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063話「異界の初陣」




 地面を蹴り大きく跳躍し、雲の上から指す光を次々と避けていく。横を通り過ぎるだけで目を覆いたくなるような光と灼熱を感じていた。あの悪雲と紫電が繰り広げる大空の向こう側、そこにブレクトルコクーンはいる。姿も見せずただただこちらを蹂躙する攻撃を繰り広げていた。


一方的だった。奴は私たちの場所を正確に読み取りながら攻撃を繰り返す、こっちは相手の場所すらわからないというのにジリ貧な時間が数分続いた。私の刀が奴に届かないことにそこしれない悔しさを覚えていたのだ。


 「────!」


魔力感知によって自分のすぐ近くで大魔術の行使を感じ取り顔を向ける。一人の少女が魔法陣の中心に灼熱のエネルギーを作り出しそしてそれを弓のように放った。

球体から熱線へと変換し暗黒の空気を焼き尽くしながら空から降り注がれる光の主へと攻撃が飛んでいく。


雲を越えると光の線は見えなくなるも、すぐ向こう側で落雷のような音が轟いているのが聞こえる。命中した音だと瞬時に理解した次の瞬間第二射三射と攻撃が開始された。赤、白、青、無数の光の直線が大地から打ち出され天空に陣取るブレクトルコクーンへと攻撃を開始しされた。


これがクリスを含む魔術師たちの攻撃であると察する。抱くものが虚しさではなく希望へと変わっていく気がしていた。しかし雲の中へと消える魔力反応が突然増大し始めていることに気がつき、私は刀に力を込める。


 紫色の光と共に空からは操り糸のような光の線が大地を砕く、砕かれ線が通った後には紫色の炎が漂い私を含む多くの仲間にその攻撃があてられているのだと、回避をしつつ感じていた。闇雲でありながら擦りでもすれば完全に絶命するほどの圧倒的な攻撃性、命と隣り合わせの文字通りの死線であった。


 「………っ!」


死線を回避しつつ、岩陰に隠れていると何かがゆっくりと悪雲の中から現れていることに気がつく、ゆっくりと足から頭までその巨体が空中へと姿を現すバタバタ狂気的な羽を羽ばたかせ、浮遊する姿に思わず息を呑んだ。


ブレクトルコクーン。

私たちがそう呼んでいた魔暴の登場である。

そのシルエットは太ぶとった竜の姿でありながら腹に口があり羽には目玉が寄生し、大地をギョロギョロと観察していた。おまけに胴体から続く首と頭は10本ほどの蛇のような姿となっている、この世のものとは思えない異質な生物、見た目の屈強性よりも狂気性がそのまま力となっているような姿に唖然とするしかなかった。


 「ブレクトルコクーン………っ!」


目玉が大地、いや私の体を見据えた時反射的に肉体は防御姿勢をとった何かくると次の一手を読んだ生物的本能による自動防御だった。


 「………かっ、」


体の内側から固まるような感じがした。睨まれて動きが止まる、いや正確には睨まれた結果こちらの動きを封じる。そんな呪術的な感触が体中を駆け巡った。


 「……ぁ、そ。」


ピシピシと聞いたことのない音が体から聞こえ眼球をなんとか動かすと、目の前で防御を取っていた腕が灰色に染まりそして動かなくなっていった灰色の伝染は早まり気づいた時にはすでに足が動かない状態となっていた。

石化である。


 「───パラダイススルー!!」


 「っ!」


頬まで登ってきていた石化が外部の魔術によって一瞬にして解除される。声の聞こえた方向を振り返ってみればそこには私を見下ろす方で息を切らすクリスの姿があった。その手に掲げられた魔法陣は石化解呪。


 「ラナさんご無事で?!」


 「大丈夫っ!!」


一瞬のコンタクト、だがブレクトルコクーンはこの様子を見ていたのか私の危機察知が2秒先の展開を予測した。ブレクトルコクーンが再びこちらに向かって石化を使ってくる、それを予期できた私は一瞬でクリスの元まで跳躍したのちその一帯から離脱する。


案の定ブレクトルコクーンの寄生眼は大地を灰色へと交換し始めていた。私たちが逃げた後をずっとなぞるかのように石化が迫ってくる。


 「攻撃開始!!」


クリスが合図を送るとブレクトルコクーンに向かって光線が打ち出される、そしてその中にとびきり青白い斬撃も混じっていた。ナリタテンマが放つ勇者の剣による一撃である。


その一撃はブレクトルコクーンの腹部へ直撃したものの決定打ほどにはなっていなかった。ただ勇者の一撃であるのには変わらず流石の威力にブレクトルコクーンも石化の目を止めざるおえなかった。


 「ラナさんあそこへ、あの土手っ腹にとんでもないものを食わせてやりますッ!!」


クリスが指定した丘へと跳躍し下ろすと、彼女はブレクトルコクーンが別の方向を攻撃していることを確認し、大魔術を開始する。


 「護衛をよろしくお願いしますね!」


 「3回しかできないよ!」


 「十分です!!」


クリスが詠唱を開始する。無詠唱を得意とする彼女が詠唱込みで魔術を行使する際、それは決まって術式の効果を増大させるために運用される。魔術の基本は詠唱である、それが長くそして魔術式に組み込められた内容量の多さで最終的な現象の強さが決まる。


ツインズ、そして重複詠唱、自身の強化詠唱までを同時並行で開始するクリス。これらは並列思考と同じく全く同時進行でやるには相当に精神が消耗する。しかしこうでもしなければブレクトルコクーンは落とせないというのもまた事実である。


ブレクトルコクーンがクリスの魔術に反応してからこちらを見据えた。先ほどの勇者の一撃からかあの寄生眼がこちらに使われることはないと直感を通して理解し、納刀してから抜刀の構えへと移行する。


 「─────!」


二回、三回の攻撃を通してブレクトルコクーンの技の見切りは終了している。確かに見たこともない原理であの攻撃性が出力されているのは確かである、通常相手の技がどのような原理で動いているかを解析したのちに防御や受け流しの行動をするのが正しい。だが流石にそこまでの時間をかけることはできない、それゆえに私は現象を破壊することを目的とする。


現象とはこの世の現実であり、現実は偽ることができない。偽っているように見えることはあっても隠すことはできないのである。この方式を逆手に取るならば、現実は常に正しさを示す指標である。


 「なら────」


一介の剣士にも戦いようはある。

相手が超高火力の熱線を撃つという現実を持っているのならば、こちらはそれを相殺するという現実を持って対戦する。

奴の攻撃もクリスの攻撃もどちらもデタラメな強さがある。といった共通点がある、あとはそれに合わせるだけだ。


 (過程、工程、それらの結果から相殺させてもらう。)


 「きます!」


クリスが合図を出し、私は刀に力を入れ意識を集中させる。ブレクトルコクーンの無数にある首が一斉にこちらを向き次の瞬間には紫色の熱線が放たれた、恐ろしく早く空気を一瞬にして焼き焦がす臭いが伝わってくる。クリスがもし事前に言ってくれなければ今頃丸焼けになっていた頃だろう。


しかし間に合った。


 「─────プラノード抜刀術────クサナギ二式!!!!」


熱線が刀に触れる。普通ならばこちらの耐久値、こちらの筋力、こちらが繰り出せる技の限度、これらの関係から打ち負けることはまず間違いない。だが。


当たり、叶わず、焼き通される。


から。


当たり、相殺され、何も起こらなかった。


へ、上書きする。それが私の技である。


刀が熱線に触れる。熱線は私の技を受け直ちに自分側が間違っていると思い込んだように散り散りとなって消え失せた、こちらに明確な悪意と敵意を持って放ったブレクトルコクーンが想像もし得なかった結果を私は現実へ突きつけた。


 「イノセントバースト──!!!」


青白い光がすぐ隣から放たれる。その根源的属性は熱に由来しているのにも関わらずすぐ近くの私はそれに熱があるとは認識しなかった。ただただ真っ白くそして青みがかった光が世界を突き抜けブレクトルコクーンはなんの防御姿勢も無しにこれを真正面から受けた。


──────。形容できないような衝撃が空中に広がり、たちまち大地に衝撃を伝播させた。私たちが立っていた丘は表面の岩が崩れ分解し始めていた、いち早く気づいた私がその場から強引にクリスを抱き抱え撤退し、衝撃の次にやってくる音に耳を塞ぎ耐えた。


 「─────ラナさん!」


 「………ブレクトル、コクーンっ」


私はクリスと共に上空を見上げた、ブレクトルコクーンはクリスの攻撃によって撃ち落とされてはいなかったが、あの一撃は勇者の剣よりも鋭くそしてブレクトルコクーンへ手痛いダメージを与えていたことは奴の焼き焦がされた体を見れば明白だった。


 「っ、あれでも。」


 「でも、勝った。」


ブレクトルコクーンは先ほどよりも辿々しい飛行をしていた。あともう一度大かがりな技を放てば確実に倒せる状態、それを向こうもわかっていたのか何も起きなくなった戦場に安心し切ったブレクトルコクーンは上空へと昇り姿を再び隠した。


 「───やりきれません、でしたか。」


 「………行こう。私たちにはアイツを追うよりもやることがあるはずですから。」


私は魔術神経の冷却に入って動けないクリスを背負って、ゲートのある方向へと跳躍しながら運んでいった。


異界探索は命懸けである。このブレクトルコクーンの戦いにおいて異界探索部隊大隊のメンバーの約三分の一が無惨な死を迎えた、その中には私に親しく知れた人や決して死ぬことはないと思われ太鼓判を押されていた先輩たちですらいた、唐突な襲撃、自然災害のような理不尽、それが凝縮されたのがこの世界であり。

私たちは彼らの死を振り返ることなくただただこの世界を進むことしかできないのであった。




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