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043話「冬の過ぎ去り」




 王都フラッグリンの旅行も終わり、大手を振って故郷に再び別れをつけてきた。8日間のこの旅行は本当に長い日々だったと、私は記憶している。大きな経験、小さな経験、それ全部が平和な日常の賜物であると思いつつ、この日々には決していない人物のことを、常に影のように思っていた。


 冬休みが終わって、再び新しい学期が始まった。そこでも私はただの女性生徒のように、勉強から自分の剣術の腕を磨いたり、友達と平和に過ごしたりと、なんでもない日々を送った。テストもあったが、私は別に特別苦戦なんてしない。


 そうして冬が終わって春になって、春休みになっていた。春休みが終われば、私も最後の学年となる。春休みの最後のあたりには卒業式が行われ、私の自称姉を名乗るフェリア・ギリドリスは、泣きながら私との別れを惜しんでいた。


 (今まで、特に深い交流があったわけでもないのに。)


 と心の中で思いながら、私も少しは別れを惜しんでいた。厄介避けせずに、もっと交流しておけばよかったと後悔する程度には。


 そして春休みも最後の週に差し掛かってきた頃。


 「ラナさん、いらっしゃいますか?」


 「……クリス?」


 新学期に向けての準備をしていたところ、クリスが寮に訪ねてきた。プリエルも一緒だ。クリスの隣に控えつつも、手には細長い箱を持っている。


 「ひと足先に、新学期の挨拶と参りました。」


 「学園ですればいいのに。」


 「ラナさんはご親友ですから、他よりも特別ということです。」


 「クリス、誰かに贔屓するのはあまり好きじゃないんじゃなかった?」


 「もちろん、かの哀れな勇者と一緒にされたくないですから。ですが、それは表面的な話。私もほら、人間ですから?」


 クリスは相変わらず満面の笑みでそれを答える。勇者嫌いなのが本当によく伝わるものだ。


 「それで、今日は挨拶だけじゃないのでしょう?」


 プリエルを一瞥する。ただの私への挨拶程度なら、クリス一人で来ればいいものを、わざわざプリエルも引き連れて、それに長い箱まであるのは、どう考えたって違和感がある。


 「はい。本日はプレゼントをお送りに来ました。」


 クリスは寮のロビー近くのテーブルまで私を連れる。小スペースの応接間的空間には、時計の針がカチカチと鳴り響く音が、やけに鮮明に聞こえてくる。


 「ラナさんは、プラノード抜刀術をお使いになりますわよね?」


 「まぁ。」


 テーブルを挟んで向かい合うように座ると、小型のティータイムセットが私の目の前で展開される。ここ近年、魔道具のランクが飛躍的に上昇していることは知っているけど、ついこの間まで折りたたみ組み立て式だったティータイムセットが、いつの間にかカラクリを利用した全自動展開機になっていたとは驚きだった。おかげでプリエルは紅茶とコーヒーをスムーズに淹れることができる。


 「実はそのことをお父様に話したところ、大変興味深く思われまして、こちらを。」


 プリエルが慣れた手つきでコーヒーと紅茶をテーブルの上に置くと、すぐさま長い箱のロックを解除し、両手で持って私の前へと差し出す。


 「………。」


 そこには二振りの武器があった。

 一つは木剣だが、何やら刀身が先にかけて鋭くなっており、鍔がない。もう一方は完全な金属製の刀身で、木剣のシルエットをそのままに、独特な四角形の鍔が特徴的だ。デザインも、これまで見てきた武器の中では初めて見る部類のものだった。


 「これは?」


 「こちら、カタナと言われるものです。お父様の故郷で古くに扱われていた武器種であり、ラナさんの抜刀術を活かすためには、この手の武器でないと難しいと助言を受け、それで専用に打ってもらいました。」


 「! 私のために!?」


 「えぇ。お父様も興が乗ったのでしょう。それは私と共によく考えてくれましたわ。」


 「………それで、これを私にって?」


 「はい。お気に召しませんか?」


 「そんなことはないけど………」


 なんだか恐れ多い気がする、とコーヒーを飲みながら思う。味が変わったのか、それともプリエルの淹れ方が上手くなったのか、コーヒーがいつも以上に苦くてコクがあるような気がする。


 「私には勿体ないんじゃないの?」


 「まさか。プレゼントというのは、何も記念日にもらうものだけではありません。日頃の感謝を伝えるため、だとかもあります。なので、これは私がラナさんに感謝を告げるためのもの。そういう体でいいですか?」


 「………実際に持ってみていい?」


 「はい。なんなら公園に行って練習でもしましょうか?」


 「じゃあ。」


 「プリエル。お片付けが済んだら、ご一緒に。」


 「はい、クリス様!」


 私たちは春休み真っ只中の公園にやってきた。学園祭での事件以降、ここは春の始まりまで封鎖されていたが、つい最近になってやっと解放され、緑色の風が吹くようになった。


 「……ピンク色?」


 「あれはカミザクラという木です。なんでも東側の海沿いの街に生える、美しくも珍しい花の木らしいですわ。お父様も故郷を思い出すと、喜びになるほど。」


 「……ナリタテンマの故郷ってさ。」


 「別の世界でございますわね。ですが、そことは何かしらの共通点があるのでしょう。世界は繋がっているとは、よく言ったものです。」


 「この辺でいいかな。」


 公園には誰もいない。こんないい天気だというのに、ピクニックする人すらいない。とても静かで、ピンク色の花がゆっくりと散っている。


 プリエルが簡易的なスタンドを用意し、私はその方向に向き直る。クリスから手渡された木カタナを構えてみる。曲がった刀身は、実際に構えてみるとなんだかぎこちない。この剣が目の前の敵に当たるか、不安になってしまうほどに曲がっているからだ。

 だがそれは、抜刀術を利用していないからだろう。


 (……!)


 実際に抜刀術に切り替えてみると、なんとも言えないしっくり感がくる。刀身が曲がっているのは、引き抜く際にスムーズにするためだと自覚させられる。そして軽く引き抜き、抜刀術スタイルでの戦闘に脳を切り替える。


 まだ慣れない。木剣と違い、これは曲がった刃の部分で一直線に切り裂くことを目的としている。刀身による防御などもってのほかで、完全に究極の一撃を目指すために制作されている。

 クリスの言った通り、抜刀術向きである。


 「いかがですか?」


 「全然慣れないかも。」


 「そうでしょうね。ラナさんは、ここぞという時にしか抜刀術を使いませんから。」


 平時で運用するなら、まだこれにも輝く点があるのだろうけど、流石に限定的な使い方をしている私では、あまり上手くいかない。


 「真剣の方もいい?」


 「はい。切れ味は折り紙付きです。」


 とクリスに言われて、私は握ってみる。刃を見てみれば、先ほどの木剣との違いは一目瞭然。あちらよりも一撃必殺の意識がかなり高く、鋭く、どこまでも切断する勢いのある刀剣には、一周回って今まで使っていた真剣よりも恐怖心が湧いてくる。


 「………一撃。」


 立てかけられているスタンドを、真っ二つに引き抜いてから切るイメージを湧かせる。武器を持てば、その特性がなんとなくわかるが、これを完全に扱いこなすには、今までの先入観を全て捨てなければならない。


 持ちやすい鞘を握り、力を入れる。少しだけ刀身を見せ、まっすぐに引き抜いてから攻撃に展開する意識を、頭に何度も叩き込み、一呼吸ののちに切り掛かる。


 今までの抜刀術は、かなり力を入れての攻撃だったが、いざスタンドを真っ二つに切り、カタナを鞘に戻してみると、なんとも言えない感じに収まる。


 (敏感すぎる。)


 「どうでした?」


 軽い拍手をしながら、クリスはカタナの感想を聞きにくる。


 「全然、扱いがまるっきり違う。」


 「そうでしょうね。」


 「これ、本当に私がもらってもいいの?」


 「はい。扱い方は、おそらくラナさんが一番得意となるでしょう。私もラナさんから少し剣を習っている身ですが、まず引き抜くところから苦戦しました。そして、いつも剣を扱うみたいにやってしまえば、おそらく刀身が持たない。私自らも、ラナさんが持っていただく方がよろしいと思いますから。」


 「………わかった。ありがとう、クリス。」


 「はい。お気に召しましたようで何よりです。」


 「お礼に、どうしようか。カフェでも行く?」


 「あら、いいですわね。いつものところに行きましょうか。プリエルも一緒に行きましょう。」


 「はい!」


 私たち三人は、後片付けをしたのち、いつものカフェへと向かった。クリスから新しい木カタナとカタナをもらったけど、私がこれを扱いこなせるようになるまでは、かなりの時間がかかると、なんとなく感じていた。




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