017話「事件後報告」
翌日フュードルド学園は少し長い振替休日となった、毎年学園祭の次の日はこうした振替休日となる楽しみすぎた学生たちを一旦落ち着かせるという意味でも、学園祭ではしゃぎすぎた結果疲れすぎてしまった生徒を休ませる意味でもこの振替休日は設けられている。
ただ今回はテロがあったということもありそれが1日から3日へと延長している。
「世間はテロだってこと絶対知るはずもないですけど。」
「当たり前です。安心安全のフュードルド学園がテロ行為を許すなどメンツが丸潰れですから。」
「……それで、なんでクリスはここに?」
時刻は昼過ぎだった。アフタヌーンティーを嗜んでいる彼女は今私の部屋にいる、普通なら事件に関わったから自宅謹慎を言い渡されていてもおかしくないはずなのにだ。
まぁ部屋にあげてしまった私にも十分な責任があることはまず間違い無いけど。
「愚問ですね。私たちは公には事件と無関係です。ならば今日は振替休日で休み、本来なら公園で話し合いたいところですが、あいにく草はまるこげでピクニックなどできる環境ではありませんので。」
だから私の部屋にきたというわけか。いやそうじゃなくて。
「止められなかったの?」
「………私にかかれば、この通り。」
理由になってないが多分従者の静止を振り切ってここにきたか、それともこっそり抜け出したかのどちらかなんだろうと予想する。クリスならやりかねる話だ。
「大丈夫です、すぐ帰ればお叱りは受けませんから。」
「それはそれで問題のような気が。」
叱られないというのは裏を返せばソレ諦められているということだ。
「まぁ細かいことはどうでもいいのです。久しぶりにラナさんの部屋にこれただけでも、それはそれで満点ですから。」
「そうなんだ。」
私の部屋は明らかに整えられた芝生や、クリスの部屋よりも劣る気がするけど本人はその限りでは無いらしい。こうした上のものの価値の付け方はいまだに私にはわかりかねない。普通でなんの面白みもない私の部屋のどこが前車二つに勝る部分があるのやら。
「さて、それでは昨日の続きを話しいたしましょう。」
クリスはティーカップをテーブルに置き、話し始める大勢に移行する。私もその態度に真剣になるために向かい側の席に座る。
「少しおさらいしましょう。昨日はダークエルフを捕らえて、今回の事件のテロの真犯人であるペルドナーの捕縛に成功いたしました。」
「うん。」
「結論から申し上げますと、ダークエルフの少女は生命保護法と、ペルドナーに全ての罪が言ったことにより即釈放されました、現在は安全なところにいます。対してペルドナーは仮の結論だけでも貴族伯を剥奪、叩けば出る埃のように余罪が出てきたこともあってめでたく牢屋にぶち込まれました。」
「そうなんだ、やっぱりあの貴族が犯人だったんだ。」
「はい。もう疑い用がないほどに。」
「それで、容疑の動機とかは?」
ここが一番重要だ。起こった出来事を決めることは容易くても、それがなぜ行われたのか、それによって話が止まるか続くか分かれることがある。再発防止というのはただただ見せしめだけでなく次を産ませないために具体的及び論理的な防衛策を取る必要がある。そのためにも動機を知るのは一番大事なことだ。
「なんでも《人間主義》にしたいかららしいです。」
「人間主義……それって。」
「ええ、一昔前の戦争で自分たちが敗北したこと、自分たちが多種族に譲渡していると思い込んでいる哀れなお人ということでしょう。」
人間主義。一つの過激的な概念として現在では常識の中に浸透しているタブーの考え方だ。
18年前に起こった獣人と人間による短期間の大規模な戦争、結果として獣人族が戦争には勝利したということになっているが、当時の戦力差から見ても長期戦に持ち込めば必ず人間族が勝利したということになっている。
人間主義を掲げている人たちはこの人間族が勝つはずだったという未来を現実のものだと信じて、獣人族に負けたのはまぐれだ、など負け犬の遠吠えをしている連中だ。
(ちなみに私は、別に獣人族の肩を持つつもりはない。)
ただ現実として、事実として勝ったのは獣人族であり、戦争はもう終わったはず。それなのに再び戦争の火種を生むような行為は、愚か極まりなく強い思想だけで平和を乱そうとする人間主義は平和条約を壊しかねない。
そう言った意味で私は人間主義が危険で、簡単に言って仕舞えばダメなものだと理解しているつもりだ。
「それが今回のテロ行為に及んだ理由だと結論づけました。」
「……。」
「ラナさん、申し訳ありません。此度のテロの原因はこちらの不手際によるものです、本来あのような頭がおバカになっている人たちを排斥するのが私のお父様の役目ですのに。」
「いいよ。それにナリタ・テンマはよく頑張ってると思うし、クリスが謝る必要なんかない。私は別に争いが好きじゃないだけで……どっちかの肩を持つなんてするつもりないから。」
「……お父様にはしっかりと言いつけておきます。ラナさん、ありがとうございます。」
「お礼なんていいよ。私はただ自分ができることをしただけ。あと、クリスも今回はあんまりいい気分じゃないでしょう?」
「───はい、ぶっちゃけて言わせてもらうとそうですね。あまりいい気分じゃありません、なにせナリタ・クリスなんて名前を使ってしまったですから。」
やっぱりそのことかなり気にしてたんだ。
「でもそのおかげで事件はスムーズに解決に向かったわけだし。」
「もちろん!その点はわかっております、ですけどラナさん私は親の名前を使うなど断じて嬉しく思いません!!」
「うん。」
クリスは自分の名前にコンプレックス、というよりかはかなりの嫌悪を出している。というのも彼女の性格上、真正面からの勝敗を好むタイプ、そのため自分以外の自分がよしとしない方法で物事の勝敗が分かれることをかなり気にする。それは自分のファミリーネームが持つ権力に対しても有効だ。
ナリタという名前は人間国において最高峰の権力を持つ、だがクリスからしたらその名前によるバックアップがなければ、自分は何もできないという境遇がかなり許せない。(別にクリスはそんなことはない。)
だが。
「自分の権力を振りかざすなど弱者のすることですわ。」
っとこのようにかなり凹んでしまうのだ。彼女の言う弱者とは卑怯者こと、あのペルドナーと同じということだ。自分の実力で勝ち取った勝利ながらまだしも、自分の力以外でこの勝利を手に入れたら、それはそれでかなり嫌だ。というのが彼女の気難しい性格をよく表している。
「でも、クリスがあの時言ってくれなかったら。ペルドナーは現行犯にならなかった。」
「遅かれ早かれ、捕まえられていたはずです。それを私は、いっときの感情を優先したのです。そんなの、お馬鹿さんがやることですわ。」
「………でも、許せなかったんでしょ。小さな子供が不幸になるところを、」
「─────。」
普段なら絶対にしないことをクリスがやった。というのはそれだけの動機があるということ、多分ダークエルフの少女があの貴族の奴隷だと知った時クリスは相当に頭に来ていたはずだ。もちろん私もそうだが、貴族という立場の重みを知っているクリスの方がその怒りは何倍も大きい。
「だから、私はクリスのことを責めないよ。」
「………ラナさんにはそう言っていただけて光栄ですね。私は、」
「次からは自分の力でなんとかできるようにしよう。そうすればいいと思うし。」
「そうですわね。」
クリスは顔を上げて大きく息を吐いた。多分私の言葉でも彼女にとっては気休めにしかならない。でも友達としていつまでもクヨクヨしているクリスを見ているのは心苦しいのだ。
「はぁ、これ以上。無様は晒せないので、私はこの辺でそろそろお時間ですから。」
クリスはバックを開けて持ってきたティーカップなどをその中に入れていく。そしてそれを片手に私の横を通り過ぎて窓を開けて足をそこに乗り上げる。
「それではラナさん、また3日後あたりに!」
クリスは窓から飛び降りて、優雅にその場から脱出した。多分正面玄関にはお迎えの馬車がすでに捕まえようと待機していることを察してなのだろう。見事な着地を決めた彼女はそのままスカートを少し上げて走っていった。
「また、クリス。」
私はそのクリスの自由奔放な姿をただ黙って見送った。




