048話「試験二、」
大陸貫通列車に乗り、無事人間大陸にたどり着いた私は、適当な宿をとって、いつもの就寝時間ギリギリまで次の日の試験の準備をしてそのまま就寝した。
翌日、朝から万全の状態な私は、時間に余裕を持った状態で王城に向かった。
城下町に宿をとっていたおかげで、王城までの道のりは遠くなく楽なものであった。門前までたどり着くと、意外にもそこには行列ができていた。聞こえてくる声から、私と目的を同じにする人たちだということを理解した。
(書類選考だけでも、これだけの人が……)
意外だった。書類選考だけでも能力がなければ弾かれると思っていた私からすれば、その場にいた約150人近い、人種も種族もバラバラな人たちには驚かされた。
これだけの人たちが本日、私と同じく試験を受けるのだと。
これだけの人たちが、異界探索部隊に憧れを持って来ているのだということを。
門前でごった返している人たちは、門番たちが一人一人受験票を確認し、辺りに広がりきらないよう整列が行われた。
ここには生半可な気持ちで来ている人はいない。全員が、ここですでに試験が始まっているという気持ちを持ち、しっかりと列に並ぶ姿勢を見せている。
「受験票を」
「はい」
「どうも」
確認が取れた人から列に並んでいく。手際はいいものだ。
三列に並んでいるところから、おそらくこの三つの列それぞれに試験官などが割り振られる形式なのだろうと予想する。
この場にいる全員の確認が取れたのか、門番たちは声を大きくして拡声器を使い、アナウンスをした。
「これより、異界探索部隊の入隊試験を開始する。私語は厳禁。列を乱さず、そのまま前の人に従い、指示が出るまで待機せよ!」
門がゆっくりと開き、私たち受験者はそのまま中へと入っていく。まるで統率の取れた軍隊のような行進だ。
この場で私語を言う人はいないだろう。右も左も前も後ろも無口と錯覚せざるを得ないほど、誰も喋っていない。この集団圧力の中では、いくら荒くれ者であろうとも、お利口にしていなければならないのである。
「ここは面接会場。面接官による一対一の面接が行われる。質問に対して簡潔に述べよ」
拡声器を通じてのアナウンスが行われる。
私たちは大きな室内へと入り、そこに配置されている椅子に全員ぴったりと着席する。席の数が余ることも、足りないこともなかった。誰も遅刻せず、誰かが間違えて入ったということすらないということだ。
「受験番号──」
前の人から順に受験者が立ち上がり、奥にある扉を通ってどこかへ行く。きっとあの扉が面接会場の入り口だと誰もが思う。私も同様だ。
ただ、ここでプレッシャーばかりに気を取られて頭を空にするのは、最も愚かな考え方である。
私語は厳禁であるが、口を静かに動かすくらいなら問題はない。私は無音の発音チェックを行う。口がどのように動いて言葉を発するか分かっているのなら、その通りに行えば自然にチェックができる。
一人、また一人と、前の席に座っていた人たちが扉を潜る様を黙って見ながら、私は最後の時まで自分のことだけに集中していた。
「受験番号──」
右隣の席には誰もいない。私の番号が呼ばれると、私は静かに立ち上がり、指示に従ってあの扉の前まで来る。
そして一秒にも満たない時間で覚悟を決め、私は扉を開けて面接室へと入る。
面接の基本は、相手に好印象を抱かれることにある。ダンスのような足元に意識を張りつけて歩くよりも、その誠意を見せることが第一だ。
誰も決められたテンプレートなど、気にしようもない。
礼儀を持ってこれに臨む。数百回は練習した動きに、私の体はほぼオートで対応していく。ここまではいいだろう。
しかし肝心の質問に関しては、意識をはっきりとさせて答えるしかない。
「志望動機を──特技を──」
立て続けに来る質問に、私は冷静に答える。ここで嘘をつく必要はない。ただ自分の意思を簡潔に伝えるだけだ。
「近年起こっている異界への失踪事件に、私の父が巻き込まれたため、これを探すためであります」
「……」
人助けなんて贅沢な言葉は使わない。これで落とされたら別にそれでいい。逆に私は、意思もなく無償で人を助ける方が、よっぽど不気味だと思う。
「特技は身体強化、魔術、魔法を生かした近接戦闘です」
「武器は?」
「剣です」
私の素性は、すでにあちらに割れている。私がハーフの獣人族であり、魔法や魔術を使えることに、なんら違和感を持つことはないだろう。
気にはなるが、実際にそれを質問で問うほどのレベルではない。
それからは、ただただ淡々と質問と応答が繰り返された。
部屋の異常な静寂は、心を落ち着かせるというよりも、だんだんとこちらの心を追い込んでくるような気がして、たまらなかった。
「最後に──貴方は、異界探索部隊に入隊以降、その活動全てに全面協力できますか」
「はい」
「わかりました。面接は以上です。あちら側の扉から次の会場に行ってください。お疲れ様でした」
「……失礼いたします」
私は二礼の後、部屋を出ていった。
面接での緊張を、次の会場までの道中で大きな深呼吸によってリセットし、私は頭を切り替える。
ここから先は、実技試験の時間だ。




