05話「カリスマの被害者」
「今日も疲れましたわね〜。」
「そうかな?」
「そうですわよ、少なくともラナさんは獣人族なのですから私たちとはスタミナが違いますから!」
それは事実だ。身体能力的な面を言えばいくらクリス人間の中で高かったとしても私に叶うはずはない。これは種族の違いによるアドバンテージとも言える。
「今日の持久走はしんどかったです。」
「クリスは短距離走型ですからね。」
「えぇ!もうすぐ学祭も近いことですし、練習しているのですよ!」
この学園では毎年恒例で学祭が行われる。いろんな屋台の出し物やクラブの成果物などが出される。しかしそれが競争とは聞いたことがなかった。
「短距離走で出し物ですか?」
隣を歩いていたラプが不思議そうな顔をしてちょうど聞いた。
「実は、運動部の助っ人を頼まれてしまいまして、なんでも怪我をして欠員が出てしまったらしく。」
「へぇ、大変なんですね。」
「治癒魔法を使える人はそれだけで希少ですし、治せたとしてもかすり傷程度ですから。仕方ありません。
「どっちにしてもクリスがいれば、勝ちは確定でしょう?」
「そんなに早いんですか?」
「えぇ!!ラナさんからお墨付きをもらうくらい!身体強化無しだったらいい勝負しますものね私たち。」
「なんで人間なのにこんなに早いか不思議なんですよね。」
クリスの短距離の爆発的なスピードは獣人族であっても負けてしまうほど早い。天性のフィジカルの高さがこんなところにまで出てくると。っと知った時は感心したものだ。
「私のお父様は戦場を走って移動していたと聞きます、もしかしたらそれかもですね。」
「馬とか使わなかったんですか?」
「曰く、走った方が早かったと聞いています。なんなら頑張ればちょっと空中を跳べたりもしていましたし。」
勇者ナリタテンマの武勇伝は本になるくらい有名だ。かくいう私も実際に読んだことはなくても教科書や本当かどうか怪しい噂話が入ってくる。
「まぁ当のお父様はこの話をしないでほしいと言いますわ。」
「どうしてですか?」
「それが、黒歴史らしく。」
「武勇伝が黒歴史なのも珍しい。」
「私が聞けば聞くほど答えにくそうな顔しますから。流石に可哀想と思ってしばらく聞いていませんわ。」
私の父も確かすごい話の一つや二つがあったと思う。なぜ思うのかというと毎回母が話そうとするのを止める父の姿があったからだ。男の人は若い時の話をあまりしない傾向があるのだろうか?
「あのクリス先輩は、今年もミスコンに出るんですか?」
「えぇ出ますわよ!自信はもちろんあります!!」
話は戻って学祭に。学祭では毎年ミス・フュードルドコンテストという学園1美しい女性生徒を決めるコンテストがあるのだ、クリスはその見た目からも毎回出場してはトップ2の成績を収めている。
「今年はあのギリドリスに負けないようにね。」
「当たり前ですわ!来年には卒業してしまいますから、今年で絶対に完全勝利を掴み取って見せます!!」
そう毎年行われるミスコン、クリスは2位成績を三年連続で取っている。そしてこの学園のミスコン始まって以降ずっとトップの座に座り続けているのが。
「……噂をすれば!」
地獄耳とも形容できるクリスは向こう側からやってくる人物の気配を真っ先に感じ取った。そして今にも殴りかかりそうなくらいの臨戦体制になる。彼女をこんなにする人物は一人だけだ。
女子生徒の悲鳴が聞こえながら誰もがその人物に道を開ける。カリスマ、美貌、性格、全ての面で完璧と言われている生徒のお出ましだ。
フェリア・ギリドリス
この学園で生徒会長の座に君臨し、多くのファンがいる聖女のような人物。シルバーの髪は一見人を寄せ付けない孤高の狼のようなイメージを持つが、その外観と反面している慈愛に満ちた性格はこの学園の男子生徒、女子生徒の大勢を虜にしている、控えめに言って罪深い人物だ。
「こっちに向かってきています?」
「えぇ、挨拶しにくるのですわ。すでに私と目が合いましたもの。」
そんな目と目があったらバトルみたいな。
と心の中で思いながら、美しい笑顔をこちらに向けたまま進んできている。これにはクリスも一瞬の足を後ろに下げようとするが、彼女の決意が逆に足を前へと進めた。
私も戦いでプレッシャーを感じることは多いけれど、美しいという面でプレッシャーを感じるのはこの人だけだ。散々言っているが、それほど目の前のフェリア・ギリドリスという人物はすごいのだ。
「こんにちは、クリスさん。」
「こんにちは、フェリア先輩!」
フェリアがクリスに向けているのは単なる笑顔、しかしクリスがフェリアに向けているのは紛れもなく敵対心だった。
「本日もお変わりなく一層輝いておりますわね。」
クリスの先制攻撃だ。有利は取れている、しかしこの穏やかな先輩から放てられるオーラはどこか集中力が落ちてしまう。暖かな陽光に照らされて眠くなるのと同じような原理だと思う。
美貌
「クリスさんの方も今日もバッチリですね。」
とエンジェルスマイルを見せている。っ!?眩しい!!
「もちろんです、淑女たるもの常に身だしなみに気を使うのは基本中の基本です。特に最近は気にかけています、何せミスコンがありますから!」
「クリスさんは今年も参加を?」
「えぇ、宣言させていただきます!今年こそは私が勝ってみせると!」
「それは楽しみね。私も一人の女性として受けて立ちます!」
貴方も頑張っているけど私も頑張る。これはクリスに対しての宣戦布告に近い、宣戦布告返しをされているような感じだ。圧倒的強者が自分も本気になって戦うとなればチャレンジャーも硬直してしまう。でもクリスはその程度で屈するほどやわじゃない。
「すごい希薄ですね。周りにいる人たちが離れていますよ、先ぱ───どうして私の後ろに隠れているんですか。」
「私はフェリアがあまり得意じゃないのです。」
そう実のところこうして二人の絡みを見ていること自体は悪い気分ではないのだが、フェリアが私を見つけるのはどうにかして避けてほしい。なぜかといえば。
「!私の第六感が告げている、もしや!」
フェリアと私の瞳が合う。私はその瞬間自分の運命を悟った気がした。
「やっぱりラナちゃーーん!!」
「なっ!?」
それは飛び込みだった。クリスが驚く隙に自由奔放なフェリアは私の元へと飛び込んだ。あの人の抱きしめは意外に強い、何せ獣人族だ。しかも私と違ってハーフの、気持ちが昂っている獣人族の抱擁はが弱な人間には絶えられない。
私はすぐさまラプを突き飛ばして、自分の回避を後回しに抱擁を受けた。
「ひさしぶりー!会いたかったよー!」
「……お、ひさしぶりです。フェリアさん」
「さん、なんて!昔みたいにお姉さんって呼んでよー!」
「フェ、フェェ、リアお姉さん……っ!」
まずい抱擁が思ったより強い。さすがはギリドリスの家系だ。プレンサさんと同じようにこの人もその血が語るような馬鹿力だ。これが無意識で放たれていることに恐怖しかない。
昔はこの抱擁が何倍も優しかったはずなのに、なんで私はチョークスリーパーをかけられているみたいな苦しみを覚えているのか。
「フェリア先輩!?ラナさん!?どういうことですか!!」
「言ってませんでしたか?私たちは幼なじみなんです。」
「う、がごごご!」
「それはわかりました!早くラナさんを離してください!顔が青くなってます!!」
「あ、ごめんなさい。」
パッと離されて休止に一生を得た私は大きく息を吸って吐く。危なかった、本当に気絶させられてしまうところだった。今まで戦ってきた中でいちばんのピンチだったかもしれない。
身構えていたのに死神がすぐそこまできていたと思う。
「本当なのですか、ラナさん?」
「げ、っほ。ほ、本当です。ただ姉なんて呼んでいたのはかなり昔です10年以上も、」
「それからなかなか会う機会がなくて、同じ学園に入学したのは知っていたのに、どうして私に会いに来なかったの?!」
「こ、うなるからですよ。」
もっともここまで酷いとは予想外だった。
「ごめんね、会えたことが嬉しくて。」
「……大丈夫ですか、先輩?」
「だ、大丈夫。それより突き飛ばしちゃったけど怪我はない?」
「ありません!それよりおかげで助かりました、もしあのまま抱きつかれていたら、私サンドイッチみたいに……。」
ラプの耐久力を考えれば全然ありうる。私も今の攻撃で骨の何本かが擦れた音がした。目の前の姉を名乗ろうとしている人はプロレスラーにでも転職しているのだろうか。
さもなくばあの華奢な体から繰り出される必殺技に説明がつかない。
「それにしても、大きくなったねラナちゃん。」
「やめてください、撫でられる年でもありません。」
「いつまで経っても、ラナちゃんは私の妹だよ?」
「何を言っているんですか……普通に幼馴染の他人ですからね。」
悪い気分はしないものの、やはりさっきの攻撃が私の体に拒絶反応笑生み出す。撫でられる手を弾くのはそれが理由だ。
「……───。」
「先輩、クリス先輩が固まってます!」
「本当ですね。。」
「っとと!そうだ、ラナちゃんお姉ちゃん用事を思い出しちゃった!また今度ねー!」
フェリアは私から離れて大急ぎでどこかへ飛んで行ってしまった。それはまるで自分の妹と触れ合えたことを自慢しに行くような軽やかな足取りだった。
「行っちゃいました。嵐みたいな人でしたね。」
「いつもの言動を見ればわかるけど、あんなにハイテンションなのは普通におかしい方だからね。」
「はい。あんなフェリア先輩初めて見ました。」
後輩の前でも恥ずかしい姿を出してもよしとする。それがあの人だ、カリスマなど美しいだの言われているけど結局内面は昔から変わっていない。いいとこ仮面を作ることに慣れてしまったのだろう。元々は格好つける人でもない。
「は!!フェリア先輩は?!」
「もう行ったよ。」
「ラナさん!!」
「うわ、どうしたのクリス───!」
「ラナさん!私たちはズッ友ですわよね?!絶対に裏切りませんよね?」
「待って、よくわからないけど。裏切らないから、安心して。」
「本当ですわよね。」
「近いクリス。だから、本当だって、」
「ミスコン応援してくださりますか!?」
「応援する。する。」
「そうですよね、はぁ〜〜〜まさか、こんなことがあるなんて。人生には油断も隙もあったものではないですね。」
テンションが急に高くなったり下がったり。今日のクリスは忙しい。
「先輩、クリス先輩から愛されてますね?」
「そうかな?」
いまいちよくわからない。ただ、何かそこはかとなく私が二人の間に立ちそうな予感がしたから、距離感を考えなければならないかもしれない。昔からそうだ、面倒ごとはたとえ友人の頼みでも御免だ。




