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暖かい部屋




「ここが俺たちの拠点だ。入って」


俺が重い扉を開くと、少女は思わず息を呑んだ。


中は、まだ整えたばかりだが――

雨風は完全に遮断され、簡易ベッド、棚、ランタンの灯り、煮炊き用のセットもある。


子どもたちからすれば、

“自分たちの段ボールの巣”とは、あまりに別世界だ。


弟がぽつりと呟いた。


「……あったかい……」


少女の肩の力が、すとん、と抜けた。


「そっちの部屋は鍵もかけられる。寝床もある。

 気に入ったなら、そこを使っていい。俺たちは別の部屋で寝てるから」


「……ほんとに……?」


少女は信じられないというように、部屋を見渡した。

弟は靴を脱ぎ、そろそろと床に乗る。

その様子が、まるで新しい世界に足を踏み入れる動物のようで胸が痛んだ。


「遠慮しなくていいですよ」

彼女が優しく言う。

「ここ、ちゃんと掃除もしたんです。二人が怪我しないように」


「ああ、そうなんだ。君達を迎える準備をしてた」


少女はぱちりと瞬き――

それから、ゆっくり俺の方を見た。


「……? 準備……?」


「うん。二人で一緒に」


と、俺は隣の彼女に軽く視線を向けた。


「……そ、そうですか。ありがとうございます」


少女はお辞儀をし、曖昧に笑う。


弟は違った。

姉の袖を掴む。


「……ねえちゃん……なんか……」


「大丈夫」


少女は静かに弟を抱き寄せた。弟の耳元で、何かを囁いている。

多分、ここで暮らすように弟を説得しているのだろう。


ただ、その表情は、恐怖ではなく、

“判断を保留にしている時の大人の目”だった。


……まだ初対面だから当然だ。信頼関係は、これから築けばいいだろう。


俺は荷物を整理しながら言う。


「しばらくはここを使っていい。

 欲しいものがあれば言ってくれ。共有の鍋と水もある」


「……ありがとうございます」


少女は丁寧に頭を下げた。


「……ユウ、あなたもお礼言って」


弟はもじもじとしながら、壁の影から顔を出し、


「……ありがと……ございます……」


その声は震えていた。


恐怖か、緊張か。


だが俺は、温かく頷く。


「どういたしまして。しばらくゆっくりしなよ」


少女は小さく深く呼吸し、

「……すみません、少し休ませてください」

と呟いて、弟と一緒に自分たちが寝る部屋を見回した。


その背中は、まだ緊張していたが――

どこか、安堵が混じっていた。


安全な屋根、鍵のある部屋、暖かい灯り。

それが今の彼女たちにとっては何より重要だったんだろう。


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