなどが簡易的に行われた。


加えて今回手に入れた情報などを持ち帰るにあたって現場で残り続ける組とこのままストームラビリンスを迂回してでの現世への撤退を目的とする組の選定が行われた。

私は他より精神面体力面の余裕があるというところで現場居残り組へと選定された。ナリタテンマも同じである。


クリスは魔人族との交渉などもあり、表面的には出ていないものの撤退組に加わることとなった、本人は嫌がっていたがナリタテンマによる命令だった。


 「プラノード。」


 「ナリタテンマ。」


気軽に挨拶してくる彼の顔を見た私は武器の手入れを一時的に中断し、会話をする心構えをしていた。なぜそう思ったのかはうまく形容できないものの、ナリタテンマがこうもフランクに接する時は決まって私事のように思える。


 「クリスを帰したんですね。」


 「あぁ、あの子は私よりもひどく我慢強いからな。こうして休む隙を与えてやらないと、いつ途中で限界が来るかわからない。」


ナリタテンマの気遣いはドンピシャだ。ここのところクリスは全体指揮に加えて最前線における戦闘などで精神的にプレッシャーが酷くかかっている。責任感が強い彼女が仲間を殺されたのに気丈に振る舞っているのは明らかにプライドによるものが大きい、だがそれが生身の感情を押し殺しているのも、わかりにくいが事実だ。


 「よく見てますね、」


 「君の方こそ。私は……あの子に嫌われているからな、嫌われたやり方じゃないとあの子を助けてあげられない。」


 「……クリスもナリタテンマに感謝していますよ。」


 「そうか、君が言うと本当なんだろうな。」


 「………。」


私はクリスの思いを尊重している。だからこそ、無理してでも気丈に振る舞って頑張るその姿を応援することはできる。ただナリタテンマのように経験があるわけではない、彼はきっと人の限界というのがよくわかる人なのだろう。その私との経験の差が時に親心とか誤解されてしまうサポートになるのだ。

でも、今考えてみればクリスに必要なのは後者なのかもしれない。


 「私になにか、話しておきたいことがあるんですよね。」


 「………。」


ナリタテンマは察しがいい私の言葉を聞いて開いた口を閉じた。彼はどこか気まずそうな表情をしながら一呼吸後にこう話し始めた。


 「先ほどの厄災についてだ。」


 「……厄災、彼らが言っていたんですよね。」


 「あぁ、間違いなくあの魔人族と敵対関係の存在。それどころかどの勢力にも所属していない存在と見るべきなんだろう。」


 「……ナリタテンマはどう見ているんですか?」


 「あれは、そうだな文字通り全てを滅ぼす存在だ。正確には数年前の残滓が再び蘇ったと見るべきか。──そのことで君に話すことがある。」


 「………あれが、もしかして。なんです、よね?」


 「……あれはゼル・プラノードだ。」


なんとなく、本当になんとなくそうなのかもしれないという直感が私にはあった。それは確かなものじゃなくて本当にそうなのかもしれないとなんの根拠もない曖昧なものであったけれど、いざナリタテンマという父を知っている存在からそう言われるとショックは大きくて声すら出なかった。


 「どういう、ことなんですか。」


 「君には話しておこうと思っていた、だがそれは今義務に変わった。ユキシマライ、あいつが昔そう呼ばれていた時の話をしよう。」


ユキシマライ。

それは数年前魔王を倒すために異世界から呼ばれた勇者の名前であった、公式記録にある勇者の四人。オトカゼカナデ、ウチムラショウジ、アマミヤナツ、そして今隣にいるナリタテンマ。でも本当は五人であった、当時から王家が隠し続けていたもう一人の勇者のの名前、それがユキシマライだった。

だが彼はとある事件がきっかけであろうことが望まぬ形で魔族となってしまう、それが世間的には悪い情報だったのだろう。ユキシマライの名前は勇者の公式記録としては外れてしまった。

そんなユキシマライは魔族でありながら魔王としての適性もあった、そうなる前にナリタテンマが友人であった彼を殺したのである。


そしてユキシマライは記憶を失い、ゼルという一人の人間として獣人国で時を過ごし、その後再び獣人族と人間族との戦いでナリタテンマと対峙することとなる。


戦争が終わるとゼルという人間はゼル・プラノードとなりそして私の父となった。


 「それがユキシマライ。私の父の最初の名前。」


 「隠していたこと、すまない。」


 「いえ、父のことを気にしてくれていたんですよね。」


 「アイツにはこの名前は似合わないと思ったからだ、勝手にな。それに必要だったらアイツ本人が自分から言っていたからな、私から君に伝える資格なんてないと思ってたんだよ。」


 「………今の父はその魔王の状態だと?」


 「いや、ゼルになってからのアイツは魔族としての素養、要は生物学的な力を失っている。あれはそうだな……摩耗した精神に、体が防衛的に一人歩きをした状態だ。アイツの心は今眠って体は自己防衛のために目に入る全てを殲滅する思考なのさ。」


 「…」


 「アイツをもう一度こっち側に引き込まないとな。幸い、魔王化より酷くない。」


 「……父を戻せるのですか?」


 「戻してみせる。そのための私の勇者の力だ。アイツが最後に信用して渡してくれた神の力、皮肉なものだ。アイツが言ったことはいつだって本当になってしまうんだからな。」


 「………。」


 「プラノード、君には最後の仕上げをしてもらう。」


 「私、ですか?」


 「あぁ。力勝負なら俺がアイツに勝つこともできるが、人としてほんの最後に思い出させるにはやっぱり君の方が適任だ。アイツは身内のためなら戻ってくるやつだからな。」


 「………父は、そうなのですね。」


 「───君の方が、私よりもゼル・プラノードを知っているさ。あった時の文句でも考えていてくれ。」


ナリタテンマはそう言って離れて行った。その後ろ姿はまるで終活を目指す人間のそれに酷似している。でも、同時私がその後釜を担って最後のピースとなることをどこか暗喩しているように見えた。




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