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062話「強襲急襲常襲」




 「ラナさん?」


 「……、」


 「ラナさん?大丈夫ですか?」


 「………ぇ、」


 「どうしました。先ほどから固まってしまって?」


 「あ、ううん。ごめん、何だっけ?何だっけ?」


 「もしやと思いますが、ゲート酔いですか?酔い止めを一応持っていますが使います?」


 「いや、大丈夫。」


頭の中が真っ白なモヤからだんだんと解放されていく感覚に確信を持つ。酔い止めを手に持って私を心配するクリスにそっと片手を添えて断りを入れ、私は大きく深呼吸をする。

気分はまるで寝起きだ、鈍ってぼーっとしていた意識がはっきりと覚醒していく感覚に包まれながら私は目の前の異様な世界を目の当たりする。


 「─────っここは、」


 「……とても凄い世界でしょう?」


クリスは私に紹介するように口にする。

岩石と混沌の大地、嵐と落雷が轟く魔境、果てまで続く暗黒の天空、写真で見た時よりも鮮明でそして思わず小さな絶望感すら感じてしまう世界。


こここそが異界、私たちとは異なる世界に位置していながらまるで枝分かれした後の分岐の世界のように親近感を感じてしまう。そうであるはずなのにこの目と体はこの世界は間違っていると否定したくなるような残酷さを持っていた。


 「……ここが、異界なんだ。」


 「はい。ここが私たちの仕事場でございます、そして命の保障ができない、死の世界でもございます。」


 「……うん。」


吸う空気ですら害悪に感じてしまうほどの圧迫感が私を襲う。常に心臓が高鳴っていつもの世界では稀にしか感じられない命の危険のアラートが鳴り響いている、これは好奇心による興奮状態というよりもいつ死ぬのかわからない、恐怖心と生命本能が混じり合った興奮状態だ。

一人の戦人としてこの状態はあまりにもまずい、冷静な判断が下せなくなる原因の一つだからだ。


だがこうなってしまうのは仕方のないことだ。世界が私にその状態を強制している。いわばここにいる人たちは全員、死に急ぐような状態異常がかかっているとも見て取れる。冷静なクリスですら、内心普段ではしないような高揚感に満ち溢れている気がする。


 「異界での作戦行動は冷静さを欠いてしまってはおしまいです。今は各員のメンタルチェックを優先的に進めています。」


 「そう……クリスは?」


 「私はこの通り、と言いたいところですが。やはり二度目であるのにも関わらずここの空気は吸うのに苦労しますね。加えて精神的には急ぎすぎな心もあるようです。精神訓練は積んでいるはずなのですが、こればっかりは。」


 「仕方ない。この世界では誰しもそのようになってしまうのだからな。」


 「ぁ、ナリタテンマ──。」


私は思わず自分の口に手を置いて失言を振り返った。いくら空気や雰囲気だからと言って上官に向かって、友達感覚のような返事はあってはならないことだ。


 「大丈夫だ、気にしなくていい。逆に初めてならそこに気づけただけでも上出来だ。」


 「……すみません。」


 「お父様は相変わらずですね。」


 「私はそもそも勇者としてのグレードがあるからな。経験もある。その分、若いものたちには負けられないというところさ。」


 「それが意地ではなく事実なのが、どうしようもなくイラつきますわね。」


 「娘にそう言われると傷つくぞ私も。」


二人の会話は変わらないように見えてやはりクリスの言動はいつもより1段階過激のように見える。臨戦状態特有の高揚感がクリスから感じられると私の頭は理解した。


 「全員のメンタルが落ち着くまでは待機だ。クリス、プリエルに紅茶なんかの用意をしておいた方がいい。」


 「もうしていますわ、そのプリエルもいつもより昂っている感じですが。」


 「頑張って紅茶淹れてまーす!」


 「そのようだな。」


クリスの言葉に反応したプリエルが大声で返事をする。いくらプリエルが前より活動的になったとしてもあんな言動を見せる子ではなかったはずだ。


 「この毒気も元の世界に戻れば何の後遺症もなく終われることが幸いですね。」


 「本当にな、魔族化やら何やらに比べればまだ可愛いものだ。」


 「魔族化、確か魔族と人間族が戦争をしていた時代に起こった病でしたっけ?」


 「正確には"悪感情的生物変性"に分類されるタイプだ。魔族のルーツは人間の悪感情の増幅による変性だからな、適正と感染しているのであればあとは精神が悪に染まるだけで魔族になる。」


 「信じられませんわね。そんな病があってよく勝てましたわね。」


 「魔族の長である魔王を倒した際に、感染因子が軒並み死滅した。らしい。」


 「らしい?」


 「魔族化に関しては当時の魔術科学的に解明できてない点が多いのです。データを収集し切る前に魔族がいなくなったこともあって。そもそも現在の研究機関のほとんどは終戦後お父様が資金援助と見直しを行ったわけですし。」


 「闇雲にやっていて、終わる戦争が終わらなくて結局、神たより。勇者に頼るなんてことされたくなかったんだよ。」


 「お父様は大活躍でしたじゃないですか?」


 「無茶を言ってくれ、あんな経験二度としたくない。争いに関わるのも英雄になるのもどっちもくだらなくてごめんだ。」


 「その教訓から同類を増やさない活動は、私は尊敬してますよ。」


 「娘に褒められる父親の気持ちは、思った以上にだな。」


クリスとナリタテンマは専門的な話を続けている。私もその話の内容を何となく読み解こうとしているがこういう頭を使うのはクリスの方面の仕事だ。私はただただ今の落ち着かない自分をどうにか落ち着かせるために空を見ていた。


紫色の雷鳴が轟き、その先が大地触れると一気に木の根のように広がっていく。奇妙で奇怪で、幻想的な構図には魅力と比例する恐怖を感じる。生物の奥底に刻まれた根源的恐怖、それをひしひしと感じ取流度に私の心は揺れる。

ここの世界が作り出す心を乱す毒気も要因の一つだろう。


ゲート酔いか、それとも毒気による精神状態の高揚か。どちらにしても厄介なことには変わりない、私は近くの椅子に座って向こう側に広がる険しい針山脈と暗黒の中で蠢いているであろう魔暴をただ静観している。


今いるここはゲート前の簡易前哨基地だ。あくまでゲートの周りだけ守りを固めただけの拠点と言ってもいい、私たちがここで防衛に当たらなければこの一見強固に作られた要塞も魔暴の群によって一瞬で瓦礫の山に還られる可能性がある。それほどまでにこの世界は自然的脅威に満ちており命の危険が毎秒襲ってくる混沌の世界なのだ。


私が今行なっているこの行為も、散歩ついでの日向ぼっこに見えて実際のところは偵察の側面も担っている。索敵班は別にいるかもしれないが、私は己の直感と危機感知能力が優れているとも思っているのでこうして大地を、果てを、そして空を見ていてるのであった。


 「─────」


一際何か違和感を感じた。高揚していた気分に反して急に冷静になった私はその違和感の正体に次の瞬間気づくことになる。


 雷鳴が雲を突き破り目前の大地へと柱を作る。ジグザグのエネルギーの塊に私はのけ反り、吹き飛ばされ、同時に体全身に無数の危険信号が鳴り響いた。


 「─────プラノード抜刀術────」


自動反撃を体に刻み込んであったため、真っ先に動いたのは精神ではなく肉体だった。いつのまにか武器に手を置きそしてその言葉を口にしてマリオネットのように私の体は脊髄反射した。


 「タテミカヅチ!!!」


自身に向かってくる不可視の攻撃を直感を頼りに完全に捌き切る。もし当たっていたら好みは一瞬にして輪切りに慣れていたという結果が相殺した刃を通して脳に結果として送られてくる。少しでも遅れていれば少しでも油断していれば少しでも構えていなければ確実に死んでいた攻撃に私は過呼吸一歩手前の精神状態になる。


そして私の背後は耳が拾えきれない轟音と共に何かが起こった。それが何なのかはわからない、ただただひたすらに嫌なことが起こったと私の中の感覚は囁いていた。耳鳴りが響いた、精神が一瞬にして疲弊したせいかそれとも予備動作なしのオートの反撃による反発か、私は脳が真っ白になりながらもその身を地面について何か行動を起こそうとしていた。


無意識下から解放された私は自分の体が後ろにあった拠点へと向いていることがわかった。そして五感のうちほとんどが復旧した時、その惨状を目の当たりにした。私の背後にあった建物は先ほど弾き返した不可視の攻撃によってバラバラではなくズタズタに切り裂かれており、魔術結界は容赦無く破壊、貫通されていた。


そしてそこに広がるさっきまで体調管理に気を付けていた仲間たちの死体を目の当たりする。


 「───は、っ!」


息が詰まった。生臭い血の匂いではなく、人が死んでいい死に方をしていない仲間たちに私は絶望した。当てから輪切りにされ内臓と骨の断面が丸見えになっている仲間、自身が死んでいるとわからず腕が少し動いている者、かろうじて防御体制をとったものの両腕を切断されたばかりか皮膚に致命傷を負った者、私と同じく絶望を感じて首だけをゆらゆらと動かし壊れかけている者、そこにあったのはただただ一瞬の出来事の末に起こった悲惨な現実であり、全て全て私の大切な大隊の先輩たちで仲間であった。


 「─────ブレクトルコクーンの襲撃だッ!!!」


聞き慣れた仲間の怒号にも近い報告が耳に入る。同時に私は背後を振り返り上空の向こう側にいる気配に勘づく、怒りと悲しみと負の感情を一瞬にして背負った体には力が込められ持っていた武器から小さな音が聞こえた。


 「──各自散会の後、攻撃行動に転じよ!先ほどの攻撃を防御しきれたものは、まだ生きているものたちの救助、それ以外の攻撃可能な隊員は陽動行動を行い、注意をそらせ!!!」


 「了──解ッ!」


目の前の光景に目を向けず自分がどの立ち位置にいることを理解した私は、そのまま走り出した。命令を実行すれば勝てるわけではない、この状況は圧倒的に不利である、今の事例は誰によるものか?クリスは?ナリタテンマは?何もしている?生きている?


あらゆる疑問が私の中に浮かぶが順次にそれを切り捨てる。武器を手に取った私は自身の語感を最大限に引き出しあの空の中にいるであろうブレクトルコクーンを標的と見据えた。


必ず倒さなければならない相手だと見据えた。




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