表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
33/96

033話「冬休み七、」



 王都二日目。この日の予定は特に決めておらず、街を散策する──そんな感じになっていたはずだ。

なぜ「はず」なのかというと、私は何も決めていないからである。どちらかといえば、今回の旅行を企画したラナとクリスが大まかなスケジュールを組んでおり、サプライズが如く、私には何も伝えられていない。


 ちなみに一日目のあれは完全にラプも知らない行動だったらしく、昨日の夜は三人でクリスを咎めたりしていた。

今後、勝手な行動は控えるように──と、当たり前の注意と共に。


 そして街の散策だが、どうやらショッピングが目的らしく、私は買いたいものや欲しいものが特にないこともあって、縁のなさから辞退しようとしていた。が──


 「と、いうわけで。プリエルをよろしくお願い致しますね、ラナさん!」


 「待って待って」


 クリスの唐突な発言についていけず、私は思わず彼女を制止した。空いていた片方の手で、もちろん彼女の頭を押さえながらだ。


 「どうしてそうなるの?」


 「どうしてもこうしても簡単なことでしょう。ラナさんは今回ショッピングには行かないと申しました。そして私とラプさんはショッピングに行くと申しました」


 「ごめんなさい先輩」


 「いや、ラプは謝らなくてよくて。その……つまり私がプリエルをしっかり見ておいて欲しいってことだよね?」


 クリスは頷く。

いや、何か言ってくださいよ。


 「私である?」


 「ラナさんなら大丈夫でしょう?子供が嫌いというわけでもありませんし。あ、プリエルを子供扱いするのはやめてくださいね」


 「やめてね」


 「そんなつもりは……いやいや、そういうんじゃなくてさ。プリエルはクリスの従者なんでしょう? ならショッピングに行くなら、私じゃなくてクリスの方がいいんじゃないの?」


 「そうですが、それだとラナさんは一人になってしまいます。寂しいはずでしょうし、今日はラプさんと過ごしたい気分なのです。ね?」


 「は、はい!! そうなんですラナ先輩! ですからプリエルちゃんは連れていけません!!」


 「……おう。そうなんですか」


 これって、いわゆるデートというやつなのでは? と私は思い始めた。クリスとラプの距離はどことなく近い。ならば口出しは無用だろう。

しかし、私とプリエルが一緒にいるのは、少し不安だった。


 彼女とはまだ心を明かし合ってはいない。私ですら、プリエルという人物がよくわかっていない。


 「……ラナさん。この機にプリエルと仲良くしてみてくださいね」


 「────」


 クリスは私に近づき、そっと耳打ちした。

もしや仕組まれたことなのでは──と一瞬勘ぐったが、そんなことを考えているうちに、


 「では! プリエルのこと、よろしくお願い致しますよ!!」


 そう言い残し、クリスはラプと手を取り合って走り去ってしまった。逃げるようなその背中を見送りながら、私は深くため息をついた。


 とはいえ、いつまでも気まずいままではいられない。私は場所を変えることにした。


 「えっと、プリエル。朝ごはん、食べた?」


 「……」


 首を横に振るプリエルと共に、近くのカフェテリアへ向かう。店の吟味は特にしていない。雰囲気がよく、朝食が食べられればそれでいい。

店内に漂う、学園近くのカフェとは違う匂いに少し驚きつつ、席に座った。ガラス越しに見える公道の景色はやけに綺麗だった。


 「お金のことは心配しなくていいよ。好きなの頼んで」


 そう言うと、プリエルは迷いなくメニューを選び、店員を呼んで小声で注文した。聞かれたくなかったのか、単に話すのが苦手なのか、私には判断がつかなかった。


(とりあえず、話題を……)


 よくわからない味のコーヒーを口に含みながら、会話を切り出す。


 「プリエル、いつもクリスのことありがとうね」


 「……」


 「クリス、ああ見えてちょっとダイナミックだから、困ったことあったら言ってね」


 「……」


 「……えっと、クリスは優しい?」


 「……」


 頷き三回。

落ち着け、私。質問の仕方が悪いだけだ。頷き以外で答えられる質問を──。


 「──プリエル、今は楽しい?」


 「……」


 また頷いた!

ダメだ、私の会話スキルが絶望的すぎる。


 「……その、プリエル。──食べるのは好き?」


 「……」


 「……何が好き?」


 「……特にない」


 「特に、ない?」


 やった、会話だ!


 「──おいしいとか、よくわからないから」


 「……そっか」


 気まずい沈黙が流れる。


 「お待たせしました。ソフトパンケーキミックスです」


 「おお……」


 プリエルは明らかに体に見合わない大きさの、ソフトクリームが山盛りのパンケーキを前に、目を輝かせてフォークを動かした。


 「……おいしい?」


 「──! お、おいし……いや、まずいわけじゃない」


 「無理あるよ」


 頬にクリームをつけたまま睨まれ、私は思わず苦笑した。


 「……さっきのは嘘?」


 「うそじゃない。おいしいのが、よくわからないだけ」


 哲学的すぎる。


 「自分がもう一度食べたいって思えるなら、それがおいしいんじゃないかな」


 「……ある」


 「じゃあ、それが好きなものだよ」


 「……そうなんだ」


 その後も、プリエルは黙々と食べ続けた。


 「……あの時は、ごめんなさい」


 「……気にしてない」


 「……ありがとう。助けてくれて」


 「当然のことだよ」


 「でも、お礼は必要。今まで、当然じゃなかったから」


 ──彼女の言葉は、静かに胸に残った。


 その後もプリエルはよく食べた。

レシートの金額を見て、私は悟る。


 プリエルは、クリスに育てられて少し図々しくなったこと。

そして、思った以上に逞しいこと。


 ともあれ、私たちの距離は確かに縮まった。

お金という犠牲を払って。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ