013話「後夜祭」
クリスと学園祭を見回っているといつの間にか時刻は6時になっていた予定ではこのあたりから後夜祭が始まることとなっている。実際そうなんだろうという確信を空から感じていた。暁色に染まった 空は遥向こう側に過ぎ去り今では紫色の空が覆い尽くし遥彼方には真っ黒な世界がこちらに迫ってきている。その異様に快晴で雲ひとつない夜空はあの悪夢と同じで私は拘束感を覚えた。
「………」
大きく息を吸い込む。警備隊の方から連絡はない。事前に防ぐことはできなかったということだ、撤収準備と変わるように後夜祭の準備が進んでいく。こうなれば私たちは事件が起こってからのことを気にしなくてはならない。
「不安ですか?」
「うん。」
あの悪夢のようになるかならないかなんて誰にもわからない。気づいた時にはそうなっているものだ、だから全てはこれからの行動が鍵となってくる。しかしそう思えば思うほど私の方には異常な重圧感がのしかかるのだ、あの夢通りになった時、私は自責の念に耐え切れるのか、それとも押しつぶされて壊れてしまうのか。全く予測できない不安で心が締め付けられるように痛む。
「……ラナさん。いい未来は自分の手で選び取るものです。ですので私たちは常に人生の中で最善を選び続けなくてはならない。」
「わかってるよ。わかってるけど!」
それでも、あれが最善だと言っているのだろうか?大勢の人が死んで友達が死んだあの世界が、あの夢の中での私が撮っていた最善の結果なのだろうか?あれで最善なのか?あれしか最善がないのか。
「わかっていませんね。」
「だって!」
「わかってないのなら、私の話を遮らないでくださいラナさん。」
「っ」
クリスは私の口に人差し指を押し付け、黙るように鋭い瞳で告げた。私はそれに対してただ息を止めることしかできない。彼女の前では何人たりとも無粋なことはできない、それこそ王者の覇気のようなものだ。
「ラナさん。最善な一手というのは夢物語ではありません。今自分の気持ちに従って行動した結果です。自分がその時何をするのか、自分がその時何を起こしたか、その全てが最善の一手です。私から言わせてみれば感情以外の理屈だのなんだので行動している人は最善ではありません。」
「…」
「それでは、結果的に理屈の方が良かったとなった時どうするのかという顔ですね。簡単です。どうしようもありません。」
「え。」
「どうしようもないのです。だって過ぎてしまったことです。そしてどんなに後悔してもその時最善だったという気持ちを否定することもできません。」
「過ぎて、しまったから?」
「はい。」
「……。」
「これは難しいですか。では仕方ありません。ラナさん、今は目の前のことだけに集中しましょう。」
クリスは仕方ないという顔をして私にそう言ってくれた。私は申し訳ないが今はクリスの考えが理解できない。過ぎてしまってもいいという一種の放棄的な考え方には同意できなかった。だがいつかそれができるといいなという気持ちは、わずかにあった。
「ラナさん。場所は?」
「ここからすぐ近く。」
私たちはあの夢の場所へと向かった。他の警備隊から連絡がないということは少なくとも相手は自分の身を隠せる手段を持っているということになる、となると1番の手掛かりであるそこに向かう以外に私たちが事前に対処できる方法はなかった。
「クリスも?」
「当たり前です。ですがご安心を、ラナさんのおかげで事前に対策は立てられていますから。」
クリスは自信満々にそう言う。彼女を守るつもりでいた私ぁがクリスは考えてみれば守られるより逆に向かい打つ側だ、それにここでいいから避難しててなんてこと言ってみたら、絶対本人は拒否する。私がクリスに予知夢のことを話してからこのことは決まっていたのだ。
「ですが、前にも言った通りお手伝いです。死ぬ前には撤退しますのでご安心を。」
「死ぬ前って。」
「文字通りですわ。保険はかけてありますので。」
その保険が何かは知らないが、私の知らない策があることは確かだ。どちらにしたってもう引き返せないので私とクリスはともに夢の場所へと向かった。そこは、フュードルド学園の中庭だった。
大勢の生徒達がそこにごったがえして、何やらイベントを始めようとしている。大きなステージまで用意され大きく書かれた後夜祭の看板を今は設置中だった。
「あの看板は?」
「みたことない。」
「でしたら、もう少し前だったのですかね?」
私の夢にあの看板はなかった。すでに焼き落ちたという可能性も否定できないが、そもそも夢とは曖昧なものだ。全てを記憶できていないのならここは案外気にするべきではないのかもしれない。
「……今はとにかく情報が必要ですね。」
「警備隊の人にはすでに火の手が上がったら連絡するように伝えている。だからあとは──」
言葉の続きを言う前に、簡易連絡魔道具の通知がなった。その耳障りな音を止めるために急いで回線を開く。
『A班、学園の南側で火災を確認。場所は建物内部!』
スピーカーにしていたためクリスにもこの声は届いていた。事前に情報を共有していたからか連絡役の声は落ち着いていた。これでこの炎を消して犯人を探せば、っと思っていた時だった。
『B班、東の講堂館にて火災を確認!』
『C班!西の建物で火災を発見!!』
「これはっ!」
クリスがこの立て続けの事態に驚いていると、周りがザワザワと騒ぎ出したことに気がついた。大勢の生徒達がある方向を見上げて叫び声を上げていた。
「あれはなんだ!」
「火!火が出てる!!火事だ!!」
たった今さっきまで祭りムードだった中庭は悲鳴と叫び声が溢れかえる阿鼻叫喚の空間と成り果てた。これには私も思考が止まり、次の一手が出るのが非常に遅れた。
「ラナさん!」
「っ!クリス。」
「大丈夫ですか。」
まだまだ始まったばっかりだと言わんばかりの顔をする。私はその顔にハッと気付かされ、首を横に振って雑念を振り払う。そうだ、今できることをしなければならない。
「大丈夫。いけます!」
「なら……そうですね。今は消化を急ぎましょう。火事が起こったこと自体は問題ではありますが対処範囲内です。私の考えが正しければこれは揺動ともう一つの意思がはいってます。」
「もう一つ!召喚の下準備!」
「フレイムキラーは莫大なエレメンツを使用します。そして炎の数だけ強くなる、ならば私たちが動揺して探しに入った瞬間、つまり火を消さないことが悪手として出ます!すぐに連絡を!!」
「わかった!」
私は回線を開いて各員に伝達した。決して持ち場を離れずその場の消化活動に勤しむこと、そして待機していた予備部隊には学園内にいる人たちの避難を促した。
予見の狼煙は上がった。ここからは後夜祭じゃなくて私たちの戦いだ。




