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04話「偶然の産物」





 学園の授業が終わって私たちは帰路についていた。隣のクリスはいつも通りのご機嫌状態で私に話しかけ続けている。これをすべて理解して返すのは流石に疲れるところもあるので、私も相槌を打ちつつ話半分に聞いている。


 「そういえばラナさん、小説はお読みになりますか?」


 「小説?」


 「はい!最近流行っているのですよー!」


そう言いバックの中から取り出したのは小程度の大きさと厚みしかない本だった。片手間サイズといえばちょうど良いだろう。


 「どうぞ。」


 「うん。」


私は無理やり押し付け──手渡された小説のタイトルだけを見てみる。流石に歩きながら小説を読む趣味はない。


 「ドラゴンと青髪の少女?」


 「ええ、フィクションなのですがなんともリアリティにあふれた、友情物語なんです!私も興味本位で手に取ってみたのですが、読む手が止まらないんです!もう五周もしてしまいました!」


 「クリスがこういうのにハマるのって珍しくない?」


 「えぇ、私はラナさん一筋ですから、嫉妬しました?」


 「全然。」


 「がーん。」


落ち込むクリスを放っておいて私は最初のページを捲る。歩いているせいで、文字を正しく読むことはできないけれど、そこには確かに隣りのクリスが言っていたようなリアリティある言葉が並んでいる。ただロマンチックな言い回しをする主人公の心情がどこか分かりにくそうだなと思った。


 「どうですか?」


 「面白そうなんじゃない?」


 「あら、気は引きませんか?」


 「私に文学は向いていませんから。」


 「そうですかね?」


 「そう。」


本読んでいる暇はあるけどそれとは別に難しいのとかややこしいのは、なんか感覚が鈍る気がするのだ。夢見の後のように頭がポーッとして現実の現象に身が入らない、頭がフリーズしたときに似たあの感覚が定期的におそってくる。


だから私は小説を読まない。というか読んではいけない。


 「残念ですが、無理強いはしてはいけませんわね。」


 「ごめんなさい、こういうのは本当に。」


 「いいえ、良いのです!それにラナさんが小説読まなくて良かったです、だってイメージとは違いますもの!」


 「褒めてる?」


私は剣術一筋みたいなイメージを抱かれているのだろうか?もしそうなら、私もクリスを爆閻魔嬢という認識を抱かなくてはならない。因果応報だ。


 「あの、すみません。」


 「おや?」


メガネをかけ、なんだか臆病そうな少女が私達に声をかけてきた。真っ先に反応したのは隣りのクリスだった。


 「そ、その私のこと、覚えていますでしょうか?」


 「……ラナさん?」


 「えっと、」


どこかであったっけ?と言ってはいけない。ここは黙ってやり過ごすしかない。本当にごめんなさいだけど私はクリスほどイメージが強い人じゃないと昔から覚えられない癖があるのだ。


 「先々週の火曜日、私を助けてくれましたよね!」


 「……先々週の、あ!」


思い出した。先々週クリスと帰りが別になったとき、いつもの広場が埋まっていて剣術の練習をどこでやろうかと普段じゃ行かない人気のない広場に行こうとしたときだった。


 『ははは!!ほら取ってみなよ!』


 『あ!や、やめて!』


人気のないところだったからか、そこで一人の女子生徒をいじめている中等部の生徒に出会った。私からすれば全員年下だが、いじめている側の方が年上だとすぐに理解した。

数は三人、一人の女子生徒の大切なものだろうか、本をボールのように投げてはなんとか取り返そうとしている、顔は泣きそうだった。


本がパラパラと空中で広げられては乱雑な形でキャッチされている。あれでは本がすぐにダメになってしまうのは火を見るより明らかだった。


 『か、かえして。』


ついには泣いてしまって動けなくなった女子生徒の周りに三人は集まる。返して欲しい?といって少女が手を伸ばしたとき、スッと引っ込めてわざと取らせないようにしている。

私はその行為に滑稽さを抱いた。


剣術の練習をしようと考えていた私の思考はとごかに行っていた。


 『何をしているの?』


 『あ?』


私はいじめている三人組の前に立った。手に握られた剣にはすでに力が入っていた。本来剣を引き抜く瞬間から当たる瞬間のその時まで力を緩めるのがセオリーだ、しかし当時の私はそこまで冷徹になれなかった。


 『あんた誰?』


 『あなた達に名乗る名前はない。』


 『うっわ!キッツ、正義の味方気取り?』


正義の味方がなんなのか理解できなかったが、煽られていることは理解できていた。


 『もしかして、この子を助けにきたヒーロってこと?』


 『……え?』


少女は私の方に目を向ける。私もそれの瞳を一瞥した後、目の前の調子に乗っている三人組にゆっくり前に出る。


 『なんだよ、やるのか?その剣で?今更剣とか、、』


 『……。』


その時の私はすでに集中状態に入っていた。目の前の三つを標的と捉えて、それ以上の対話を望まなかった。私を馬鹿にしたことよりも、目の前の弱者をいじめていた事実だけがあの歩みを進めていた。


 『ねぇ、あの制服高等部のじゃない?』


 『それに、なんかどこかでみたことあるような?』


 『な、何ビビってんの二人とも、三人なら負けるはずがないっしょ、行くよ!!』


三人組は自分の体に身体能力を施して私に向かってきた。舐められてたまるか、という維持のものがその敵意から感じられた。

獣人族は基本的に魔術も魔法も使えない。近年では身体的にマナを回しているせいで人間やエルフのように単に容量がないことだとすで魔術魔法学で発表されている。そのため私たち獣人は五体のある一部にマナを集中させて身体強化を行い、今まで歴戦の戦士が天性的に使えていた能力を一般的に使えるようになっている。


このようにいじめをすることでしか自分を表現できない馬鹿でも学んだりすれば使うことができて一気に強者の土台に立つことができる。ただ、それはあくまで生まれ持った幸福が続いているだけだ。


 『!』


直線的な3段階の攻撃、最初はパンチだった。意識を集中させればこの程度簡単に回避することができる。木剣を引き抜いてから拳が当たるより早くその脳天に強烈な一撃を放つ。

防御をしていないのだから気絶は必然だった、続けて後ろに続いていた二人目には首に一撃そして腕を引っ張り、壁に放り投げる。

三人目私の動きが見えるほどの動体視力はあった、目の動きが速かったことは覚えている、ただ体が動かなかったんだと思う。そんな棒立ち状態の彼女には足払いをして浮かした後、剣の持ち手でそのまま下へと撃ち落とした。腹部を強く撃ちすぎたせいか白目を剥いて泡を吹いて失神してしまった。


 (しまった、気絶で済ませるつもりだったのに。)


お粗末な身体強化ではこうも防御力が低いものなのかと実感しつつ私は知らないふりをして剣を再び腰に戻した。そして一人目をぶっ飛ばしたときに落としていた本についた汚れを少し払って、目の前で唖然としている少女に手渡した。


 『はい。』


 『あ、あり──ござ、』


 『もう取られないようにね。』


と、確かこんな感じに女子生徒を助けたことがあった。それを思い出して目の前の子を見てみればあの時助けた子にそっくりだった。


 「あの時の。」


 「ラナさん、助けた人の顔くらい覚えましょう?」


 「ごめんなさい。すっかり忘れてた。」


 「いえ、その……あの時のお礼を。本当に助かりました、ありがとうございました!」


 「いえいえ、ラナさんはこのように冷たいように見えますが、当然のことのように人助けをする優しい方なのです。」


 「なんでクリスが私のことを……」


 「はい。その、とってもカッコよかったです!」


 「そうですわよね!やっぱりあなたもラナさんの良いところが分かりますわ。」


クリスとその子はとても楽しそうに会話をする。忘れていたのはそうだけど助けたのは私なんだけどという気持ちが湧いてくる。これが疎外感というやつなんだろう。


 「そうだ、貴方……お名前は?」


 「あ!すみません。自己紹介がまだで、私はラプ・クラークと言います。苗字はあるんですけど平民です。」


 「あら、素敵な名前に苗字ですよ。それに国際法律で平民にも苗字が決められる制度はもう数年前から決まってますから!だから恥じることはありません!」


 「ありがとうございます、苗字褒められたの初めてで。あの、よろしければお名前をお伺いしてもよろしいですか?」


 「いいですわ。でも私の苗字は高くつきますよ!」


 「え!っとお小遣いで足りますか?」


 「クリス………。」


クリスの肩を叩き冗談を止めるように諭す。普通の人は彼女の咄嗟の冗談に対応できないことがほとんどだ。せめて私が見ている間はこういったふうに静止するしかない、さもないと永遠と冗談を使って相手の対応を見て楽しむ愉悦型お嬢様に変わってしまう。


 「冗談ですわよ。もちろん、タダで教えます。私はナリタ・クリス、そしてこっちの貴方を助けた───」


 「ラナ・プラノード。」


クリスに紹介したら変な肩書きが増えそうだなと思った私は彼女の言葉に重ねるように自分の名前を告げた。


 「……なりた?ぷらのーど?」


 「あら、ラナさん。固まってしまいましたわ。」


 「ぽいね。」


 「ええええええ!?!!?」


5秒くらい経った後ラプは動き出した、同時に大きな声を出して驚いた。周囲に人がいなかったことが幸いだと思った。


 「え、ナリタってあの人間国王族の……!?」


 「あら、私ったら有名。」


 「いや、有名じゃない方がおかしいからね。」


 「本物ですか!?」


 「モノホンよ。私は歴としたナリタテンマの娘です!」


 「あ、わ。」


 「またフリーズしそうですね、そんなに驚くことかしら?」


 「そんなに驚くことだと私は思いますよ。」


逆に何を根拠に驚かないと思っているのだろうか。大胆不敵というか自分と他人との先入観のなさは相変わらずだ。


 「それに、プラノードって!《剣術の達人》の!?」


 「待って、それは知らない。」


初めて言われた。二つなみたいな言葉。俗世の噂話に疎い私でも流石に自分のことくらいは把握しているつもりだ。でも本当にラプがいった言葉には聞き覚えがない。


 「私も知りませんわね、どなたがおっしゃっていたり?」


 「剣術の先生です!いつもトップクラスでとっても強い剣術の先輩がいるって!!」


 「あ、あーあの先生ですか。確かにいいそうですわよね、ね?《剣術の達人》さん?」


 「クリス。」


次その名前で呼ばないでと目で伝えた。剣術の達人なんて、私はそんなクラスにあげられるほどの人物じゃない。少なくとも普通の剣術家だ。それも少し自信がある程度の。


 「なんでも、剣術でドラゴンを倒したんでうよね!?」


 「えーそうなのですかー!」


 「いや違いますから!!なんですか剣術でドラゴンて!」


竜種はとっくの昔に絶滅しているし、もし本当だとしてもおばちゃん以外にありえないし。しかも剣で倒したのならまだしもなんで剣術というカテゴリーに入れられたのか、これが噂が望まぬ形で一人歩きというのだろうか。にしたって酷いものだ。


 「違うんですか!」


 「違います。」


 「あら、否定は夢の破壊につながりますよ?」


 「流石に限度があります。可能ならまだしも……」


不可能なことに嘘をつくメリットは存在しない。


 「では、そういった話が話題で?」


 「はい、ラナさんに憧れて剣を始める人もいるくらいには!」


 「あらら、随分と熱心な後輩ができてしまいましたね。」


 「……うん〜。」


なんていったらいいんだろう。喜ぶべきか惜しむべきか。でもいつか私より強い人が出たり、私に並ぶ人が出たりした時には自分にもいい経験が入るかもしれない。でも、流石にこの一人歩きしすぎな噂はなんとかしたい。


 「ちなみにラプさんは何が得意ですか?」


 「えっと、私は特に得意なものなんてなく。本読むことが好きなだけで。」


 「十分な趣味ではありませんか、私も最近本を読んでいるのですよ。」


クリスは私のことを差し置いて後輩と仲良くするために本を取り出した。このコミュニケーション能力は私も学びたいところだ。


 「あ、それ読みました。」


 「本当?!ぜひ感想を!」


 「はい!」


私目当てで来たはずのラプはあっという間にクリスと仲良くなって本の感想を言い合い、互いに本を勧めるほどの中になっていった。これが真の疎外感かと私は静かに思った。


 「それでは私はこの辺で。ラプさん、もしよろしければ近いうちにお昼でもご一緒しましょう。」


 「はい、クリス先輩!!」


クリスに大手を振って別れる私たち、クリスはいつも通り眩しい笑顔でこっちに手を振りながら馬車で帰って行った。私とラプは同じ方向に量があったのか、一緒に歩いているただ会話はない。


 「ラナ先輩、先々週は本当にありがとうございました。」


 「私は特にすごいことはしてないよ。たまたま通りかかっただけ。」


 「でも、私を助けてくれたのは事実です!私は、ラナ先輩に助けられて嬉しかったです!」


 「そう。」


少し気分が良くなる。ラプの純粋な笑顔を見ていると本当にあの時進んで行動して良かったと思う。いわゆる後悔がない人生を少しでも歩めたと思える。


 「それと、ちょっと安心しました。」


 「安心?」


 「はい、ラナ先輩。噂では鬼みたいな人だと思っていたので。」


 (話しかけられた時そんなふうに思われてたの私。)


 「でも実際に話して、そんなことないって思いました。ラナ先輩は鬼でも、ドラゴンを倒せるほどの人物でもなく、普通に私たちと同じ女子生徒で私の憧れの先輩だと再認識しましたから!」


 「そう。」


普通。その言葉は私にとっては特別だ、ある人は私のことを普通じゃないというけれど。私からしたら普通でいたい。そんな中純粋な感想としてそういってくれるのは私としても嬉しい限りだ。


その後、ラプとは同じ寮だったということもあり、次の日から一緒に登下校することとなった。



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