050話「結果」
入隊試験を終えた私は、次の日にはフュードルド学園に戻り、試験結果が寮のポストに届くのを待っていた。その期間、ただ待っているだけというのもいけないので、公園でひたすら鍛錬に打ち込む日々が続いていた。ラプは帰ってきて早々に私の試験の出来栄えを聞いてきたが、正直なところあまり自信はない。
自分の全力を出し切ったと言って後悔はないが、それでも不安は残るものだ。それこそ古今東西、私よりはるかに優れた剣士だろうが魔術師だろうが魔法使いがいるだろうに、そう考えると、そんなトップ層の人たちと自分を比べた時、酷く矮小に思えてしまうのだ。
だからラプには、それほどでもないと伝えた。というより、その時のラプの顔を見てハッとしたことがあるのだ。そう、お土産を買ってこなかったなと。
本人はあまり気にしていなさそうだったが、試験で気が詰まっていたとはいえ、私が忘れるなんて本当にらしくなかった。ともかく、そんな帰って一日目から、私は秋を越えて再び冬になるまで、毎日変わらないルーティーンを過ごしていた。
この虚無的な期間にやることは、自己鍛錬以外にない。いっそのこと学園外に出てしまうのも悪くないと思ったが、年内には届く見込みだと聞いていたため、今から学園を出てもすぐには結果が知れないとわかり、結局断念した。
クリスも最近は忙しいからか顔を全然出しておらず、本当に退屈だった。自分を鍛えるのは好きでも、一日のすべての時間をそれに費やすのは、ただの余計な追い込みであり、長期的なプランを立ててやる私とは壊滅的に相性が悪い。だから、本当に本当に人生が退屈だと感じる日々であった。
「…………」
勉強して得た知識が抜け落ちたわけではない。それでも少し退屈で、暇すぎたので、私は図書館へ向かった。学園では今も一〜五年生が授業を行っている。六〜七年生は行事に参加できるが、この年になるとほとんどが就職に向けた準備や対策に入るため、自由な時間は少ない。
一つ上のフェリア先輩も家業を継ぐということで貴族に舞い戻り、結果的に他より早く卒業した。六年生で卒業する人、七年生で卒業する人もいる。
それが、このフュードルド学園の校風だ。
図書館を訪れた私は、特に何かをしたくてここに来たわけではない。では、こんなところで何をするのかというと、ただ単に本に酔いしれたくなっただけである。
ラプに勧められていた小説も、結局は私が自分の都合で難しそうだと感じていただけで、こうして時間ができた今なら読めなくはない。そう思って膨大な本棚から目当てのものを見つけ、日差しが射す椅子の上で読み始める。
「あ、」
「あ、ラプ。」
「ラナ先輩! お久しぶりです! どうして図書館に? ……って、それ。」
「うん。退屈ですからね。気分転換も含めて、ラプから勧められた小説を今さら。」
「……! お隣、いいですか?」
「もちろん。」
ラプは私の隣に座る。その目には、懐かしいものを見るような、憂いを帯びた眼差しがあった。
「どうしたの?」
「いえ、その……お久しぶりだなって。」
「……寂しかった?」
「はい。その、一人じゃないんですけど、やっぱり先輩たちといる時が一番楽しくて。」
「そう。」
「先輩は、試験に合格したら、そのまま早めに卒業、ですよね?」
「うん。できるだけ早いほうがいいかなって。」
「そうですよね。」
ラプはわかっていたような、少し残念そうな声を出しつつ、咄嗟に作り笑顔を浮かべた。
「あ、私のことは気にしないでください! プリエルちゃんもいますから!」
「……うん。そうだ、プリエルといえばだけど、クリスは見た?」
「あ、いえ。最近は見てないです、クリス先輩。」
「そっか。ありがとう。」
「……先輩も、クリス先輩を見てないんですか?」
「うん。珍しいよね?」
「はい。いつもお二人、ご一緒でしたから。」
考えてみれば、クリスが忙しい時期は今までも何度もあった。それなのに、彼女が私の前に一か月、二か月、もうすぐ半年にもなるのに姿を現さないなんてことは、今までなかった。
どんなに忙しくても私の前には顔を出す。それが彼女だった。もっとも、それもこちらの勝手なイメージだと言われれば、それまでなのだが。
「クリス先輩も、就職で忙しいんですかね?」
「…………」
なんとなくだが、そうじゃない気がする。何の根拠もないのだが、クリスは私を意図的に避けているような気がした。それが何のためなのか、どんな理由なのか、こちらには知る由もない。
ただ、長年の付き合いの中で、そんな気がするのだ。
「卒業したら、忙しくなりますよね。先輩。」
「そうだね。でもクリスはきっとそうじゃないよ。いつでも誰かのために時間を作るタイプだから。私はそんなに器用じゃないけど。」
「──先輩、今日は一日中ここに?」
ラプは名残惜しそうな声で私に尋ねる。とはいえ、それもかなり隠してはいるが。
でも、後輩の隠れた感情に目を向けないほど、私も薄情ではない。
「うん。今日はラプに付き合おうかな。」
「──はい!」
それは、学園最後の一日を過ごすような気分だった。別に今生の別れというわけでもない。けれど、学園でこうして後輩と過ごすのは、きっと最後なのだと、私はどことなく直感していた。
後輩と一日を過ごした、その次の日のことだった。私の部屋のポストには、一通の手紙が入っていた。宛先は――
「異界探索部隊……!」
私は慌ててそれを部屋の机の上に置き、自室の鍵を閉める。誰にも邪魔されたくない、そんな気分が急に湧いてきたのだ。
机に座り、目の前に未開封の手紙を置いて睨めっこが始まる。結果を知るには封を開けるしかない。だが、今ここで開けるべきなのかと、こんな時に限って不安が押し寄せてきた。
そもそも、手紙の中にあるのは、すでに決定した結果だ。
(だから、どこで開けたって変わらない。)
それでも、中身を見るまでは知らないという事実が付きまとう。いずれにしても、私は知らなければならない。
伸ばした手を一度引っ込め、改めて手紙に触れ、封蝋に指をかける。覚悟を決めた末、それを引き剥がした。
「───」
中に入っていたのは、これ以上ないほど真っ白で清潔な一枚の紙だった。折り畳まれてすらいない。おそらく、この紙を引き抜いた瞬間、私の運命が決まるのだろう。
そう察しながら、私は紙を引き上げ、中身を確認した。
「──────」
そこに書かれていたのは、簡素な文章だった。
だが――
「……やった。」
複雑に書き連ねられた言葉よりも、私にとっては、はるかに価値のある内容だった。




