016話「問題の時」
ダークエルフ。数年前から確認された新出種族、元はエルフ一族に分類されていたが数十年前に種族間のでの抗争があり結果分離、近年では数も減少したことで有線保護対象としてのみられ方が近い。それこそ絶滅危惧種を救おうなどと言ったモルモット的な面だ。
人権はあるにはあるが、そもそも群れで行動してないためしっかりとした社会種族として確立はされていない。ゆえに彼ら彼女達の立場は現時点の世界では危ういものとなっていた。
「……。」
私はガラス越しに優しく接する尋問官とエルフの事情聴取を見ている。防音の魔術を使用しているからか中の様子しか見ることはできない。とはいえ読唇術を少し使えるので、何を言っているのかある程度の予想をつけることはできる。
「何も喋りませんか?」
「うん。口が全く動いてない。」
「……ダークエルフとは予想外でした。」
「誰にも予想できないよ。」
エルフであることを予想していたクリスでさえ、ダークエルフであるところまで嗅ぎつけることはできない。私の予知夢にも犯人の明確な姿がなかったことから、あの夢で彼女が起こしたのか、それとも今彼女が起こしたのかそれは定かではないのだ。
ただ今の事実として目の前のダークエルフの少女がこのようなテロに及んだのは私たちの中で共有の情報だ。
「さて、普通でしたらこのまま刑罰に処されるのですが。」
「そうはいかないでしょう。ダークエルフには生命保護法が適用される。罪状云々よりも彼女達はそもそも種族繁栄のための生命活動こそが何よりも優先される。」
「ええ、魔物達と同じ、今回の事件は自然現象が起こした事態と処理されるのが関の山でしょう。もっとも──私もラナさんも、そんなのご冗談ではありませんが。」
全くだ。もし夢のようなことになっていたのなら、私はいくらそんな法律があったとしても怒りを抑えきれていない。それこそ目の前にいる少女がいくら弱々しく可哀想な見た目をしていたとしても、自分の手にはまだ力が入っている。
「……ですが、引っかかる点はございます。」
「?」
「ダークエルフがこの島に入ってきていたというのに、なぜ誰もそれを察知できなかったのか。」
「……それは。」
考えてみればそうだった。この島には正当な身分証がなければ入ることはできない。顔を確認することによるダブルチェックも基本的に抜かりはない。となるとなぜ彼女は島に入ることができたのか、根本的な疑問がある。
「私が思うに魔術的、魔法的な面において偽装は不可能です。そもそも入らせない努力も今回はしていたので、もし不手際で入らせてしまったのならそれは、この島の警備員が役立たずで解雇すべき人材というだけ。ですがもしそうでないとするなら、これは一枚岩の問題ではなくなってきます。」
「どういうこと?」
「彼女を魔法でも魔術的にま隠さずただ書類と権力的にこの島に入れた輩がいるということです。」
「!それは。」
「仲間というべきですかね?でも、私が思うに彼女の顔を見ているとどうにも仲間というよりは、、」
クリスが次の言葉を続けようした時何やら尋問室にうるさい声が近づいてきている気がした。一人は丁寧で止めようとする声、もう一人はなんとも傲慢な声の持ち主だった。
バンっと扉が乱暴に開かれ、二人の人間が姿を現す、一人は周囲にいる警備員と同じ、もう一人は真っ白な服にふくよかな見た目そして傲慢そうな顔を持つ────貴族だった。
「どけ!さっさとティファニーを解放しろ!!」
「おや?」
クリスは首傾げ来訪者の言葉に素直に疑問を持ったらしい。そんな傲慢な貴族を嗜めるように警備員の一人は落ち着いた様子でこう言った。
「ペルドナー侯爵!ここは尋問室です、その機密情報もありますゆえ、何卒どうかご退席を!」
「ふざけるな!私のティファニーがこんな独房に入れられるなんて耐えられるか!」
貴族の男は先ほどからティファニーという聞き覚えのない人名を口にしている。その急ようからその人物が大切な存在であることが窺えるが警備員の警告を無視する点だけは、いただけない。そう思っている私にクリスが一歩前に出る。
「失礼。ペルドナー侯爵、その方のいう通りここは尋問室で情報の秘匿性はこちらのパラボロフ島警備隊、及び人間国から派遣されてきた軍部のもの達が預かっております。貴族である貴方の今の行動は行き過ぎていると言っても過言ではありません。」
「誰だお前は!!」
「申し遅れました。私はナリタ・クリス。貴族である貴方ならこの名前がなんの意味を持つのかご存知でしょう?」
「な、な!!ナリタ!!?こ、ここここれはーー!大変失礼!!大変失敬!!あ、はは!」
貴族はクリスの言葉を聞いた瞬間に萎縮した。先ほどまでの傍若無人を体現した態度をもはや見せられないと理解したようだ。
「いいえ、私堂々とする方はお好きですよ。なので肩の力を少しでもお抜きください。」
「は、はぁ……はは。」
クリスのこれは本音だが同時に威圧でもあった。お前これ以上失礼なことするなよ、という意味の裏返しである。
「さて、ペルドナー侯爵。何やら用があってここに赴いたようですね。よかったらお聞かせ願いませんか?」
「は、。それは、、」
「あら、もしや話せないことですか?でしたら場所を移したほうがいいのかもしれません。そうしたら、より綿密なお話ができそうですからね。」
「い、いえ!話させていただきます!!」
クリスの二度目の威圧に流石に貴族は耐えきれなかったらしい。ナリタ・クリスはそれほど影響力のある名前であると同時に、社交界、および彼女の能力を疑うものはない。
王の娘は《マルコシアス》である。私も一度は耳に入れたことがあるクリスの性格、そしてクリスの狡猾で戦略性に優れた一面を現す文言だ。
「実はあそこにいる娘は、我が家で預かっているダークエルフなのです、名をティファニーと言います!」
「はい。」
「事情は知っております!ティファニーがテロ行為を行ったと、ですが私はそんなことをするのだとは到底思えません!!」
「なるほど。」
「ですので、私自らこの目でしっかりと確かめたいのです!」
「はい。結構です。」
「──な、に?」
クリスは手を叩いて笑顔のままそう言った。しかし、満面とは程遠いそればかりかその笑顔の裏にあるものは絶対的な怒りである。
「もう結構とおっしゃったのですペルドナー侯爵。いえ、もうただのペルドナーですね。」
「な、何を言って?」
「……せっかくです、ここには私のご学友もいらっしゃることなので、貴方のためではなく彼女のためにもしっかり説明させていただきます。」
クリスはそう言って、一呼吸おいた後話し始めた。
「まず、おさらいです。この事件はダークエルフである彼女によって行われた犯行でした、罪は二つ、不法侵入と学園および生徒に対する暴力行為。しかしこれはダークエルフという種族の関係上、無効になることがあります。ですが不法侵入の方はどうも彼女一人では行ったと考えづらい節があります。」
クリスは話を続ける。
「この島には与えられた身分のものでないとまず入ることはできません。偽造することはできず、正当的な方法で手に入れた身分でなくてはいけません。もちろんダークエルフはそもそも身分という土台にすら立っていません、悲しいことですわね。」
クリスはわざとらしい悲しいふりをして話を続けた。
「となるとこの島に入れた人物がいるということになります。そしてその人物こそは貴方。ペルドナーです。」
「は、はい?なんですと!!」
「はい。貴方です。」
「ふ、ふざけるな!なんで私が!!」
「簡単です。貴方は先ほどこちらのダークエルフの少女を預かっていると言いましたわよね。ええ、ですが預かっていると言ってもそれは人ではなく、物としてでしょう?」
「っ!?」
クリスの目が細くなり鋭い刃としてペルドナーの心臓を穿った音がした。これはもうチェックメイトだ。ペルドナーが挽回できる点はほとんどないに等しい。
「私の見立てでは貴方はダークエルフを物としてこの島に持ち込んだ。そもそもご子息もいない貴方様がこの学園に来る理由は限られています、そこでこのダークエルフの少女をわざと学園内に入れて今回のテロを目論んだ、というふうにすれば辻褄がつきます。」
「な、なんだ!何が言いたい!!なんで私がそんなまどろっこしいことを!私はやってない!!全てこの娘がやったことだ。」
ひとつ、おさらいしておこう。クリスの前でボロを出すということはそれすなわち完全敗北を現す。
「はい。そうかもしれません、ですが命令したのは貴方でしょう、ペルドナー。彼女の首から奴隷の首輪が発見されています。」
「っ!」
「そして私の持っている情報上、貴方は保護などしていません。」
確かクリスが前に調べた情報ではフレイムキラーがいる活火山地帯に人影を発見したとのことだった。それが彼女だったのなら、この貴族はそもそも法律に則った保護を行ってないこととなる。
奴隷の首輪は絶対命令権を持つ、このダークエルフが話せないこと、そしてこのテロ行為が全て命令によって引き起こされたことならばあり得る話だ。そもそも首輪をしている時点で自由はない、彼女の意思でやったという事実は実質的にないという結果に落ち着く。
このペルドナーの命令に従った、という方がまだ現実味がある。
「ここにきたのも、どうせ自らの権力で彼女を回収して、あとは有耶無耶にするためでしょう。事件は未遂で終わった、そしてダークエルフだと知っているならば保護の方が優先されることから罪が発生する確率は極めて低い。全く、反吐が出るほど非常なお方ですね。」
「っ!!黙れ!小娘!貴様に私の何がわかる!!」
「わかりたくありません。貴方のように畜生以下の生物をこの目に入れることも、声を聞くことも、そして同じ空間にいることも、私からしたら度し難いことなのです。その醜い魂ごと、葬って差し上げましょうか?ペルドナー!」
「っ」
クリスはキッパリと告げた。クリスはこう見えて威圧する時はとことん威圧し、言葉から飛んでくる重圧はとんでもない同級生だ。だからこそ油断ならないという、それなのにこの貴族はとことんまでクリスの地雷を踏み抜いた、今まで爆発しなかったのは奇跡に近いが、今度今度こそは爆発で体が弾け飛ぶでは済まされないだろう。なんなら肉片一つすら残らないのかもしれない。
「警備兵、ナリタ・クリスの名の下に命じます。この男を本国に連行しなさい。罪状は──国家反逆罪、平和条約の複数違反、奴隷禁止法違反、生命保護法違反、殺人未遂、器物損害罪、あとはお好みで不敬罪でもつけましょうか。貴族扱いするつもりはありません、連れて行きなさい!」
『ハ!!』
「や、やめろ!はなせ!私はやってない!!やってないんだぞ!!全ては、その小娘が!小娘が─────っ!!」
ペルドナーは三人の警備兵に連れて行かれてしまった。その最後の足掻きは醜悪極まりないものであった。
「……そこの貴方。すぐに奴隷解除用の水を。」
「ハ!」
警備兵はその場から立ち去り、残りは私たちだけになった。尋問室にいる警備員も扉を開けてこちらへ戻ってくる。
「申し訳ありません。何も聞き出せませんでした。」
「構いません。事件は解決致しましたから。」
「は、はぁ。」
「ラナさん。申し訳ありませんが、本日はお帰りになった方がよろしいかもしれません。」
「……クリスがそういうならわかった。」
「はい。ありがとうございます、それと、この度のお礼は必ず。」
クリスは私に申し訳なさそうな顔をしていた。彼女はきっと私に自分の怒った姿を見られたくなかったんだろう。クリスは剥き出しの感情を出すことをあまり好んではいない、いつも優雅にそれでいて堂々とする、それが彼女のスタンスなのだ。これ以上ここにいるということはそれこそ彼女を辱めることと同義なので、私はそのまま疲れた体で寮へと戻っていった。きっと明日になればクリスから何か聞けるだろう。




