014話「万全の対処」
外は真っ暗になり時刻は完全に夜となる。記憶の中にあった真っ暗とほとんど遜色がない、もし違う点があるとするのなら眩しい炎の光で学園が埋め尽くされていないという点だ、学園全体で起こっていた火災はそれぞれ分配されていた別の警備員達によって手分けして消され、現在ではその場所の警戒状態になっている。
(第一関門は突破したけど。)
これで終わりではない、火災だけで終わりなら私のみたあの予知夢はまるっきり嘘だということになる、そんなことはあり得ない。クリスが死んでしまったあの地獄、今彼女は隣で堂々としているが、今後あれにならないとはまだ言えない。生徒達は軒並み避難が完了して今や学園には私たちと警備員しかいない。
ゆっくりと深呼吸をして時を待つ。私には確信があった、犯人が姿を必ず表すという確信ではない、犯人がこれで終わりではないという確信だ。
『報告!!』
通信回線に大きな声が鳴り響く。その声を放っていたのはB班の人間だった、声からただ事ではないということを感じる。
『こちら!魔物出現!!フレイムキラーじゃない!繰り返すフレイムキラーじゃない!!』
「なに!?」
『報告報告!!こちらも魔物出現!どこからきた!!』
『こっちはD班です!魔物と交戦を開始します!!』
予想だにしなかった魔物の出現報告が聞こえてくる。こんなのクリスは言っていなかった、私は戸惑いを隠せずに全体に指示を送ろうと思ってもうまく口が回らずにいた。
そんな中、クリスが通信機を取り上げるように奪いこう口にした。
「総員交戦しつつも、情報連絡!魔物の特徴を共有せよ!」
「クリス!」
私が咄嗟の行動で動揺している中、クリスは通信機を私の手へと戻した。そして目を細めて小さく呟いた。
「なるほど。まだ陽動用のリソースを、ということはやはり。」
「クリス、どういうこと!」
「ラナさん。相手はまだフレイムキラーの召喚を諦めたつもりはないようです。そしておそらく………」
クリスが言葉の続きを言おうとした時、壁を破壊して凶暴な魔物が私たちの前に姿を現した。狼型の魔物は一目散にこちらに近づきクリスに噛みつこうと飛びかかる。
しかしクリスはその狼の下顎をアッパーで叩き鼻口の部分を持って地面へと叩きつけた。
「……残念ですが戦いながら説明します!ついて来れて?!」
「わかった!」
目の前の魔物達は止まらずこちらを敵視している。クリスの合図を聞いた私は戸惑いを一時的に捨て、武器を引き抜き戦闘体制になる。
剣を持つとそれまで私の周りを鬱陶しく舞っていたさまざまな不安や気持ちなどが一瞬にして掃除される、私の心は平坦も平坦真っ白な世界へと生まれ変わっている。
「!」
先に仕掛けたのは私だった。この体は殺意に対してそれより一歩先に行動するようになっていた。学園にいる時に明確な殺意や敵意などは限定的にしか感じられない、だからこの行動は全て大昔にセットされたものだ。ただ私の体はオイルを一滴垂らさずどもあの時とまったく、もしくはあの時以上に洗練された技を同時に繰り出すことができた。
魔物達の合間を通り抜けるように、もしくは縫いつけるように私の動きは回避と同時に攻撃を行う。真正面の戦闘の中でも、瞬時にウィークポイントを見つけて叩く、それが私のやり方だった。
鋭い刃が魔物の肉体を切り裂き一瞬にして絶命させる。
「────」
昔はこの肉を切る感覚がどこか苦手だった。ただ今の私ならそこまでの雑念抱くことはない。切った時には何も感じつずただ敵がいなくなるまで目の前の敵達を一体一体確実に潰していく。
「さて、あまり得意ではありませんが私も援護はしなくてはいけません!!」
クリスが意気揚々と魔物達の中に飛び込む。前にも言った通りこれが彼女の戦闘スタイルだ、ウィザードでありながら相手の懐に入って詠唱を終えた最速の呪文を逃れられない距離感で叩き込む。
「アイスクリアランス!!」
鋭い氷の塊槍が縦に並んだ魔物を一直線に貫く。そして背後から襲いかかってくる別の魔物に対して裏回し蹴りを披露して気絶状態にさせたあと、右脚を軸に大きく地面に足を引きずらせてその隙に魔術を発動させる。
「アイスロックスピア!!」
冷気が彼女の足の軌道を描きその体無数の氷達が一斉に飛び出し彼女の背後にいた魔物達は串刺し刑に処された。クリスは遠距離からちまちま打つタイプまではなく近距離から直接打つのは命中率が関係している。基本遠距離な魔術師は魔術の発動を安全にできる高火力が期待できる代わりにその回転率、近接戦闘は弱点となっている。
ただクリスのアクティブな行動は常に頭を回し続ける彼女の戦闘をより加速させ、直感的でありながら神がかり的な魔術構築を可能とする。
足で術式を発動させるなど世界広しと言えど彼女だけと言える。
「アイススケートをご存知ですか!より強烈に行きますわ!!」
観客に向けてそう言い放ち、魔物達は彼女に一矢報いる気持ちで飛びかかる。しかしその野蛮性こそが死をもたらす明確な弱点である。彼女は月光の元飛び上がり足に術式を展開する、足には鋭い氷柱が形成され、その先端は針のようだった。
「そおっれ!」
優雅な声から繰り出される残酷な攻撃、地面に向けたドロップキックは激しい音を立てて地面と氷魔術が激突する。バリバリバリっと割れる音は一瞬失敗したかと側から思わせるが本命はその散らばった氷達である。氷はいわば爆発によって生じた小さな鉄の塊に等しい、それつまりクリスを除いた全方位に向けての散弾攻撃だ。
鋭い氷達が魔物達の肉体を容易に貫通して戦闘不能、もしくは死へと追いやっていく。何をどうやったらこんな大胆な戦術を思いつくのか私には理解できなかった。ただ私も私で近づいてきた魔物達を残らず両断し続けていた。無駄に知性が高い魔物は武器を構えて身を守ろうとしているがそれは無駄な行為だ。私は自分の剣が魔物と触れ合う寸前まで行ったところで体を前面にそれでいて翻し、剣を逆手に持っては今までの抜刀から攻撃までの遠心力を全て回し、相手の背中部分から胴体にかけて一直線に切りつける。
剣が鞭のように回っていつのまにか敗北すること技はクリスが三日月剣と名付けてくれた。
もっともそんな言葉叫んでいては呼吸が乱れるだけだけど。
「ラナさん!話の続きです。今犯人は私たちに時間稼ぎをさせています。おそらくフレイムキラーを召喚する場所を見つけたのでしょう!」
魔物の頭蓋骨を掴んで魔術をぶっ放すクリスがそう言った。
「炎魔法を使いやすく、そして学園の警備で手が離せない私たちから一番遠い場所!それはもちろん」
「公園!!」
「はい!この方達を蹴散らしたら向かいましょう!!そこに敵はアリですわ!」
私はクリスと共にそのあたりにいた魔物達を一瞬で殲滅後、全警備部隊に連絡したのち公園へと向かった。
公園に近づくにつれて焼けるような匂いが鼻を刺してくる。見れば真っ暗闇の中あのいつも使っている大きな公園はこれでもかと燃え盛る業縁と成り果てていた。大地に咲く花や草木がその犠牲者だった。
「遅かった!」
「ええ!」
そう私たちが言ったのは一つの存在を目にしたからだ。フードを被り業炎の中に身を置く人物、私たちはそれがこのテロの犯人だということを確信した。だがそれよりも大きくて凶悪な魔物が雄叫びを上げて召喚されたからだ。
フレイムキラー。炎の体と悪魔のツノ、そして赤熱化しきった鋼鉄の刃物をその手に携えて現れた怪物は炎の勢いをさらに強めていた。
「ラナさん!」
「?!」
「ここからが正念場です、運命を変えてみせってよ!」
「もちろん!!」
私は逃げない。隣の友人と共に目の前の厄災に対して立ち向かう。全てはあの時みた地獄を消し去るために。




