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038話「冬休み十二、」




 「この度は愚息が、誠に申し訳ないことをした。」


 「いえ……。」


目の前にログレス・キングラッドがいる。私は部屋を移され、豪華な客室に招かれていた。右を見ても左を見ても豪奢な造りで、さっきの暖炉だけの部屋に比べると、かなり落ち着かない。

匂いや諸々を含めて不快というか、慣れていないせいで気がまったく休まらない。この硬い雰囲気は、庶民の私にとって天敵だ。


 「なんとお詫びをしたら良いか。」


 「……いえいえ。どうか頭を上げてください。」


 「王よ。向こう側も困っています。」


 「あぁ──だが、私の気持ちも察してくれるだろう?」


 「それは、まぁ。」


男はよそを向きながら、呆れた顔をしていた。先ほどの少年、サルベルは別の部屋に連行されていった。正直、状況が状況でよく分からないので、本人も交えて説明してもらいたいと思っているが。


 (とてもじゃないけど、王様にそんなこと言える気概はない。)


 「ともかく。本日は誠に申し訳ない。息子にはきつく言いつけておく。」


 「はぁ……あの、質問よろしいですか?」


 「構わない。」


 「なんで私、ここに連れてこられたんですか。」


 「それは──本人の口からも後で聞くつもりだが。おそらく、私の息子は君の言動が気に食わなかったのだろう。君を見つけたとき、そのことで、わざわざ誘拐してでも謝らせたいと思うほどにな。」


 「……その、心中お察しします。」


 「すまない。」


私と目の前の王様の間に、再び気まずい空気が流れる。こうなってしまっては、会話を展開するのは至難の業だ。


 「本来なら、なにか謝礼品を渡したいところなのだが。」


 「いえいえいえ! いいです!」


 「──あぁ、あいにく、もらっても困るものしかないと思ってな。そこでだ。本当にすまないのだが、名前を教えてもらえるか?」


 「名前?」


 「君がもし、この国内で厄介な目に遭ったとき、私が君の名前を知っていれば、多少の融通を利かせることができる。正直、これくらいしか渡せるものがないのだがな。」


 (それはつまり、貸し一つというところ。)


私が今後この国で不運に見舞われたとき、ログレス・キングラッドの権力を一度だけ行使できる、ということだ。限度はあるだろうが、それでも相当な力だ。


 (断りたい。)


そんなものを持っていても、面倒なだけだ。それに、こんな話をしている本人は、この言葉の重みを理解しているのだろうか。

もっとも、自分の息子が犯した不始末に、それほど頭を悩ませているとも取れるが。


うーん、と少し唸ったあと。


 「わかりました。ただ、使わずに終わるかもしれませんよ?」


 「それで構わない。それこそ、私の誠意の証だと思ってくれていい。」


 「……わかりました。ラナ・プラノードです。」


 「プラノード……?」


 「? なにか?」


国王は私の顔をしばらく見つめたあと、何かに気づいたように頭を抱え、ため息をついた。

一見、馬鹿にされたようにも見えるが、そのため息の重さから、それが新たな悩みの種であることが分かった。


 「あの愚息は……これは、私の責任かもしれんな。」


 「あの?」


 「なんでもない。ポキンズ、彼女を見送ってくれ。私は──あの馬鹿者に、教えるべきことができた。」


 「はい。それでは。」


男の案内に従い、私は部屋を出る。結局、最後の言葉の意味が分からないままだったので、せっかくだから聞いてみようと、思わず声をかけた。


 「あの。」


 「プラノード……王は、あなたの苗字に少し因縁がありまして。」


 「い、因縁?」


 「失礼。正しくは、あなたのお父様とお母様に、ですが。」


 「父と、母に?」


 「はい。深いものではありませんが……王にとって、あまり良い思い出ではないようで。どうかお察しください。」


 「あ、はい。」


気になる。とても気になる。

だが、これ以上は聞いてはいけない話だと感じた。

ログレス・キングラッドという大人物と、私の平凡な両親に繋がりがあった。その事実だけで、頭がいっぱいになる。


豪華な通路を進み、門前に到着した。ここまで来れば、案内がなくても帰れる。


そう思った、その時だった。


 「ポキンズさん!!」


 「どうした!? そんなに慌てて!」


 「その! 人間のウィザードが、大門を魔術で吹き飛ばそうとしています!!」


 「なに!?」


 「まさか……。」


私はポキンズの後に続き、大門へと駆け出した。

そして予想通り、そこには怒りをこれでもかと溜め込んだクリスが、両手に特大の火球を浮かべ、今にも放とうとしていた。


 「ラナさんを解放しなさい!! さもないと吹き飛ばします!!」


 「クリス先輩! 落ち着いて!!」


 「クリス様、かいけつしない! かいけつしない!」


二人が必死に止めているおかげで、クリスも誘爆を警戒し、なんとか踏みとどまっていた。一触即発の空気だ。

おそらく、魔術で私の痕跡を辿って、ここまで来たのだろう。

王城に囚われたと思えば、こうなるのも無理はない。


……いや、実際攫われていたわけだけど。


 「これは……!」


 「すみません。私の友達です。」


私は臨戦体制に入ろうとするポキンズを手で制し、前に出る。


 「クリス!」


 「……っ! ラナさん!?」


私の姿を見た瞬間、クリスは火球を消し、一直線に駆け寄ってきた。

なお、止めていた二人は、その突風に巻き込まれて吹き飛ばされていた。本当にごめん。


 「ラナさん!! どうしてこんなところに!!」


 「はいはい。説明するから、とりあえず邪魔になる前に帰ろう。」


クリスを押しながら、私はポキンズと王城に一礼し、その場を後にした。

クリスに話すことは山ほどあるし、今日はこの後も予定が詰まっている。


……なのに、もうかなり疲れてしまった。

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