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024話「ミスコン」





 僕は獣人国王都の大陸貫通列車に乗って、無事目的地であるフュードルド学園にたどり着いた。大陸貫通列車は、数年前に作られた獣人大陸と人間大陸の二つを結ぶ長距離列車だ。従来は船、または人間の魔術によって作られていたワープゲートを通ってでしか移動できなかった。そのワープゲートも維持コストが高かったらしく、なおかつ、ある程度適性がない人じゃないと通れないと、意外と万人受けしなかった。


そのため、この大陸貫通列車が作られた。誰でも使えて、誰でも両国間を移動できる優れもの!身分証とそれなりのお金を払えば、誰でも乗せてくれる。僕みたいなスライムでも、許可証さえあれば乗れるほどだ。お金持ち以外と大したことのない値段、それもそのはず、この大陸貫通列車を利用する人はたくさんいる。

みんなが使えるように安くするのは、今じゃ当たり前だ。エルザードおばあちゃんがそう言っていた。


そんな列車に乗って、僕はフュードルド学園に足を踏み入れた。道中、僕を見るあらゆる人たちの視線が痛かったけど、まぁそれはもう慣れちゃったから。普通にスライムの人型なんて、大勢の人は見たことないだろうし、あんまり気にしてない。ただ、子供相手に質問されるのは、ちょっと大変だったかもしれない。答えられないわけじゃないけど、僕自身、どうやってこの姿になったか具体的に説明できないからだ。慣れたからなった、というやつ。


 そんなあらすじはさておき、到着した僕がまずやることは、もちろんこのデート衣装をラナに届けることだった。ラナから住所は受け取っていたから、あとはその番地の寮に届けるだけとなっていたんだけど。


 「えーと……」


僕は実のところ、住所を読むのが得意じゃない。目がふやふやだから無理というわけでもなく、純粋に方向音痴だ。今まではエルザードおばあちゃんと一緒に、いろんなところを回ってきたりして、近所あたりくらいはようやく覚えたんだけど、ここフュードルド学園に来るのは初めてなせいで、右も左も分からない。看板を見ればいいって聞くけど、その看板も僕からすれば、いまいち分からないところが多い。


方向音痴は、看板を見てもよく分からないんだ。


 「あの、大丈夫ですか?」


そんな僕に声をかけてくれたのは、ここの学園の女の子の生徒さんだった。


 「実は、ここの寮に行きたいんだけど、道が分からなくって。」


 「あ、ここ、私が入っている寮ですね!よかったら、案内しましょうか?」


 「いいの!?ありがとう!!」


僕はその子について行って、寮がある方向へと向かっていった。道中、その子は僕のことが気になっていたのか、視線は向かないものの、意識はこっちを指していることに、僕は気がついていた。


 「あの、失礼かもしれないんですけど……その、ご種族は?」


 「スライムだよ。」


 「す、スライム……!ですか。」


 「もしかして知ってた?」


 「いえ、その……もしかしたらかな、と思っていたので。でも、その、本当にスライムなんですよね?魔術で、そういうふうに見せているとか?」


 「本当にスライムだよ。まぁ、聞いたことないよね〜。」


 「はい。」


僕自身、僕がどれだけ例外的かを、よく理解しているつもりだ。僕はなんてことないスライムだけど、人型で、その珍しさは竜であるエルザードおばあちゃんと、ほとんど変わらない。隠すほどのものでもないけど、知られていると少しややこしかったり、めんどくさい。

エルザードおばあちゃんが翼をいつも隠しているように、僕にもちょうどいい隠し方があればいいんだけど、うまい方法が浮かばない。


 「あの、今日はどんなご用件で?」


 「今日は、友達に服を届けにきたんだ。でも、その友達とは、もう何年も会ってなかったんだけどね。今日やっと会えるんだ!」


 「服……もしかして……えーと、プラノード先輩宛てに?」


 「あれ!?もしかして知ってる?!」


 「はい!ラナさんの後輩として──」


 「そっか!後輩。後輩……たしか、年下の友達って意味だよね!」


 「友達……ってほど親密かと言われたら、ですけど。」


 「そうなんだ!よかった、ラナ。学園でも友達ができてたんだ。君、名前は?」


 「ラプです。ラプ・クラーク。」


 「ラプちゃんか〜。」


 「ちゃ、ちゃん!?」


 「あれ、もしかして嫌だった?」


 「いえ、その……なかなか呼ばれない呼び方だったので。」


 「そうなんだ〜。」


少し会話しただけでも、このラプちゃんからは、ラナへの信頼や、そういった感情が少し読み取れる。ラナは見ないうちに、こんな後輩からも尊敬される存在になったんだなぁと、なんだか僕はしみじみする。


 「ここが寮です。ラナ先輩の部屋は、2階の一番奥です。多分もう帰っていると思うので、それでは……!」


 「ありがとう〜。」


さすがに、建物の中の2階の奥部屋の場所くらい、間違えはしない。僕は階段を登って、そこから一番遠い部屋の近くまで歩いて行った。今度は楽勝だった。だって、扉の前に、しっかりプラノードっていう名前が書かれていたからね。


 「すみませーん。お届け物でーす。」


 「はい。」


ドアをノックすると、扉の向こう側から声が聞こえてきた。あえて他人行儀みたいな声掛けをしたのは、こうしたらいいって、おばあちゃんに言われたからだ。こうすれば、ラナがいつも以上に驚いてくれるって。


 「──ありがとうございま……」


 「サプラーーーイズ!!!」


 「…………。」


両手をあげて、これでもかと大きな声を出して、ラナをびっくりさせる。ただ、返ってきた反応は無だった。びっくりしているわけでもなく、かといって、分かっていたという顔をしているわけでもない。エルザードおばあちゃんが、本を読んでいる時によく起こっているフリーズによく似ていた。


 「……あれ?」


 「…………え、エルフル?」


 「あ、うん!久しぶり!!」


 「…………。」


ラナは僕の姿を確認すると、何事もなかったかのように、開けた扉を閉めた。僕は扉の前に佇んだまま、目の前の行動を、ただただ黙って見ていた。ひたすらに、置いて行かれた感を感じながら。


 「え?エルフル!?」


 「そうだよー!」


 「え、え、どうしてここに?」


 「もちろん、服を届けるためにだよ!」


遅れてやってきた歓喜と驚きに溢れた表情に、僕も笑顔になる。よかった、ただただフリーズしていただけだったんだ。一瞬、扉を閉められたから、てっきり完全に拒否されたものだと思っていたけど。


 「え、わ……わざわざ届けに?」


 「うん!エルザードおばあちゃんが送り出してくれた!久しぶりに顔を合わせてこいって!」


 「……そうなんですか。あ、とりあえず中に。」


 「ありがとー。」


僕はラナの部屋に入った。元々プラノードの家にはラナの部屋もあるけど、それに比べたら、この部屋は少し狭いような気もした。なんというか、無骨というか、飾り気がないというか、昔のラナと比べても、味がないような感じだった。


 「……なんか、静かだね。」


 「それは、まぁ寮なので。」


紙袋に入れられた服を受け取り、机の上に置いたラナは、部屋を見回す僕の言葉に返した。


 「なるほど、寮って宿屋みたいな感じなんだね!」


 「まぁ、そうだね。」


 「……ラナ、元気?」


 「元気だよ。手紙でも書いた通り。」


 「それはそうだけど……なんか、自分の目で見ると、元気じゃなさそうな気がして〜。」


 「……今日、懐かしい夢を見て。少し、気持ちが沈んでいるのかもしれない。」


 「…………。」


僕は、その夢が聞かれてほしくないっていうのを、なんとなくラナから感じ取った。本人が話したくなさそうにしているのなら、無理強いはしちゃいけない。数年間も人と関わってくれば、魔物の僕でも、ある程度理解はできる。


 「ラナ、いつから敬語になったの?」


 「え、いや……久しぶりだから。」


 「久しぶりでも、僕とラナは友達だよ。友達の前くらいは、敬語じゃない方が、僕は嬉しいなー。」


 「……そうだね。」


ラナは、僕のあからさまな態度を見て、向き直って敬語をやめた。なんだか、ラナから距離を感じる。近づいてほしくないわけじゃない。多分、時間が経ったせいで生まれた距離感。僕はそう断定する。

こういう時はどうするべきか。もちろん決まっている。真正面から話し合うことだ!


 「ラナ、学園では友達、しっかりできてる?」


 「できてるよ。」


 「今さっき、ラナの後輩に出会ったけど……しっかり慕われてて、安心したよ。」


 「……そんなに、心配されるような性格でもないけど。」


 「でも、昔からラナは剣のことばっかりだったし……友達も、僕とエルザードおばあちゃんしかいなかったでしょ?」


 「うぐ……否定できない。」


 「だから、学園でラナがしっかりやれてるかなーって。」


 「そういうエルフルは、どうなの?」


 「僕はできてるよ。もうレオーナの街の人とは、ほとんど知り合いになったし、街の道もしっかり覚えた!」


 「あ、そういえば方向音痴。よくここまで来れたね?」


 「来れなかった!だからさっき言った、ラナの後輩に案内してもらったよ!」


 「……あとで、ラプにお礼を言っておかないと。」


 「あ、僕、今日ここで寝泊まりしていい?」


 「ええ……いや、ダメだからね。」


 「な、なんで!?」


 「ここの寮は、一応点検が入るから。よその人を寮に招くのは禁止なの。」


 「そっかー。なら、今のうちにいっぱい話しておかないと!」


 「話す。」


 「エルザードおばあちゃんに、いっぱいお土産話を作らないといけないから!あ、ねぇ、あの服って、やっぱりデートに使うの?」


 「で、デート?なんで?」


 「え、だってミィーナも、あの服でデートしてたから。てっきり、ラナにも春が来たのかなって?」


 「……それ、エルザードおばあちゃんは、なんて言ってた?」


 「もしそんな人がいたら、半殺しくらいには、って!」


 「……いないから、そう伝えて。」


 「わかったー!でも、それならこの服は何に使うの?」


 「あぁ、明日、ミスコンがあるんだよ。」


 「ミスコン?」


 「簡単に言えば、綺麗な服を着て出る大会。不本意ながら、出なくちゃいけなくなって。」


 「へぇ、面白そう!」


 「私は、そう思ってないけど。」


 「そうなの?でも、ラナとその服なら、とってもいい感じになると思うよ!ラナはミィーナに似て、美人だから!」


 「……どうも、それは。」


 「それに、ミィーナはその服のおかげで、デート大成功したんだから!」


 「え。」


 「え、知らなかったの?」


 「初耳だけど……え?」


その後、僕は夜になるまでラナと一緒に話して、近くの宿屋に泊まることにした。ラナから、ミスコンには、できるなら来ないでほしいと言われつつも、心の中では来てほしいという気持ちの見え隠れを見抜いたので、僕はミスコンを見ることにした。


 「すっごい人の数。」


ミスコン最中は、基本的に学園には入れないようになっていたけど、偶然、通りかかったラプの手を借りることによって、特別な立場での入室ができた。そう、ペットとして!

僕は基本的に、スライム状態になっている間は、人畜無害の許可証通しの魔物だから、この形態なら普通に入ることができる。


ラプに連れられて、僕はミスコンが実際に行われている会場まで来られた。そこには大勢の人だかりができていて、中央には、とびっきり大きなステージが用意されていた。初めて見る光景に、僕は心が高鳴る感じがした。


 「エルフルさん。見えますか?」


 「うん!ちなみに、僕、重くない?」


 「はい。軽いですよ。」


ラプに頭の上まで持ち上げられながら、僕はミスコンの様子を見ていた。綺麗に飾った人や、すごく派手な服装をした人たちが、ステージに上がっては、何か一つポーズを決めて帰っていく。

これをエルザードおばあちゃんに見せたら、きっと色々複雑そうな顔をしながらも、喜んでいたんだろうなーと思いつつ、おばあちゃんの分まで、僕は服装を見ながら勉強する。もしかしたら、最近のファッションを知れる機会かもしれないと思っているから。


 「あ、クリス先輩だ!」


 「クリス先輩?」


 「はい。ナリタ・クリス先輩。ラナ先輩のパートナー的な友達です!」


 「へえー!って、ナリタ!?」


 「はい。私も驚きました。あのナリタって……」


 「い、いや。そうじゃなくて…………」


分かっている。多分、そのナリタ・クリスは、きっと、あのナリタテンマの娘であることを。でも僕は、あの時のトラウマが忘れられない。

十数年前に起こった大きな戦い、別名戦争で、エルザードおばあちゃんを瀕死に追いやった、あの勇者のことを。下手すれば、僕までもが真っ二つにされてもおかしくなかった。あの時の恐怖を思い出すと、身震いしてしまう。


 「……エルフルさん?」


 「ごめん。ナリタには、あんまりいい思い出がなくて。ナリタテンマには、だいぶ酷い目に遭わされてさ。」


 「戦ったことがあるんですか!?」


 「大昔にねー。しかも僕は、ほとんどサポートだったけど……あ、ごめん。もう思い出したくない。」


 「すいません……でも、クリス先輩は、そういう人じゃないですから!」


そうこうしているうちに、ナリタ・クリスがステージに上がってきた。その瞬間、周りの人たちは、とびきりの歓声を上げ始めた。今まで大勢の人がステージに立ったけど、ここまで観客が沸き立つのは初めてだった。声の響きが、体全身を通して伝わってくる。


 「す、すごい歓声。」


 「クリス先輩、今年もすごい!メイクから服装まで、何から何までがトップクラス!」


ラプがそう言うように、クリスという名でステージに立った者は、とんでもなかった。エルザードおばあちゃんのお店で、いろいろなものを見ている僕でも、あそこまで整えられた服装は、初めて見た。

無骨なわけでもなく、極めて派手なわけでもない。ただただ、純粋な美が詰まった、とんでもない傑作。服で人は変わるというけど、あれは服を、あえて武器として扱っている。

武器は、言うなれば、持ち主の技量で力が変わる。僕は、服という、ただ着るものに、そこまでの存在感を感じた。


 「……あれ、優勝じゃないの?」


 「いいえ、まだですよー!まだ、ラナ先輩もフェリア先輩もいますから!」


 「フェリア?フェリア・ギリドリス!?」


 「知ってるんですか?」


 「もちろん。僕の友達だよ!そっか、この学園に入学してたんだ……てっきり、そのまま貴族だと思ってたけど。」


 「フェリア先輩って、元貴族なんですか?」


 「多分、今も貴族だよ。あ、お父さんかお母さんが、かな……?その様子だと、隠しているのかな?」


 「はい。フェリア先輩……そっか、貴族だったんだ。」


僕たちは、そのままミスコンを観戦し続けた。ラナが出てくるまでは、やっぱりまだまだ時間がある。

けど、このお祭りは、どうにも退屈しなさそうな気がした。

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