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060話「出陣」




 作戦開始日が訪れた。一週間前に発令された大規模作戦が気づいたら目の前だったという事実には相変わらず全然慣れなかった。いまだに実感が持てないまま私は戦闘服に着替えて、門裏の集合場所に10分前には集結する。この日のために一週間やっけになって訓練した先輩も怠らず私のような毎日を真剣に取り組んでいる人もいる。それぞれのペースがあることを理解している私がこれに口を挟むことはない。

 けど、先輩の先輩、つまり前年度に入った先輩たちは今年度に入った私たちと違ってまるで死ににいくような顔をしている。

 それでいて外に向けている表情は厳粛そのもの、敏感な語感が感情と乖離する表情をただただ見据えている。


 私はそれを見て、複雑とこれから起こる出来事に不安と好奇心を抱いていた。目的が可能喜びと、紛れもなく死ぬかもしれないという不安だ。向こうに歩けば死が待っている可能性がある。そんな嫌な予感がする、予知夢も見ていないのに。


 しばらくしてクリスとナリタテンマが前の方へと歩いてきた。その腰には誰もが目を引かれるである勇者の剣が存在していた、もはや常時存在している事実が私たちのプレッシャーに乗っかっていた。


 「これより、異界探査部隊大隊、大規模作戦を開始いたします。───開門!!」


 クリスの号令と共に重々しい城の扉がゆっくりと開かれる。正面見える太陽の日差しは目を覆いたくなるほどの眩しさであったのにも関わらず、全く心が安らいだ気がしなかった。


 「行進ッ!!」


 いつものクリスではない。戦闘の時のクリスでもない。ただただ歯車のように必要なことを述べるクリス姿には不自由さしかなく今の私たちの行進も不自由さしかない。ただこの重苦しくも型に則った行動が、余計にこの先の展開を息詰まらせると直感していた。


 行進の列は乱れない。城下町の人々もこの行動にはパレードの見せ物というよりかは戦場へ向かう戦士の決意を感じ取ったのか表に出るものも家の窓から見るものも、大勢いた。

 そして見られている私たちはそんなことよりナリタテンマのその背中だけをただただ見ているだけだった。私たちの服装は鎧ではなく、かと言って私服でもなく全てにおいて洗練され考え尽くされた結果の最終装備。これから向かう先がどれほど地獄であるかどれほどの過酷が待っているかを暗喩する服装だ、それを城下町の人々も薄々感じ取ったんだろう。

 子供ですらこの光景を見ている時にはその瞳の奥にあるのは好奇心ではなく、恐怖に近いものだったと私は記憶している。


 私たちの行進は城下町を平原を越えて、丘を越えて、越えて、しばらくしたのちのかつての魔族と人間族が争ったとされる。不毛の前線へと赴いていた、一度獣人国で前線跡地を見たこと跡地を見たことがあるがそれと同じ匂いがした、どこまでも苦しくて重苦しい雰囲気が漂い続ける。魂を引っ張られるような感じがとめどなく襲ってきていた。


 「行進停止。これよりゲート開通まで待機時間とする。」


 待機時間中は装備のチェックなどを自分たちで行うこととなっている。だがこの最中でさえ私たちは整えられた列を見出すことなく半径1メートルほどしかしかないパーソナルスペースで各種道具のチェックを行っていた。

 私たちの動きには一点の曇りもない、一点の迷いもない、一点の不足もなかった。


 そしてナリタテンマが勇者の剣を引き抜く、その時には私たちは全員止まった状態だった。チェスのコマのようにゲーム開始前の状態で止まっている、今から起こす神の御業にすら動揺してはいない。


 「!」


 ナリタテンマが豪華に形どられた円型の入り口に向かって上から下へと剣を通す。すると驚くべきことに先程まで何もなくただ向こう側を映していただけの型に亀裂が入り吸い込まれてしまいそうな不思議な渦へと道が切り拓いた。

 初めて見る光景に溜飲が降る、それと同時に覚悟を決める。剣をそっと鞘に納めるナリタテンマの姿を拝謁し、そしてクリスの号令がまたもや響く。


 「行進!!」


 私たちは歩き出しその渦に向かって何の抵抗もなく吸い込まれていく。体が引っ張れる感覚を振り切って地面を一歩一歩と歩みそして向こう側へと渡っていった。集団圧力を持ってしてでもその時の気色悪さ、もしくは酔いとも形容できる感覚は慣れなかった。




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