終焉
彼女は朝の光にまだ眠たげな目を細め、俺の横で背伸びをするように体を伸ばした。
「……そろそろ、行きましょうか。家に帰らないと」
彼女は無言で頷き、軽く肩越しから目を合わせる。
「昨日は、本当に、ありがとう」
小さく微笑む彼女の声には、恐怖と安堵が入り混じっていた。
「ええ……無事でよかった」
瓦礫だらけの街を二人で歩き始める。
街を進むにつれて、崩壊の凄まじさに息を呑む。建物は無残に倒れ、道路はひび割れ、歩道には瓦礫と倒れた人々が散乱していた。
「……うそ……」
彼女が小さな声を漏らす。俺も言葉を失った。視界に広がるのは、死体と瓦礫、そして破壊された街の景色だけだった。
スマホを取り出すが、電波はつながらない。通信は完全に途絶していた。
「……どうしよう……」
彼女の声に、俺は唇を噛む。言葉は出ない。
それでも彼女は、短く深呼吸をして気丈に振る舞う。少し大人びた仕草に、胸がざわつく。
――年上として心を静めるべきなのに、理性の端で動悸が走る。
歩いている途中、かろうじて開いていたコンビニを見つける。携帯ラジオを手に取り、周波数を合わせると、かすかに放送が流れた。
「――全世界で同時に大地震が発生しました。各地で壊滅的な被害が確認されています。NASAの発表では地球の軸が――」
言葉は途切れ途切れで、正確には聞き取れない。それでも、世界規模の災害だということは明らかだった。
次の瞬間、放送は途切れ、ザーッという雑音だけが虚しく耳を打つ。
ラジオの向こうで、世界は一斉に崩れ去った。
俺は彼女の目をちらりと見やる。小さく震える肩。こちらに頼るように立つ姿。
手を差し伸べたい衝動を必死に抑え、言葉で落ち着かせる。
「……無事でよかった。今はここで待つしかない」
彼女は頷き、しばらくの沈黙を共有する。互いに声は少なく、ただ世界の崩壊を目の当たりにしていた。
瓦礫の街、死体だらけの道路、使えない通信。耳に残るのは、ラジオから漏れる無情なザーザーという音だけだった。
——この世界で、生き残ったのは俺たちだけかもしれない。
それでも、彼女の存在だけが、唯一の救いだ。
胸の奥で疼く気持ちを押し殺し、俺はただ、彼女が無事でいてくれることを祈る。
生き延びた二人だけの、瓦礫だらけの世界が、静かに広がっていた。
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