表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/96

07話「バレる」





 「………。」


学園長に予知夢のことを報告した私は特にいつもと変わらない日常を過ごすのだった。そう、予知夢のことは学園長と私と大人で対応すべき問題、友人や誰かに言いふらしたりして不安を煽るなど絶対にしてはいけない。


だが、それで私自身が安心しているか?と言われたら別だ。一人で抱えるということに慣れたつもりではあるものの私はまだ自分の弱さを実感する。


目を瞑って自分の世界に集中するたびにあの地獄のような光景が脳裏をよぎる。自分の友人がまた助けを求める声が容易に聞こえてくる、曰く私は顔に出やすいらしいだから必死に隠そうとしても。


 「ラナさん?」


 「ん?」


 「どうかしましたか?」


クリスと昼食をとっている時だった。また私は体が止まっていたらしい。悪夢一つでこのようなことが起こるとは私の精神もまだまだだ、誰かに悟られるようなことを決してさせてはいけないのに未熟な私の精神はあの時の地獄に恐怖してたまに思い出しては硬直してしまう。


 「ごめんさない、ちょっと授業でわからないことを思い出していて。」


 「あら、ラナさんでもわからないところがあるなんて意外ですわね。」


 「ラナ先輩、成績優秀だから私もいつもわからないところなんてないと思ってました。」


 「…まさか。私もわからないところくらいありますよ、完璧なんかじゃないから。」


そう、でもここのところだけは完璧にしておかないといけない。この予知夢があることはすでにクリスには話してしまっている。だから特に勘探りな彼女に悟られるようなことはしてはいけない、このことを彼女が聞けば暴走する危険性がある。クリスはいささかか保護的な側面が見受けられる、それに私としても友人を不安にさせるなんてもってのほかだから。


 その後も授業中、休憩中。私の悪夢は至るところでその鱗片を見せつけてきた。なんとか落ち着こうと心の中で決めていてもその光景が脳裏をよぎった時はなんとも言えない気持ち悪さと胸の奥が焼けるように熱い病のような症状に襲われる。

私がこの予知夢のことを病と呼んでいる理由がそれだ、これに向き合おう努力してもこの症状は出る、かといって無視しようとしても出る。

逃げ場などなくただただ迫ってくる時間に怯えながら日々を過ごさなくてはいけない、予知夢という便利で事前回避ができる能力を持った者が背負う十字架のような感じがした。


頻度は多くないはずなのに私はこれに恐怖を抱き続けている。もしあの光景になってしまったらというありえざる未来への恐怖、誰かが死ぬのも誰かが終わるのも、自分が死んでしまうのもごめんだ。だからと力を身につけても、あの未来がやってきた時私は誰も助けられずに地獄にただ一人佇んでいるだけなのだろうと。


 「……っふ、ぅ。」


そう考えると泣きたくなってしまう。自分は無力のままだと叩きつけられるように、自分は全くあの頃の弱い時と変わっていないのだと。


 「ラナ先輩、今日私学園祭の準備があるので!」


 「そう、気をつけてね。」


 「はい!さよならー!」


いつも一緒に帰っているラプは手を振って平和な顔をしてその場を去った。今日はまだあの夢を見て1日目、ようやく乗り切ったと大きくため息を吐く。私は顔に出やすい方だと言われたけれど、まだ大丈夫だったらしい。この調子であと学園祭まで数日、うまく隠しきれれば。


 「ラナさーーん!」


 「クリス…?」


 「今日は私と一緒に帰りましょう?」


 「えぇ。でも助っ人はいいの?」


 「はい。大した用事ではありません、私にかかればこの程度の問題はちょちょいのちょいですから、」


 「そっか。」


 「それでは……まずカフェにでも寄りませんか?私、今日はラナさんと話したい気分ですから!」


クリスのこういう突拍子もない誘いは何度もある。慣れてないわけじゃないけど今の精神状態では断りたい、しかしそこから綻びが生まれるのだったらのらない選択肢はないのだろう。


 「わかった。」


私はクリスと共にいつものカフェへと入店した。ここはいつもと変わらず人が少なく店の落ち着いた雰囲気が私にホッとしたゆとりを与えてくれる。クリスは店員さんにコーヒーと紅茶を注文してくれた、いつもは問答無用で紅茶二つを注文する彼女がコーヒーなんて珍しいと思いながらテーブルにはそれぞれ置かれた。


 「はい、ラナさん紅茶を。」


 「えぇ、今日クリスはコーヒーなの?」


 「たまにはビターでブラックなコーヒーをら味わいたいと思いますのよ、あ、味変とかではありません気まぐれですよ。」


そう言ってコーヒーを一口、まるで紅茶を口に運ぶ、しかし彼女は少し飲んだけでちょっと苦い顔をする。淑女たるもの顔には出しても口には出しませんっ!と意地を張っているのか思わず苦いと言わず眉間に皺を寄せながら角砂糖を一つ無言で入れるその姿はどこか見ていて面白い。


 「……ラナさんはコーヒー飲めるのですよね。尊敬しますわ。」


 「私も最初は慣れなかったよ。」


そう言って紅茶を飲む。ここのお店はコーヒーが美味しいが紅茶も負けてはいない。ポル・ランデフラワーという心が落ち着く紅茶は私を今日の悪夢から引き剥がしてくれるような味わいだった。


 「さて、お話でもしましょうか。」


 「うん。」


 「ラナさん────予知夢を見ましたわね。」


 「………。」


 「隠そうとしても、逃げようとしても無駄です。今日の私、話を聞くまで決して返さないつもりですから……!」


ニコッと笑いそう言う彼女の笑いは決して笑っていなかった。怒りと嫉妬と何かが混ざったような影ある笑いだった、本気で怒っている時の彼女はこの顔をする。流石の私も本気で怒ったクリスを真正面から相手にはしたくない、こういう時は彼女の指示に従わなければかの爆閻魔嬢の名が再び学園に轟くほどの大変なことが起こってしまう。

あの地獄ほどではないものの他に犠牲者を出したくないという私の考えから、彼女の指示には従う他ない。


 「はい。」


 「どんな夢か聞かせていただいても?」


なぜ黙っていたのかは聞かない。それはもう知っているからという目をしている。だから私は指示通りに彼女の知りたがっている情報を全て話した。夢の中の記憶、学園長との対策、現在進行している計画について。


 「ふむ。なるほど、及第点ですわね。いいです、では怒るのはこの辺にして別の問題に目を向けましょうか。」


 「怒らないの?」


 「怒りたいですわ。ですが、そんなのが何も生まないことくらいわかってます。」


 「知りたくないの?」


 「知りたいですわよ?ラナさんがどうして私に黙っていたのか、ラプさんは知りませんでしょうから良いのですが、せめて私には教えて欲しかったとひっじょーーーーに気になります。」


 「じゃあ。」


 「ですが、言った通りそんなものは何も生まないんです。それに、私もラナさんとは付き合いが長いですから、あなたがどのようなことを思ってその選択をしたのかわかっています、」


 「………てっきり激怒しながら聞くかと。」


 「ンン、ラナさんにはもう少し私に対する理解度を………。シクシク。」


嘘泣きみたいに泣いているクリス、しかし本当に悲しんでいるのだなというのが伝わってくる。


 「さて前振りはここまで、ではその悪夢を回避するためにはどうするべきかを語りましょうか。」


 「え、でもそれは。」


 「私から言わせて貰えば学園長の対策もまぁ及第点です。ですが、そこに私が加われば満点になります!なのでラナさんは私との会話で出た結論を明日あたりにでも学園長に話してください。」


 「クリスが言えば………」


 「私はエキストラで被害者です。ラナさんが伝えなくては意味がありません。貴方の言葉だから意味あるものにもなる。そういう風に思ってください。」


 「うん……」


 「納得いかないなら、今度スイーツビュッフェにでも連れてってください。まちろん奢りで。」


 「うん、わかった。必ず!」


 「よろしい。では《計略》を開始しましょうか。」


クリスはテーブルに紙とペンを置く。それはメモ書きのようなものだ、クリスは本気になるとこれにとにかく多くのものをメモしていく、そしてその中で適切なものを抽出して、私に伝えやすく裏面にまとめ始めるのだ。

彼女はこれを《計略》と呼んでいる、戦略でも戦術でもなくてだ。


 「まず情報を整理します。現在進んでいる計画ですとラナさんは学園長と話し。以下のキーワードを整理しています。

予知夢で起こった場所は《学園祭の後夜祭》、《多くの生徒がいる》、《私が体を切断されている》、《学園を全て焼き尽くすような業火》がが起こっている。」


 「うん。」


 「そして対策として《人間国の軍備を使用した厳重対策》をあげています。文句はありませんが、ピンポイントではありませんね。」


 「ピンポイントではない?」


それはまるでもっといい策があるとクリスが言っているような感じだった。彼女ほど頭がうまく回らない私は次のように言っている彼女の言葉をただ黙って聞くしかなかった。


 「ラナさん。《学園は燃えていただけ》でしたか?」


 「え?」


 「《燃えて崩壊など》はしていましたか?」


私は思い出す。しかし記憶にあるその学園はただ業火の中にあるだけだった。記憶違いかもしれないが何かが崩れる音はまるでしなかった、それは水の中に何かがあるのと同じように変わらず普遍的に位置する学園だったはずだ。


 「いや、《ただ燃えているだけ。》」


 「なるほど。では次に思い出したくもありませんでしょうが、私の状態についてお聞かせ願いますか?」


 「うん。」


 「よろしい、では私は切断されていたと言っていましたが具体的にはどこが切られていました?」


 「………引きちぎられたのは、片腕、そして切断されたは腹部。」


口に出してて息が荒くなる。あれは思い出したくない。本当に思い出したくない。


 「わかりました。」


クリスはそう言って淡々と自分の未来をメモに書き込んだ、その様子に迷いはない。とことこんクリスは強いなと心の中で思ってしまう。


 「………。」


クリスは何やら考え始めた。目を動かさずただひたすらに頭の中で思考を続けているようだ、瞬きを限界まで減らして体は小さく呼吸するだけで動かしていない。私は目の前に精巧に作られた彫像が置かれている感じがした。


 「ラナさん。身体強化を施した貴方なら、真剣で私の胴体を切れますか?」


 「え?」


 「どっちですか?」


 「き、切れない。」


 「そうですか。」


クリスのおかしな質問にみじろいでしまった。ただ彼女は目を見開き淡々と告げていただけだった。きっと私の心情なんかには構えないほど頭の中ではあるとあらゆる可能性を計算しているのだろう。


 「ラナさん。あの炎は貴方の中で熱いと感じるものでしたか?」


 「……あまり熱くない方。」


 「そうですか。」


二つ目のあまり意味がわからない質問もクリスの中では何かのヒントになっているのだろうと思う。どっちにしたって私が今の彼女にしてあげられるのは情報提供くらいだ。


 「………知識が足りない。」


 「え?」


 「申し訳ありませんラナさん、今日はお開きにします。」


そう口にしたかと思えばとんでもないスピードでメモを書き始めるクリス、速書きを今まで見てきた私の中でもそのスピードはありえないほど早かった、まるで精巧な魔導機械が一寸違わず同じ場所に記すような、そんな正確さとスピードアップ系の魔法を組み合わせたかのような速さだった。小さなメモはよほど丈夫な素材だったのだろう、力が乗ったクリスの筆圧にもギリギリで耐えクシャクシャになりつつもなんとか限界は保っていた。


 「今日だけでは結論が出ないと判断いたしました。ですのでお開きです。明日のお昼に私の計略の発表会をいたしますわ!」


クリスは元のクリスに戻った。先ほどの機械のような姿が偽りであったと思えるほどに。


 「それではまた明日。楽しみにしていてください、貴方のその悪夢を確実に打ち砕いて差し上げます!!」


クリスは去り際に意気揚々とそう言って馬車も使わず走って帰って行った。待機していた馬車の人もそれに慌てたのか急いでクリスの跡を追うように発進させて行った。


 その晩見た夢はクリスがスイーツビュッフェで大玉のようにお腹を膨れさせてしまったある意味悪夢のような夢だった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ