06話「予知夢」
炎、炎、炎。
そこには炎が上がっていた。私が知っている世界、私が知っている風景、私が知っている学園で、その炎は燃え続けていた。私はそんな地獄を目の当たりにしてただただ小さく呼吸を繰り返すだけだった。
「…………」
汗すら出ない。出る暇も余裕もない。ただ目の前にある絶望感が私の心を真っ黒に塗りつぶしていく。足元には多くの死体が転がっている。見たことある人もない人も、大人も子供も、そして友人も。
「ラ、ナさ。」
「…!」
その声で私は気がついた。自分の足元で片腕が引きちぎられ、腹部から下を切断された友人の姿を、彼女を象徴する美しい髪は血の色に重ねられて汚されていた。今にも生き絶えそうな声で私の足に手を伸ばして助けを求めている。
ただ私は動けない、絶望からかもっと根本的なものが動けなかった。
「た、す………。」
そうして彼女が生き絶えて、私を掴んでいた手は無情にも地に落ちた。その時私は悟ることができたこの地獄がどんなものかも、この地獄がどういったものか。
「っ!!!!」
私はベットから飛び起きた。呼吸は荒く体全身は汗をかいている。明るい日差しがカーテン越しの窓から差し込んできている。辺りを見回して先ほどの世界との乖離を確認して、息を吸って肺を焼くあの炎がないことを感じ取って、ようやく私は、悪夢から解放されたのだと思った。
ただ悪夢の中でもこれは確信性があった。いやな確信だ。思い出したくもない、ただ思い出さなかったら《ああなってしまう》という絶対的な現実が、私の恐怖を再び呼び起こそうとしていた。
学園に着き授業が始まる前に、私はある人物の元を訪ねた。それはこの学園の管理者である学園長のところだった、私と彼女には切っても切れない関わりがある。それは私自身の問題にも関わることだった。
「どうぞ?」
「失礼します。」
「プラノードさん。」
学園長は私の顔を見る。そこから推測したのか驚いた顔をただちに直して、真剣な顔立ちになる。私からしたら察しが早くて助かる。
「紅茶とコーヒー、どちらがいいですか?」
「コーヒーで。」
私は席について、前みたいにただ黙って目を閉じてあの惨状を思い出そうとした。私には生まれながらにして一つの病気みたいなものがある。なぜ、病気判定をしているのかはこれから話すことでわかる。
「はい。それで今日は聞いておくけどどんなこと?」
「予知夢を見ました。」
私は間髪入れずに話始めた。
私、ラナ・プラノードは予知夢という特殊な力がある。これは幼い頃からあったもので制御が効かないまさに病気なようなものだった、なぜ私にこんなものがあるのかわからない。父曰く自分が原因かもしれないといっていたが、父には予知夢とからそういった類のものはない。
どちらにしてもこの予知夢は厄介なことが多い。なにせ悪いことしか予知できないからだ。この先に起こる自分的には悲劇に当たるものが予知夢として現れる。
簡単に言えば望まない未来しか見えない予知夢ということだ。
「そう、辛かったわね。」
「……いつものことなので。」
「とにかく、少しずつ読み解くしかないわね。」
「はい。」
私の予知夢は未来からの警鐘。それすなわちこのままだとあの予知夢通りになるが何か行動することによって未来を変えることができる。
そのため私は自分で解決できない、もしくは自分以外まで被害が出る予知夢を見た際は学園長に相談している。
「時間はわかる?」
「夜でした。そして、おそらくは学園祭だと思います。」
「学園祭?」
「真夜中に近い時間だったのにも関わらず生徒たちが大勢いて、尚且つそれが許される時期は学園祭の後夜祭だけです。」
「つまりその事件は後夜祭に起こるということ?」
「推測ですが間違いありません。」
絶望の中で見た光景はすぐにでも忘れたい気持ちになるが、やけに記憶に残っている。大々的な旗が燃え、飾り付けが焼け落ちるその瞬間まで記憶している。いつもより少し豪華だった学園が炎に包まれている、直近の催しだと学園祭しかないと思った。
「……テロかしら?」
「間違いなくテロです。炎だけではなく、多くの人が血を流していましたから。」
切られたクリスの姿を見た。あれは何かによって切断された後だった。詰まるところ何か刃物を持ったものが生徒を切り付け、あの地獄を完成させたのだと推測ができる。
「……この学園に仕掛けてくるとはかなりのやり手であることは間違いないわね。」
「はい。フュードルド学園は特殊な防御魔法と魔術結界がかけられています、尚且つ危険物の持ち込みは不可能、警備は厳重です。その中で大々的な地獄を作るとなると。」
それはこの島の結界を超えられる人物ということになる。クリスが最大出力でやっても壊せるかわからない結界をすり抜け、もしくは破壊して中に入ることができる存在。考えただけでも恐ろしいが、私の予知夢は絶対だ。信じるほかない。
「……情報が少ないわね。」
「申し訳ありません。」
「プラノードさん、あまり自分を責めないで。あなたの予知夢は少なくとも悪い未来を回避できる。あなたが言ってくれなかったらその通りになる可能性があった、でも私も学園長の名において、絶対にそんなことにはさせない。」
学園長は私を信頼してくれている。私もその気持ちが嬉しい限りだ。自分の予知夢なんて言ってしまえばただの悪い夢だ。確信なんて気持ちがどうとかその程度の話だ、実際に起こるか起こらないかなんて他人にはわからない。
それでも私を信頼してくれるのはこの人の善性を感じる。
「ともかく人為的なことには違いないわね。警備を厳重にしましょう。それも、ただ厳重にするだけじゃなくて人間国の軍備も投入して。」
「そんなことできるんですか?」
「もちろん私の権力だけじゃ無理だけど。貴方のファミリーネームを使えばできるわ。」
「私の名前で?」
「えぇ。」
「その、なんでですか?」
私は至って普通の獣人族のはずだ。それなのにファミリーネーム一つで展開が大きく変わるなんてことありえない。
「……なるほどね、あなたが教えてもらってないなら流石に私も言えないわ。」
「言えない?」
「ええ、だって願いが込められているんですもの。」
学園長が言っている言葉はよくわからなかった。私に込められた願いというのは理解したけれども、それがどのようなものなのか想像してもつかなかった。どちらにせよわたしの予知夢は信じられ、学園祭に向けて多くの人たちが準備に励む中、私も平和を守るために尽力することとなった。




