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067話「未知との闘争」





 クリスが魔術防御を纏って突撃する。前線に出る彼女は決まって最強の形態で突撃するものだ、魔術防御は四方八方に張り巡らされており、展開はオートで行われる。彼女の魔術神経がオーバーロードを起こすまでこの魔術防御は永遠と継続され、どんなに強力な攻撃ですら弾く装甲と化す。


 「ッいぃぃぃぃああああああああ!!」


 「ハ!」


張り裂けそうな声を上げながら少年はクリスの顔へと直接攻撃を加える。しかしその瞬間に魔術防御が展開され、六角形状の半透明な壁が壁が形成され、次々と繰り出される攻撃を弾き返す。


そしてそれを事前に理解しているクリスは反撃によって動きが止まった少年に向かって鋭いアッパーカットを加える。その速度たるや武道家のそれである。彼女が魔術師でありながら前線に出られる最大の要因。

有り余る近接能力の高さである。


 「っぐごぉぉん!!!ぺ、ひやああああ!!」


しかし少年はそれを喰らってなお笑いながらもう片方の爪でクリスの喉元に狙いを定めるが、そこは逆鱗であった。


クリスの魔術防御は展開から1秒後、術式を自動的に暴発させる別術式が組み込まれている。そのため、鍔迫り合いにでも持ち込もうものなら、術式の強度がそのまま影響した大ダメージをもろに受けることになる。

決して自分を傷つけない、地雷の盾をクリスは全身に纏っていることとなるのだ。


少年は初撃をすぐに引かなかったため、クリスのトラップが発動。ものの見事に爆発が襲い、勢いのまま吹き飛ばされる。空中からの奇襲は今のクリス相手にとってはいけない最悪の行為であった。


 「が、がへ!がへへへ!!」


 「随分と頑丈なこと。」


通常ならば体が吹き飛んでもおかしくない威力の爆発であるが、あろうことか少年は無傷であった。人並み外れたその耐久性は魔獣の頑強性を人に落とし込んだように錯覚する。


 「ですが──」


 「───クサナギ二式!!」


敵の着地を狙って下段からの一閃、スピードを活かした突撃戦法を得意とするこの少年は空中では一気に無防備になる。スピードと鋭さ見事であるがそこに技量は存在しない。


 「きしぃ!!」


 「!?」


足を巧みに曲げた白刃取りによって渾身の一刀が無力化される。圧倒的な力に刀を抜くことさえも押し切ることさえもできないと瞬時に悟る。


 「しねぇぇぇぇぇぇ!!」


 「──ジョロウ!!」


 「─────────ァ?」


ジョロウの効力が発動し、一気に少年は全身を脱力させ力が無くなった。プラノード抜刀術ジョロウは刃が相手に触れていることが条件の全身麻痺の技である。仕組み的には合気道で相手を脱力させるのと同じである、それを刃に落とし込むのは相当に苦労したがこの手の化け物相手にも通じて安心である。


 「ブラストアウトォォォォォ!!!!」


クリスの炎の鉄拳が身動きのできない少年の腹部に突き刺さる。どんな生物であれ防御の意識がない直撃であればこれが効かないなんて道理はない。


 「ガハッ──────」


 「吹き飛んでも見せなさいッ!!」


クリスの拳に仕組まれた術式が起動してさらに追い風となって少年を吹き飛ばす。生まれる衝撃波が髪を揺らす前に少年は大地に叩き伏せられる。


 「クリーンヒット!」


 「うん!」


地面にクレーターができ、少年の姿が煙の中から現れる。外見的特徴だけで判断すれば白目を剥いて気絶している。が、


 『………!』


眼球が一回転して瞳が私たちを見据える。少年は確かに直撃を受けた、しかし一瞬の気絶しか生まれない。その事実が私たちの中でさらに徒歩もない階段が組み立てられる。


 「アー、アーー、アーーー、いたみ、いたい、いたたたい、いたーぁ!あっははは、へへへへ!スゴイ、ツヨイ、ウマソウ!」


 「これは、落ち込みますね。かなりいい一撃だったのですが。」


 「うん。」


 「仕方ありませんわね。ここは───」


 「うん、ここは────」


 『一撃で吹き飛ばす。』


私たちの中に火が灯る。今まで手加減していたわけではない、ただ全力を出し切るに足る相手かどうかその半端であった。全力とは己の全てであり、己を顧みない一撃の総称である。

本当の一撃とは体が壊れても相手を破壊するという覚悟を持った行動、私たち二人の中で共通しているルールの一つである。


そしてこの相手は試すではなくぶつけるのに十分である。この一見頭のネジが飛んだ考え方は私たちの中では常識である。人として、目的、夢、望み、そんなものをかなぐり捨てた完全なる闘争本能が生み出す最悪の結末である。


そして私たちはそれを当に許容している。


 「アッ、ハハハハハハハハ、イイゾー!イイゾー!おまえ、たち!お前たちィィ!!」


 「行きますわよ。ポテンシャル100%、体調にぶっ殺させていただきます。」


 「うん。確実に切断する。」


私たちは互いに全力への踏み込みを開始する。次の瞬間にはあの棒立ちの少年の姿をした化け物が粉々になっているはずである。それが確信できるほどの技を今から放つのだから。


 「いい心意気だ、でもそれはとっておきなさい。」


 「ぇ、」


 「たっ、」


コンッと頭を叩かれた。自分の世界に入りかけていた私達は一気に現実世界へと引き戻された。そして叩いた人物をよく見てみればそれはナリタテンマであった。


 「お父様、ご無事だったのですね?」


 「まるで生きているのが当たり前だったみたいに驚かないなクリス。」


 「ええ、しぶとさなら随一なのは貴方の歴史が物語っております。」


ナリタテンマはただ一人の勇者の生き残りと公式上は言われている。そのため客観的な視点を考えればクリスの反応は的をいている。問題は、この事実を本人がかなり気にしていることだ。


 「………微妙に反応しずらいのやめなさい。」


 「ナリタテンマ、何を。」


 「そういう、自分の全力をぶつける相手というのはラスボスにでもとっておきなさい。まぁ、そのラスボスも裏ボスが待っているかもしれないけどな。」


 「そうであったように言いますわね?」


 「帰ったら聞かせるさ、さて。」


 「アー?アーーーッ?」


少年は今日が削がれたような険しい顔をしてこちらを睨んでいる。私たちの攻撃を期待して待っていたのにそれを突然として取られたのなら、落ち込む。そういうのがわからない私ではない。


 「悪いが魔族、いやお前達のような輩とは戦い慣れている。一瞬で仕留めさせてもらう。それと────」


ナリタテンマが勇者の剣を引き抜き、瞬きの隙に相手の背後に回る。音も気配も何もかもが見えず聞こえず感じ取れなかった、それは移動とよりは設置に近かった。


 「──仲間を返してもらう。」


 「ハ─────────ァ?」


勇者の剣が振られ、少年の胴体は横真っ二つに切断される。体は空中を舞って、その内臓がドロドロとあたりに撒き散らされる。


ボトっとあっけない音が鳴り、ヘドロのように撒き散らされた体液はだんだんとその形が顕になっている。


 「なに、」


 「なんとっ!」


そのヘドロから、なんと大隊の見覚えのある仲間の姿が現れた。全員ドロドロの液体を被っているだけで装備もそのまま、まるであの少年の中に無理やり呑み込まれたかのように思えた。


 「い、いいいいいいいいいいいあああああああああああああああああっ!!!!おまえ、おまえ!!!ユルサナイ───!!!」


 「──────!」


叫ぶ余裕があると知ったナリタテンマはすぐさまその大剣を振るい少年の頭部から心臓にかけての縦一直線に切りかかろうとする。


 「ひぃぎ!!!」


しかし上半身だけとなったのにも関わらず少年は以前よりも素早い動きでその一撃を回避し、遥か向こうの丘まですっ飛んで行った。


 「ころしてやる!かならず、ころす!!!」


 「─────ッチ、らしくない……!」


 「お父様!!」


クリスがナリタテンマへと近づいていく。突然の状況で私も追いついていないが、ともかく情報整理を優先してナリタテンマに聞きたいことを近づきながらまとめていると。


 「なぜ早くトドメを刺さなかったのですか!!」


 「そっち?」


先に辿り着いたクリスがナリタテンマを叱責した。それはまるで息子を叱る母親のような姿だった。


 「悪い。私としたことが、油断した。」


 「相変わらずの詰めの甘さですね、本当に尊敬しか抱けませんわッ!」


全てが怒りの言葉で何一つ尊敬していないことがよく伝わるクリスらしい一文だった。ナリタテンマの方もとても申し訳なさそうにしている。


しかしそんな二人よりも驚きなのがこの状況だ。振り返ってみればあたりには先ほどの少年の体液に塗れた仲間達の姿がある。全員気絶している様子だ、


 「……彼らはあの魔族もどきに食べられていたんだ。」


 「魔族もどき?」


魔族とは数年前人間が大戦争をしていた種族の名前だ。ナリタテンマは勇者としてこの魔族の王である魔王を倒したことによって戦争には勝利して魔族はこの世界から姿を消したという。


 「何か違ったのですか?」


 「何かというより、そうだな。魔族として感性はともかく肉体にかかっている能力が違う。」


 「スペックということですか?」


 「あぁ。それに特異性もだ、私が見た限りではあの魔族もどきは捕食した分だけの力を司れる。私たち大隊の仲間が食べられているとすぐに気がついたさ、消化されてなくてよかった。」


 「その様子だと消化されていたら助からなかったことになりますが、随分とお詳しいのですね。」


 「いいや、勘だよ。」


大したことのないみたいな顔でナリタテンマは魔術を駆使して散らばった体液の上から水をかけ始めた。体液は消化能力が特別高いことや、特異性がなかったためか少し酸性の強いくらいですぐに洗い流すことができた。私は先ほど戦った相手のことを考えながら倒れている大隊の仲間達を起こした。




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