047話「試験一、」
夏休みが終わり、大学の勉強は駆け足となった。私や同学年の生徒たちは皆、軒並み就職に向けての試験を受けることになる。書類選考で受かる者もいれば、面接で受かる者もいる。
私の場合はというと、そのすべてだ。異界探索部隊は近年設立されたばかりだからか、従来の就職で採用されている方式とは、いずれも違った点が見受けられる。
全ての能力、全ての力――それが世界を跨いでも通用するかどうか。否、通用させなくてはならない。そのため昨年度のデータでは、倍率一五〇〇倍という、どう考えてもおかしな数字が出ていた。
※平均は五〇倍くらい。
とはいえ、世界を跨いでの活動ということを考えれば、この倍率も頷ける。実際のところ、私たちがやるのは安心した職場での安全な業務ではなく、危険な世界での人助けや未知への開拓だ。
志がいくらあっても、それで命を落とすくらいなら、いっそのこと冒険者の方がいいという話もある。だが、この倍率からもスローガンからも感じ取れるのは、これは決して遊びではないということだった。
(それでいい。)
私は自分の人生にかまけて、仕事をおろそかにする人間じゃない。戦いの場には常に油断なく挑まなくてはならない。それがいかなる過酷なものであっても、私は望むところだ。
試験は人間国内の王城で行われる。理由は、この異界探索部隊の実質的なリーダーがナリタテンマであるからだ。かの王がこのプロジェクトを直々に指揮している――そう考えるだけで、肩にのしかかるプレッシャーは相当なものになる。
私たちは王を守る近衛騎士のように、厳格で、それでいて優秀でなくてはならない。もしくは、あの人たちよりさらに高みを目指さなくてはいけないのだから。
書類選考に関しては特に問題がなかったのか、受験票が送られてきた。「決して無くさないでください」という札付きで、ここで無くしたらどうしようもないだろうに、と内心思いながら、私は受験日まで日々鍛錬を欠かさず、何が来てもいいように知識を蓄えた。
大陸貫通列車に乗り、前日にはすべての準備を整えて、私は人間国へ向かうことになった。
「ラナ先輩! ファイトです!!」
「ありがとうラプ。いい知らせを持って帰ってくるね。」
「はい……。」
ラプは別れが寂しいのか、今にも涙を流しそうだった。そこまで大げさなことではない。ただ試験を受けに行って、帰ってくるだけだ。
けれど、もし残念な結果で帰ってきたら、私も流石にラプのように泣きたくなるのかもしれない。
「お土産は何がいい?」
「……えっと、美味しいもの! 美味しいものがいいです!」
「わかった。」
「ラナさん、どうか気をつけてね。」
私を見送りに来たのはラプだけではなかった。学園長だ。七年間にわたって何かと気遣ってくれた彼女には、本当に頭が上がらない。
今回の書類選考の際にも、色々と手配をしてくれた。感謝してもしきれない。
「はい。クリス、来ないね。」
「あ、クリス先輩は外せない用事があるらしくて。」
「……クリスも、みんなも忙しいからね。」
皆、自分の人生に向かって精一杯走っている。そんな中で、後輩や世話になった人が見送りに来てくれるだけでも十分だ。
この人たちが私を支え、応援してくれている。その事実を思うだけで力が湧いてくる。
「……それじゃあ、行ってきます!」
「頑張ってくださーい! 先輩!!」
私は気持ちを切り替えて列車に乗り込んだ。新しい旅に出る感覚とは違う、まるで死地へ向かう英雄のような気分だった。
胸の内に溜まっているのは、重く黒い何か。幸い、悪い予知夢は見ていない。だからこそ怖さもあるが、未来は結局、自分で決めるしかない。
だから私は列車の中で、最後の最後まで諦めず、面接や実技試験で使う道具や言葉を何度も反復する。
最後の最後まで、気を抜くことはない。




