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03話「剣の道」





 剣は好きだ。

悩みの多い私の人生でこの剣を握って構えている時だけは何も考えずただ五感と目の前だけに集中することができる。気になっていた周りの話し声も、気になっていた逃れられない環境音も、この剣を握った瞬間に全て静寂に置き換わる。


それが真剣であっても木剣だとしても、私はこの状態になる。だから心が落ち着かなくて、何もかも嫌になりそうな時は剣を握って眠ることがある。もちろんこれは誰にも話していない。知っていてもお母様くらいだろうと思う。


そんな私がなんで剣に執着するか、それはただ一つ。


 (お父様が私に残してくれた最後の宝物だから。)


父は別に剣の使い手ではなかった。ただ、私が父から教わった中で最も記憶に残っていたのが剣だっただけだ。私はそれに縋り付くように今まで生きてきて、その力を伸ばし続けた。

伸ばした力の名前は紛れもなく剣術。


魔法と魔術が合わさり普及し始めてから、剣術を使う人は少なくなった。理論さえ学べば誰でもお手軽に火力が出せる方が良い、誰だって楽はしたい、もちろん私も魔術や魔法は使う。


ただあくまで剣術がメインだ。ある人は時代遅れと言うだろうけど、私からしたらまだまだ捨てたもんじゃない。なんなら考えることが多いと手が止まる魔術や魔法よりこっちの方が純粋で楽だ。


 (私の個人的な感想だけど。)


その個人的な感想も、実力が出ていれば誰にも文句は言われない。私と同い年の子も習い事程度の剣術しか身についていない、それこそ授業で剣術をやることにおいては必要性がないなどと言っているほどだ。

私も必要ないと思う。なぜなら。


 「がッ─────」


相手にした教員の声が真っ白な世界に響く。手が地面に触れたと脳が認識した時、私は無空の世界から現実へと引き戻される。


 「勝負アリ、ラナさんの勝利です!!」


審判を担当していたクリスが超えたからかに私の勝利を宣言した。私が剣術の授業の必要性があまりないと思う理由の一つに、まず相手が弱すぎる点を挙げようと思う。


 「ま、まいった。ラナ・プラノード、また君の勝ちだ……」


教員は完膚なきまでに叩きのめされたのか悔しい言葉一つ吐かず私に勝利を譲った。私のそれを見つつ少しがっかりする。確かに腕は前より上がっているけど私の実力に見合わない点、そしてこうもあっさり負けを認める点だ。その手にはまだ剣が握られているというのに、これが真剣同士の戦いならどちらかが気絶するまでやるのがセオリーだ。


その緊張感を味わえないのも、私ががっかりする点の一つ。


 「流石です。先生、テストはもちろん満点でございますでしょう?」


 「もちろん。教師として生徒に負けるのはいささか心にくるが、実力を認めないのはもっと恥だ。」


 「では次は私ですわね。ラナさん、本物同士の戦いみたいに判定しないでくださいね。」


 「流石にしません。いつも通りの判定基準です。」


クリスは私が物足りないことを理解しているのかわざとらしくそう言った。もちろん、これは木剣同士の勝負だどちらかが地面に手をついたら負け、または剣が弾き飛ばされたら負け、敗北条件はこんなところだ。

私はただ黙ってそれを見ていれば良い。


 「勝負、始め!」


私が合図を出すとクリスが、まっすぐ移動する。彼女は魔術に精通しているがその大胆不敵な行動が特徴的なウィザードだ。

魔術を使う時も、剣を使う時も彼女は自ら進んで敵の目の前に接近する。


 「ハァっ!」


彼女が両手で、下段から上斬りを放つ。大ぶり極まりないが天性のフィジカルを信用し切っているのか、おかげで教師は防御体制をとっていたのにも関わらず少しよろける。


そのよろけたことによってボディへの隙ができる。ただここで安直な手に出ないのがクリスの恐ろしいところだ。彼女は体全身に捻りかけて、生まれた隙を見逃し、相手にわざと下手くそなフリを演じながら下段の足に向けて薙ぎ払いを行う。


 「!」


相手は当然、剣術に体が追いついてないと誤認して、先ほどと同じように遅れてやってくるノロマな剣に余裕の防御の構えをするが、それこそクリスの狙い通りだ。

彼女は相手の一挙手一投足を読んで行動する、あえて自分を下に見せ相手に油断を作りそして最適解とも言える厄介な行動で勝ちを狙いにいくパターン。慢心しているように見える彼女の態度に相手もまた慢心する。


初見に彼女と戦った時に感じ、すぐさま打開策を打てた私ならまだしも普通の人なら、なぜここでクリスが勝つのかわからないだろう。


 「───、っえい!!」


クリスの下段切り払いによって地面に転がされた教員は彼女の切り上げによっていたも簡単に剣を弾かれてしまった。


よく彼女は自分の剣術は下手くそと言っているが、教員に勝てるというれっきとした事実はそれだけの実力はあると彼女に記している通りだ。


 「勝負アリ。勝者、ナリタ・クリス。」


 「勝ちましたわ!!やったー!」


無邪気に喜ぶクリスの姿は見ていて微笑ましい。対して教師のプライドはかなりズタズタだ。まさかクリスに先を越される日が来るなんてといった具合、私もクリスがまさか教員に勝てる日が来るなんて思わなかった。


いやもしかしたら。


 「ラナさん!私も無事満点ですわ!!」


クリスは私に抱きつき、喜びを分かち合おうとしている。その目は嬉しさと期待でいっぱいになっている、ここで彼女を突き放すなんてのは友人としてできないことだろう。


 「はい。よくできましたねクリス。」


 「わ〜〜ァ!」


クリスの頭を撫でてクリスは喜ぶ。私たちの喜びの分かち合いはだいたいこんな感じだ。

その後も教員はメンタルがちょっとボロボロの中でも頑張って生徒たちのテストを行った。私だったら二連続の敗北は相当応える、そんな中でも頑張る姿は勝負とは異なりやはり憧れるものがある。教師の意地というか生き様を感じられるという感じ。


 無事二人とも満点を取れた記念として、私とクリスは共にカフェに来ていた。この島にはいろんなお店やレストラン、屋台までもがあるが私たちが日頃お世話になっているカフェは比較的に女子生徒に人気!というよりかは一風変わったダンディなお店。コーヒーの匂いが店内に充満しており、私はこの香りでリラックスができている。クリスはコーヒーではなく紅茶派だが、ここの紅茶は独特な味がしてかなり本人の好みらしい。


私は普通で、平凡で特に手がかかってないと思うあたり、舌の違いが出ているのだろうと思う。


 「今日は疲れましたわね。肩が上がりませんわ。」


 「クリスは今日頑張りましたね。」


 「えぇ、この日のために日頃から計画を練っていたものですから。」


 「それは、テストで満点を取る方法?」


 「もちろん。」


私の問いにクリスは得意げに答える。その笑みは作り笑顔とも自慢ともどちらとも取れる不思議な笑顔だった。彼女のこういう策士な点は正直同い年といっても怖い、真剣勝負では絶対に勝てるが、それでも一矢報いて負けにされそうな危険さがある。


 「まぁ、ラナさん相手には通用しませんけどね。私の魂胆、どうせお分かりでしょう?」


 「もちろん。いつもの授業で、わざと私と組んで弱いアピール、教師もまんまとその認識のまま戦って初動は守りに徹する気持ちにさせた後、油断を突いたクリスは見事に勝利、てところ?」


 「あらあら、やっぱり見破られていましたか。ですが一つ訂正を、私本当に剣術は下手くそなのですのよ?」


 「わかってますよ。クリスは剣術が下手くそ……!」


多分彼女の基準は勇者ナリタテンマだ。それに比べたら私の剣術だって下手くそになる。

わかってていっているのか、ただそういう認識でいてほいと言っているのか、たまに彼女がよくわからない。


 「ラナさんは本物ですからね。私のように勝ち負けにこだわり続けた姑息な令嬢とは大違いです。」


 「実戦ではそれも必要になりますから。クリスの力も必要です。」


 「あら、ラナさんからそう言われると照れしまいますね。ですが私は思うのです、戦いにおいて最後に勝ち負けを決めるのは結局のところ己の力であると。」


 「そうかな?」


私からすればクリスの勝ち方は洗練されていて、物理的な面が強い私より綺麗に思える。


 「わかっていないようなのでもう一言。いくら戦術戦略が優れていたとしても、そのすべては完璧な兵がいてからこそだと思います。私は人で、まだ若く未熟です。才能や一方向の経験がいくら多かったとしても、大人には敵いません。彼らは激動の中を突き進み、私たちに知恵を授けてくれます、ですが劣化版を見せられている私に比べて本物という一点において彼らには優位性が生まれます。」


 「………えっと、つまり?」


 「つまり真の強さを持つラナさんは私より強いということです!」


目を輝かせて私を褒めてくれる友人。私からすれば勝てば勝者というのが身に染みているので、決してクリスが弱いなんてのは思えない。ただこれを言えばエンドレスなので私は素直にその賞賛を受け取ることにした。


 「ラナさんは、他の人とは違う真の強さも持っていますから。その件に込められた願いもわかるというものです。」


 「そうですか?」


 「えぇ、以前おっしゃってくれた。お父様から習ったというお言葉、ただの興味本位で習っていたり、必要性だけでやっている私よりも遥かに黄金の輝きがあります。」


私は剣を父から教わった。

このことを話しているのはクリスとお母様とおばあちゃんくらいだ。父は達人ではなかったものの、私が常日頃鍛錬している父の姿に憧れて渡されたのが剣だった。

自分の持っている武器よりも、剣を使っている人が多いからというなんとも未来的な思考から渡されたものだったが、その言葉に従うように私は今でも剣術を極め続けている。どんな時でも私の憧れだった父のように1日も剣から目を離したことはなかった。


 「そっか。」


 「ですからどうか、その輝きを忘れずに。」


 「でも、クリスも魔法とか魔術とかが得意のはず。」


 「そうですね。まぁ私のコレは独学が強いですからね。父も母も私に戦いの力は身につけてほしくないようでして……。」


 「そうだっけ?」


 「えぇ、平和な時代だからと言っていましたわ。私から言わせて貰えば、戦えない自分なんてただの可愛いお姫様です、そんなものはおとぎ話の中に席置くのがぴったりです。今の時代淑女も令嬢も弱者もすべて自ら絶対の武器を持ち、自分を脅かす外敵を木っ端微塵にするのが常というものです!!」


 「そうかなぁ。」


クリスの思想はなんというか先進的な気がする。でもそれがクリスだから否定することはできない、それに彼女の言い分もわからなくはない。要は戦えない、のはダメだということ。

どんな者でも戦えるようにしておくこと。


 (そう、そうじゃなければ。)


もしあの時の私に力があればと思ったことは数知れない。この学園に入って数年、私はこの後悔が消えたことはない。


 「ラナさん、もしよろしければこの後訓練場で手合わせ願えませんか?私一週間に一回ラナさんと剣を合わせないと、満足に眠れなくなってしまいますから!」


 「それは大変ですね。これを飲み終わったら、近くの広場にいきましょうか。」


 「はい!」


クリスの重病を治すために私はその後、彼女と手合わせした。地面に何度打ちつけてもクリスは砂を払い、得意な表情を崩さず向かってくる。彼女と戦っている最中は、術中にハマらないように常に気を張ってないといけないため緊張感が生まれる。この本当に戦っていると錯覚してしまう、気持ちは私に対してもかなり良い効果を引き出していた。

結論として彼女と戦うのは楽しい。


 「はぁ!負けてしまいました。これで20対0。さすがですわ。」


 「クリスも、前よりも技が鋭くなったね。」


 「はい、最近力任せに振って勝とうとするのは馬鹿のすることだと気づきましたから!」


 「うん、そうだね。」


クリスは天性のフィジカルがある。鋭くなった技にこれが乗ると流石の私も厄介に思ってしまうほどだ。私もハーフでありながら獣人族なのに、この力に追従しようとする彼女は末恐ろしい。


 「そう言えばクリスは自分の目標とか決めてあるの?」


 「特には決めてませんわ。ですが、いつかラナさんの隣に立てるくらいまでは強くなるつもりです!」


 「そう。」


もう十分隣に立ってると思うけど、そんなことを言って仕舞えば彼女のみなぎりと闘志に水をかけることになる。私は黙ってその言葉を聞き流すのであった。




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