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068話「簡潔」




 謎の魔族もどきを追い払った私たちは座標133GDの安全確保にあたっていた。大隊の仲間達は次々と目を覚まし、回復魔術と魔法が使えるクリスとプリエル、そしてヒール役のカルゴーン先輩に手当を受けさせてもらっていたとは言え全員多少の火傷跡があるくらいであった。その後隊員全員から事情聴取を行い、あの魔族もどきになぜ喰われたのか判明した。


ナリタテンマの思惑通りあの魔族もどきは捕食した分強くなれる性質があるらしく、目的地の座標へと向かう大隊の仲間は突然の奇襲から捕食されるという展開が繰り返されたようだ。それもストームの中でそうだ。


 (どうりで目的地には誰一人到達できていなかったわけだ。)


ナリタテンマとクリスは運良く狙われず、先に辿り着いたものの誰一人いないという事態から、捜索。その間に私が到着し襲われているところにうまく合流できたというようだった。


 傷を完全に回復できた大隊員は全員、本日の出来事を教訓とするようにクリスから言い渡された。ちなみに私とナリタテンマは例外である、理由は明白。危うく部隊の壊滅の危機であったことだからだ、今回は相手が不明で不可思議性も高いことから具体的に言われることはなかったものの、やられた本人達の方がクリスの説教よりもよほど痛感していると私は顔色から窺えた。


 「プラノード、改めて今回はありがとう。君の足止めのおかげで奴から仲間を救うことができた。」


 「いえ、私は……」


クリスの言葉が大隊に響く中、私はナリタテンマとそれを横から見ていた。同じ仲間としてこれを同じ立場で見るのは少し複雑な気持ちである。


 「あの魔族もどき………いや、魔人族と呼ぶべきか。」


 「魔人族ですか?」


 「あぁ、いい名前だと思わないか?」


 「……それは、はい。」


 「それにしてもだ、魔人族は魔族と何かしら関係がある。」


 「やはりそうなのですか?」


 「そうしか思えない。どのみち、この異界はあの時の風景によく似ている、魔王が根城にしていたあの地獄のような世界と。」


 「それが、確信の理由ですか。」


 「そうでもある。どちらにしても我々は人を代表してここを進み続けなければならない。異界と現世が繋がってしまった理由。そして消えゆく人々の軌跡を。」


 「はい。」


魔人族と呼称されたあの少年のことを思い出す。あの人の形を外れた能力は今でも鮮明に思い出すことができる、あの戦った時間は私のたった19という短い人生の中で起こった出来事の中でかなり残り続けるものとなるだろう。


そんなことを再び考えながら私は安全確保の作業を終え、魔術結界の構築へと手を貸していた。魔術結界は魔暴に襲われないための特殊な結界である、本来ならば外敵をも近づけさせない神聖属性という特殊なものを使用しておりナリタテンマの仕様がなければ使えない。

だがこの異界は例によって現世よりも強大な敵が出てくるためこれの使用が許可されている。


 「プラノード、神聖魔術は初めて?」


神聖魔術をいざ使用する時隣で同じく構築を始めようとしていたカルゴーン先輩が私に話しかけてきてくれた。年齢は違えど私と彼女は同期ということになる。


 「はい。訓練で使い方の知識は知っていますが。」


 「そうだよね。私も初めてなんだ、まぁ私たち同時期に入ってきたわけだから。プラノード、やラナもタメ口でいいよ。」


 「ですが。」


 「ラナは飛び級してきたんでしょ?それに大隊では上下関係というよりも仲間意識の方が強いと思うから、まぁ前年期上でもない私が言えたことじゃそうそうないんだけどね。」


 「………それじゃあカルゴーン。」


 「下の名前で。」


 「……ファルニア?」


 「うん。そっちで呼んでくれた方がやっぱりいいや。これから改めて、ラナよろしくね。」


 「はい、あ……えぇ。」


神聖魔術の行使には特殊な工程は必要ない。他の魔術と同様で扱うことができるが今回のような状況下で意外で使用した場合、人間国の法律違反となるため表だって使うことはまずできない。そもそも一般公開はされておらずこの神聖魔術の扱い方というか魔術式を知っているのも異界調査隊だけになる。


 「不思議だよね。この神聖魔術、軍隊では使用されてないらしいんだよ。」


 「そうなの……んですか?」


 「うん、そもそも神聖魔術って属性として神聖だけどさ、なんのために必要だったんだろう?」


 「…魔術の基礎として、役割があるから術式に発展するって話です、となるとこの神聖魔術はなんの経緯があって作られたかですか。」


 「……私は回復系専門だから実のところあんま理なんだけど、これ回復魔術との併用ができそうなスペースがあるんだよね。」


 「───残念ですがそれは禁止事項ですわ。」


 「クリス。」


私たちの会話の途中でクリスが入ってきた。今しがた仕事を終えたように手を叩きながらもその顔は真剣そのものだ。


 「そうだっけ?」


 「えぇ。神聖魔術の乱用はお父様が厳禁としています。」


 「クリスは、何か知っていたりするの?」


 「………いいえ。」


少しの沈黙の後顔を背けながらクリスが言った。こういう顔をする時は決まって何か隠している時だ。


 「それは知っていると言っているようなもんだよ。で、どうなの?」


 「残念ながら私は娘だから教えられた立場ですので、それに口外することもお父様から固く禁じられています。ラナさんにも残念ですがお教えできません。」


 「……もしかして魔族との戦争に関係していたとか?」


 「ノーコメントで、どちらにしても文献は出てきません。お父様に命じられてほとんど破棄させていただきました。」


 「破棄、クリスまさか。」


 「ええ、灰も残らず。」


それは破棄ではなくもはや破却なのでは?


 「なのでどれだけ探したってこの神聖魔術はここまでです。あったとしても、きっとこの異界の事件が解決するまででしょうね。」


 「ふーん。」


 「なんだが複雑な魔術なんだね。」


 「詮索しないことを条件ならば。この魔術は本来魔術式の体系として存在しておりません。」


 「つまり?」


 「つまりある力を元にそれを魔術に落とし込んだ代物ということです。」


 「それって。」


 「おっと、ここまでです。私も口を滑らしやすいタイプではないので、それではお二人とも頑張ってくださいね。」


クリスはそう言いながら少し自慢げに去って行った。それを見ていたファルニアは口をとんがらせ少し不服そうな顔をしている。


 「クリスってなんでも知ってるよね。嫉妬とかしないけどさなんかせこくない?」


 「せこい?そうかな?」


 「勇者の娘で、でも実力があるのは知ってるけど……それでもなんかこう。」


 「───たぶんクリスは、ああ振る舞っているだけだと私は思うよ。」


 「なんでそう思うの?」


 「…なんというか、自分に厳しいから。誰かの前でくらいああして隙あるように振る舞いたいって感じが、する。」


 「………ラナって、よく人のこと見てるとか言われない?」


 「え、いや特には。」


 「そっか……でもまぁそれは私も同じか。ラナって意外と人のことよく見てるんだね。」


 「………そうかな?」


実感がないもののファルニアの言葉に嘘も世辞も感じない私は考えながら作業を続けた。

しばらくして神聖魔術による結界の構築は終了し、私たちの今回の遠征でのタスクは終了となった。




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