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061話「夢と現実トキの狭間で」




 「あ、れ。」


私は不気味な浮遊感の中で目を覚ました。体は空中へと浮かされ真っ直ぐ向こう側にまで続くあらしのような渦の中心にいる。足は地面についてないのに何故だか体が動かせると直感が囁く。


目を開き今の異常な状態に驚く私。右を見ても左を見ても嵐のような渦ばかりでそのほか一切のものはなかった。耳にはノイズが止めなく響いている、おかげでこの中では剣が交える音が聞こえたとしても私の強力な聴力では拾うことはできない。試しに声を出してみてもそのノイズが掻かき消し、最初から出ていないように聞こえて仕方がなかった。


 (ここは、ここは───異界の。)


あまりに記憶との様違いように、私はここが異界であるのかと錯覚する。がそれもすぐに違うと断定できた、この渦はナリタテンマが勇者の剣の一振りによって開いた異界へのゲート、その渦巻きにとても酷似していたからだ、問題は私がまるで台風の目の中にいるような状態にあること、それでいて自分の体は宙に浮いているはずなのに、前に進むことができるということであった。


 (わからない、わからないだらけだけど。)


後ろを向いても虚空、前を向いても虚空だ。

私が最初にどっちに向いていたのかそれすらもわからなくなりそうな中、直感だけを信じて正面と見据えた場所へと進んでいく。足はバタバタと、まるで底なしの水中のような気分であるのに妙に安定して私は変わり映えもしないノイズだらけの渦の先へと進んでいく。


 (本当に、どこなんだろう。)


ゲートを潜った先にあるのはいかいだと教官、そしていろんな人からの経験則で語られていた。それなのに私がいるのはそんな異界でもなく仲間も、地面も空も、もしかしたら世界すらも存在しない特殊な空間だった。


何かおかしなことが起こっていると見るべきか、それとも急な悪夢が私の記憶を駆け巡っているとみていいのか、どちらにしてもこの黒紫で彩られ耳を塞ぎたくなるような雑音が続くこの回廊は私にとっては苦痛であるほかない。


 「………。」


こんな状況なのに異常な冷静さを誇っている私に思わず感服してしまう。今までいろんな奇妙な体験をしてきたせいだろうか、それともクリスのあの大胆不敵さを見習って慣れてしまったのか、どちらにしても今の私には少し困るかも知れない。


 しばらく進んで私は早い進み方を身につけた。空中の中でもただ闇雲に手足をバタバタしていれば進むのではなく、頭を前にするとよく進むんでいるような気がする。

何故気がするのかというと、あまりにも変化がなくて実感が湧かないからだ、そもそもこれは進むことが正しいのかすら怪しい。全部今の所私の直感頼りである。


それ以外に方法がないから仕方がないともう私は割り切っていた。


 「………?」


 「おや。」


目の前に何かいるとわかった瞬間、相手もこちらに気づいたらしい。だが不思議なことに相手の姿は見えない、ただそこにいるという気配、存在だけが一人歩きしているように思える。


 「珍しく、実に珍しいな。」


 「あ、なたは?」


流暢な相手を信用できず、私は言葉を詰まらせる。そもそも存在だけしているという状態に疑問と、そして口もでもないのに意思があって喋るというあまりにも非現実的な目前に困惑しかなかったのだ。


 「私は、そうだな。トキと名乗っておこう安直だが壊滅的ではない名前のはずだ。」


 「トキ?」


 「あぁ、君の名前───は、聞かなくても良さそうだ。ここにいるということで、その資格を持っているのだろう。だが、残念なことにあれは彼が寝ている間に差し込んでしまった。申し訳ないことに、ここでウロウロする私は君に対して何もできない。」


 「………何を言ってい、る?」


目の前の人物が言っている言葉は理解できないのに自然と納得せざるおえない。私はこの意味不明な原理に脳が追いつかずにいた。


 「わからなくて構わない。これは長い長い時間をかけて決められていた定めのようなものだ。とは言ったものの彼がまさかあの道を選んだことには心底驚かされた。あったとしてもありえない選択だと思っていたからね。だが、実にタイミングが悪すぎた、この時代では起こってはならなかった。おかげで因果の修正力がこんなところまでかぎつけてくるとは、おかげで私もこの時間に囚われる存在になった。」


 「時間、囚われる。貴方は、ここはどこ?」


交わされる言葉の情報量、その多さに押しつぶされて私の言語はまるで生まれたての赤子のように辿々しかった。そんな私の状態を察してか、向こうは対話ではなく一方的な語り部のように淡々と事実のようなものを整列させている。


 「残念だけど、君に話してしまうと後々悪くなりそうだからここまでにするよ。ごめんね。でも私もようやく年貢の納め時だと思っていた、あの──《人が神を撃ち落とす》転換点から数十、数百、数千、数万、数億、数兆、と。もはや数えきれない時間が流れた、野放しだった私もいい加減仕組みとして加わるべきなんだろう。この最後の罪滅ぼしの先にあるものは、残酷だ。」


 「………。」


 「世界は因果でできている。きっと私以外にも野放しだった奴らもこぞってこの時に終わりを迎えるのだろう。かの最後の神が最後の人としての一生を終えるこの時代に。」


 「……神。」


わからない私でもその言葉には何故か新しさと真逆の親近感を覚えた。まるでどこかでそれを知っているかのように、まるでどこかで私はそれを味わったように。


 「────そうだ、君にも手伝ってもらおう。いや、正確には成功率を上げるために、うん。君なら適任だ、何もない私だが君に最後の祝福を授けよう。」


 「祝福……って。」


 「何でことのないまじないさ、体に悪影響はない。魂の内側にただもしかしたらのアンカーを打ち込む。このトキの最後の悪あがきさ。許してくれたまえ。」


 「…………えっと。」


 「さて、これでよし。私の最後の仕事も終わった。正しくはこのトキという名前を持った意思の最後の仕事だけどね。安心してくれ、君はここでの出来事は覚えていられない、おそらく次の瞬間には何の違和感もなく、目が覚めるさ。」


 「まって、なにが。何だか。」


 「本当にすまないね、君に説明するという事実が世界に新たな因果を付け加えかねない。それくらい君は世界にとってはイレギュラーで来るべき時に芽が咲くべき存在なんだ。」


 「………っ、なんか急に眠く、」


くらっと視界が揺らいで、次の瞬間には恐ろしい眠気に襲われる。ただそこには自然というより不自然的ななにかそうであってはいけないような気がしていた。

それが何なのかうまく言語化できないまま、視界はだんだんと暗く、そして瞼はどんどんと重くなっていく。


 「さようなら最後の神。さようなら落とし子。君と世界の果てがどうか人並みに終わることを、私は別の世界で待っているよ。」




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