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034話「冬休み八、」



 旅行四日目。先の三日目は王都の散策などに注力していた。いろいろと思い出がありすぎて語るに語り足りないため、個人的には割愛だ。

それと、私とプリエルの気まずい会話は二人にばっちり見られていたらしく、その日は後輩と友人を大変怒る羽目になった。

結局、次の日にみんなで買い物や散策を楽しんだのが昨日である。


 だが私たちは王都ですることがほとんどなくなったため、少し冒険魂を燃やしてみようという話になり、ちょっと遠くの街へ行ってみようと計画を立てていた。


 「確かに王都の名所は歩き尽くしてしまいましたし、よその町に行ってみるのもいいですわね」


 「でもどこに行きます?外には魔獣がいるわけですし」


 「そんなものは拳と魔法で黙らせてあげれば良いのです。なので、どこへ行くかを考えましょう?」


 「うぅ……クリス先輩はさすがというか……」


 「いや、ラプ。クリスは脳筋なんだよ」


 「脳みそは無論、筋肉でできていますから。ノーダメージです」


 「じゃあクリス、腕に脳みそ付いてるの?」


 「はい!全身脳みそがわたしです!」


 「開き直った!」


 「実際そうだから、何も言えない」


 クリスはマッスルポーズを取りながら自信満々に語る。自信があることはいいことだし、この人はそう言っても許されるという不思議な保証がある。


 「ともかく行き先を考えましょう。候補として、わたしが行きたいのはもちろん!」


 「私の故郷、レオーナでしょう?」


 「はい!!!」


 「ラナ先輩の故郷……どんなところでしたっけ?」


 「前にも言ったかもしれないけど、実力主義な街だよ」


 「え?」


 「と言っても、それで差別するわけではありません。簡単に言えば、実力次第で評価が変わるということです」


 「クリス様、言ってること同じ」


 「む、そうですか?」


 それより、クリスが私の故郷について自信満々に語るのはどうなのだろう、と一瞬考えたが、一度訪れていることを思えば、意外と説明役として適任なのかもしれない。


 「……実力さえあれば、権力だろうとものともせず上がっていける街。世の中は元々偉い人がふんぞり返ってることが多いけど、レオーナでは弱くなれば権力も落ちる。だから強く居続けなければ、力は与えられない。そんな街かな。ごめん、あんまり説明うまくなくて」


 「いえいえ!でも、そうなると弱肉強食って感じなんですか?」


 「ある意味ではそうとも言えますね。とはいえ社会というシステムが死んでいるわけではありません。自分の能力次第で居場所が決まるという感じです。かなり平等な街とも言えますわね?」


 「そうかな……でも、そうかも」


 あの街で、いじめというものを見たことがない。性格が悪ければ、それだけで力がないと思われかねない空気はあったが、誰もが自分の研鑽に命を注いでいた。

他人を貶す暇があるなら、自分を磨け。そんな無言の圧を、私も感じ取っていたのだろう。


 父でさえ、私には戦うなと言いながら、毎朝欠かさず走り、鍛え、庭で武器の練習をしていた。家族を守るための意地だったのかもしれない。


 どちらにせよ、あの街は限りなく平和だ。もしかしたら、この王都よりも。


 「では、ラナさんの故郷に早速洒落込みましょうか?」


 「待って。私も行きたいところがある」


 「ラナさんが、ですか?」


 「何、その意外そうな顔」


 「意外ですわよ。ラナさんといえば、不動の化身。他者を寄せ付けぬ仏のような存在、無の境地」


 「ねえ……ひどくない?私だって自我あるんだけど」


 「でも、クリス先輩の言ったこと、わかる気がします……」


 「ラプまで!?」


 「ラナは、コミュニケーションがヘタ」


 「うぐっ」


 プリエルからの一言は、鋭い刃のように突き刺さった。この間の出来事が、何よりの証拠だからだ。


 「はい、そこまでにしましょう。これ以上ラナさんをdisると、可哀想かわいいではなく、可哀想おいたわしいになってしまいますから」


 「ク……クリス、言うね」


 「お友達なのですから、当然です」


 今度覚えていなさい、という視線を向けつつ、私は体勢を立て直す。心にはまだ矢が刺さっているが、いずれ抜けるだろう。


 「それで、話を戻しますが。どこでしょう?」


 「(脱線させた本人が戻すのね)……ラグナース平原」


 「……あら」


 「?どこですか?」


 「……知らないところ」


 クリスが目を細める一方、二人は首を傾げていた。無理もない。


 「ラグナース平原。十数年前に人間族と獣人族が戦争をした跡地。そして停戦条約を結んだ場所」


 「……戦争の!」


 「───聞いたこと、ある」


 ラプはすぐに気づいたが、プリエルはそうでもなさそうだった。戦争があったこと自体、知らないのかもしれない。


 「……どうしてそこを?」


 「教科書で習ったけど、一度行ってみたかった。ただそれだけ」


 「……左様で。お二人はどうですか?」


 「どっちでも」


 「私は……ちょっと怖いですけど、行ってみたいです!」


 「──お二人とも、勇気がありますわね。それにしてもラプさん、怖いとは?」


 「え、その……お化けとか出ないかなって」


 「──っ、オホホ」


 「な、なんで笑うんですかぁ!」


 「いえ、その発想があまりに可愛らしくて」


 「クリスは柄に合いすぎてるでしょ……」


 「安心してください、幽霊など出ません。出ても焼き払えばいいのです」


 「な、なるほど……」


 「ラプ、鵜呑みにしないで。クリス、焼け野原をさらに焼け野原にしないで」


 「たしかに死者への冒涜ですわね。はい、自重します」


(絶対しない)


 ちなみにクリスは、実は幽霊が苦手である。数年前、学園祭のオバケ屋敷で、教室ごと焦土にした事件を私は忘れていない。


(もしかして心配すべきは、元戦場の空気じゃなくて、クリスそのものでは?)


 「それでは──優先順位はラナさん。明日から行きましょう!」


 「え、明日?」


 「はい!今日は準備をします!」


 「準備って、何が必要な……」


 「準備をします────よろしいですか?!!」


 「……うん」


 なるほど。私には不要でも、クリスには必要なのだ。絶対に。


 「お二人は宿屋でゲームでもしていてください!」


 「いや、手伝うって」


 「結構です!!!いきますわよプリエル!」


 「まって、クリス様───」


 二人は街中を爆走し、あっという間に姿を消した。


 「あの……ラナ先輩。クリス先輩に何か?」


 「……うん。いや、なんでもない。ああいう時も、たまにあるだけ」


 「そうなんですか」


 ラプは納得したようだった。クリスの地雷を踏んだのは私のミスだ。後で謝ろう。

そして明日は──まあ、うまくやろう。

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