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053話「久方ぶりに」



 「これから、皆様には活動を共にさせていただく共有空間の案内をさせていただきます。ナリタテンマ大隊長、ここからは私が引き受けますゆえ、部屋にお戻りになっていてください。」


 「わ、わかった。……大丈夫か?」


 「何がですか?」


 「いや。」


あのナリタテンマが気まずそうによそ見をしている。今なら確信できる。おそらくあの令嬢は間違いなく、あのナリタクリスであると。そうでなければナリタテンマをあそこまで動揺させることはできない。

それは心配しているのか、それとも何か別の事情があるのか。自分の立場とは関係なく、変な好奇心が湧いてしまうほど、複雑な表情だった。


 「それでは、さっさと戻ってください。」


 「あぁ。」


 「皆様、私達はこれから共に生きる存在となります。ここからの私語は許可します。……いえ、してください。私語を義務とします。」


 「あ、あの! 義務……でございますか!?」


 「はい。義務です。それと、とても良い私語ですね。改めてお名前をお伺いしても?」


 「ペリー・クラスタ、ペリー・クラスタと言います!」


 「はい! ペリーさん、よろしくお願い致しますね。」


呼ばれたペリー先輩は、クリスのにこやかな笑顔に釣られるように、堅苦しい表情から安堵の顔へと変わった。最初の一歩を踏み出すのは誰でも勇気がいるが、それが受け入れられた瞬間、人はああいう顔になる。


 「さて、歩きながらの説明になります。列を崩しても構いませんから、しっかりついてきてください。」


 「は!」


 「は、はい!」


 「はい!」


私たちはクリスの後に続いて部屋を出た。


王城は静寂に包まれている。中庭付近を通れば小鳥のさえずりが聞こえ、訓練場に耳を澄ませば兵士たちが鍛錬に励む音がかすかに届く。そんな中、私たちは整えられたレッドカーペットの上を歩いていた。

ここは本来、貴族たちが使用する通路だ。平民が一生歩くこともない場所であり、どこか汚してはいけないような気持ちがして、緊張は完全には抜けない。


 「私たちは異界探索部隊。国家的な優先度で言えば最上位です。貴族とほとんど変わりません。ですから皆さん、肩の力を抜いて、日向ぼっこをするくらいの気持ちでついてきてください。」


 『……。』


言われましても、である。

だが、クリスの言いたいことはよく分かる。昔から誰かを差別して接することがなく、逆に特別扱いされることを極端に嫌う人だ。年功序列を考えれば、彼女は先輩たちを案内する立場だが、敬語で壁を作られるのを望んではいない。

だからこそ、友人のような距離感で接してほしいのだろう。

とはいえ、制服を着ている間はどうしても気が引き締まる。それは私も同じだった。


 「最初に食堂からご紹介します。私たちの生活拠点は、王城内に設けられた特別区画です。生活・訓練、そして任務への出発点となります。」


 「前哨基地からではなく?」


 「長期任務の場合はそうなりますが、それは主に小隊の仕事です。大隊には特別な任務が割り当てられます。誇ってくださいね。」


 「は、はい。」


仕事内容が明かされない分、重要度だけが重くのしかかる。ナリタテンマが大隊長を務める時点で、その責任の大きさは想像に難くない。


 「食堂、共有スペース、各個人の部屋。最後にミーティングルーム、以上です。」


 「個人部屋……ですか?」


 「はい。大隊は人数が少ないため、現在は一人一部屋です。プライベートが守られるなんて素敵でしょう?」


 「……先輩方は?」


 「もちろん在籍しています。ただ、毎年厳しい任務もあり、人数が減ることもあります。」


 「……。」


 「この仕事は命を賭けるものです。犠牲が出ることも承知しています。ですが、そのために日常まで心を削る必要はありません。それが私のポリシーです。仕事の時だけ、気を引き締めればいい。だから今は、どうか心を穏やかに。」


その言葉の奥には、拭いきれない後悔と悲しみが滲んでいた。


 「ここが食堂です。朝七時半、昼十二時半、夜七時半に料理が並びます。逃しても自炊可能ですから問題ありません。」


食堂は、訓練生時代とは比べものにならないほど居心地が良かった。前衛的でありながら、人が安らげる空間だ。


 「次に共有スペースです。」


見慣れない道具の中に、かつてクリスが作っていた魔道具の発展形があった。


 「ここではレジャーや仮眠ができます。自由に使ってください。」


 「クリス副隊長は、どのような戦術を?」


 「魔術による近接戦闘です。時には剣も使います。」


その危険な戦い方に、先輩たちは言葉を失う。


 「最後に各個人の部屋です。名前が彫られていますので確認してください。」


誰もが内心、ナリタテンマではなくクリスに書類を出したいと思ったはずだ。


 「以上で案内を終わります。本日はゆっくり休んでください。明朝九時に軽い挨拶を行います。」


 『はい!!』


扉が閉まり、部屋に残ったのは私とクリスだけ。


 「……お久しぶりですわね。ラナさん。」


その瞬間、彼女は副隊長ではなく、かつての友人の顔をしていた。


 「どうして……クリスがここに?」


 「少し長くなりそうですね。場所を変えましょう。ラナ・プラノードに話しておきたいことがあります。」


 「私の……目標に関係する話?」


 「えぇ。」

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