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026話「冬」





季節は冬。ここフュードルド学園では、毎年雪が降る。肌寒くなったかと思えば秋は終わり、いつの間にか雪が降り積もり、学園は一面の白い世界へと生まれ変わる。この光景も何年目かになると驚かなくなる。この学園に入った頃は、珍しく感じていた雪がこんなにも積もって、テンションが上がったものだが、今ではこの冬をどう乗り切るべきかを考えるようになってしまった。


というのも、私は寒い季節がどうにも苦手らしい。獣人族は総じて体温が高く、冬でも問題なく過ごせることが多いのだが、私はハーフなので、その特性をいまひとつ受け継いでいない。

体温は人間より少し高い程度で、獣人族の平均体温との中間。そのため、人間族と同じように冬は普通に寒く、正直なところ布団からも出たくない。


ここまで率直に思ってしまうあたり、私は完全に季節に負けているのだと実感する。


 「寒い……。」


首に巻いたマフラーだけでは物足りず、手袋やイヤーマフまで装備して、白くなった歩道を歩いている。整備された石レンガの道は、ふかふかの雪の下に氷を作っており、迂闊に足を運べば簡単に転倒する。私がここに来て初めて尻餅をついた事件も、この時期だった。今思い返しても恥ずかしい。


 「……えいっ!!」


 「ひやあああああぁぁぁっ!!!??!」


冷たい何かが猫耳に触れ、私はとんでもない悲鳴を上げた。意識を歩くことと体温調節に向けていたせいで、背後に忍び寄る存在に気づけなかったのだ。

転ばないように注意しながら身を翻し、背後の“敵”に向き直る。


 「おはようございます! ラナさん!」


 「……っ」


正体はクリスだった。安心と不快感が入り混じった、なんとも言えない感情が胸に落ちる。クリスでよかったと思うべきか、クリスこのやろうと思うべきか。


 「クリス……それ、やめてって言ってるよね?」


 「はい。昨年聞きました。」


 「一昨年も言ったよ? それに、その前もだからね?」


 「はい。知っています!」


じゃあ、なぜやるのか。


 「……とりあえず今年も、それはやめてね。私の耳、意外と敏感なんだから。」


獣人族にとって耳は、もはや生命線のようなものだ。個人的な威厳もそうだが、種族的にもチャームポイントであり、安易に触っていいものではない。クリスが赤の他人だったら、今頃ぶっ飛ばしている。


 「ですが、ラナさんの耳はとても暖かいので。」


 「せめてこっちにしてくれない? ……いや、こっちもダメだけど!」


イヤーマフを外して温まっていた人間側の耳を指差しながら言った。普通、人の耳に触れるなんてあり得ないし、どちらにしてもやめてほしい。特にクリスは毎年この時期になると、手が雪のように冷たくなる。その手での奇襲は、体のどこであっても勘弁してほしい。


 「では、脇はいかがです?」


 「ダーメです。私の体、どこもダメです。炎魔術で温まって!」


 「わかりましたわー。」


クリスは炎魔術で手を温めながら、私の隣について登校を始めた。雪が降っても、この学園は基本的に授業がある。この島では毎年雪が降るのだから、当然といえば当然だ。


 「そういえば、プリエルは?」


 「あの子なら先に行ってしまいました。雪にとてもテンションが上がっていたので、おそらく友達に共有したかったのでしょう。」


 「従者とか言ってなかった?」


 「もちろん従者ですわ。ただ、その関係性で縛るのはナンセンスです。」


実にクリスらしい返答だった。クリス経由でプリエルの話を聞くと、本人も心置きなく学園生活を楽しんでいるようで、少し安心する。


 「ですが、朝はやはり肌寒いですわね……。」


 「こら、プリエルを湯たんぽにしない。」


おそらくクリスのことだ。寝る時はプリエルを布団に入れて、湯たんぽ代わりにしているのだろう。この淑女、遠慮がない。


 「では、久しぶりにお泊まり会でもいたします?」


 「私を湯たんぽにしないならね。」


 「あら、釣れませんね。」


寒い中でも、クリスの言葉は鋭い。毎年思うけれど、この友人に明確な弱点はあるのだろうか。

湯たんぽを求める割に、クリス自身は寒さに強い。実際、私より防寒装備は軽装だ。魔術を使っているとはいえ、常時展開できるわけではないはずなのに。


 「早く校舎に入りましょう。きっと中は暖かいですわ。」


 「そうだね。」


校舎に入り、温まりながら私たちはいつも通り授業を受け、昼休みになった。

最近の魔術・魔法技術の進歩には、毎度驚かされる。幼い頃、父が手作りしてくれたストーブの前から動けなかったことを、毎年この時期になると思い出す。それが今では、室内にいるだけで常に暖かさが保たれる。しかも、何かが焼けるような匂いがしないのが実にいい。

人間より嗅覚が利く私にとって、ストーブの点火や消火時に漂う独特な油の匂いは、あまり好きではなかった。


 「さすがに、ここまで寒いと外では食べられませんね。」


 「外で食べられなくても、皆さんがいれば同じですわ。」


冬は食堂派の私とクリス。今日はラプとプリエルも一緒だ。相変わらず無言のプリエルの心情は、なかなか読み取れない。


 「先輩たちは、冬休みはどう過ごされるのですか?」


 「まだ決めておりませんね。家に帰るのも悪くはありませんが、特にやることもありませんし。」


 「私は、一応家には帰ろうかな。エルフルにも言っちゃったし。」


 「じゃあ、このメンバーでどこか行きませんか!?」


 「旅行ということですね。面白そうですわ。」


 「はい! ラナ先輩、どうですか?」


 「私もいいよ。ただ、年末は難しいけど。」


 「よし! プリエルちゃんはどう?」


 「…………。」


相変わらず黙ったままだが、静かに頷く姿で意思は伝わってきた。


 「それじゃあ決定です。日程と行き先はどうします?」


 「私が決めてもいいなら、決めたいです!」


提案者だけあって、ラプはかなり積極的だ。ここまで活発な彼女も珍しい。


 「実は一度、獣人国に行ってみたいなって思っていて!」


 「獣人国? 王都?」


 「はい! 私は人間族なので、先輩の国にも行ってみたくて!」


 「あら、素敵ですわね。私もラナさんの故郷には訪れたことがありますが、王都をじっくり回ったことはありませんでしたし。」


 「そんなにいいところでもないと思うけど。」


正直な感想を口にした。でもそれは、自分の国だからこそそう思っているだけかもしれない。フュードルド学園に来てから、王都の街並みをきちんと見たことはなかった。父に連れられて観光したのも、はるか昔だ。

楽しくなかったわけではないが、思い返してみると、特別印象に残る出来事も少ない。観光向きかどうか、自分でもよくわからない。


 「それは行ってみてからですよ。案外、楽しめるかもしれませんよ?」


 「うん。」


行き先が王都でいいのか、という疑問を抱きつつも、私たちは冬休みの計画について話し合った。荷物、旅費、集合時間……。

話しているうちに、なんだか楽しみになってきて、そうして残りわずかな冬期の学園生活は終わりを迎え、冬休みに入った。


最初の行き先は、獣人国王都フラッグリンだ。

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