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リアル




足跡を辿り、霧の中を慎重に歩く。

俺たちの靴音は湿った土に吸い込まれ、妙に静かだ。


「……こっちに続いてます」


彼女が小声で指した先。

霧で白くぼやけているが、確かに二種類の足跡が続いている。


軽い足取り。

そして、少し深く沈んだ足取り。


体格差か、荷物の有無か――

いずれにせよ、二人組だ。


「すぐ近くには、いませんね……?」

「断言するな。霧に隠れてるかもしれない」


俺は周囲の影を警戒しながら進む。


倉庫の裏、旧区画のフェンス際。

霧の濃さが増し、空気がひどく冷たくなっていく。


ふと、彼女が足を止めた。


「……あれ、見てください」


低い茂みの下に、何かが押し込まれている。


俺は膝をついて、指先で慎重にかき分ける。


布切れ。

……じゃない。

小さな 子ども用の手袋 だった。


汚れて、濡れて、ほつれている。

でも、まだ新しさが残っている。


「子ども……?」


彼女が息をのむ。


俺も言葉が詰まった。


昨夜、扉の前まで来ていた“誰か”が落としたもの。

それがもしこれなら――


敵、じゃないのか?


だが、判断するにはまだ早い。


俺たちは足跡を再び追う。


しばらく進むと、足跡が一箇所で乱れている場所があった。

まるでそこで立ち止まり、周囲をうかがったかのように。


「ここで……怯えてた?」


「かもしれない。足跡が小刻みだ。

 逃げ腰というか……迷ってるようにも見える」


敵意と明確な目的のある者なら、こんな不規則な動きはしないように思えた。


俺と彼女は目を合わせたが、どちらも言葉にしなかった。


さらに先へ進むと――

足跡はある一点に向かって収束していた。


古い配管施設の裏。

霧に半ば埋もれた、瓦礫だらけのスペース。


茂みの奥に、

信じられないほど小さな“影”があった。


いや、“拠点”だった。


ダンボール。

ビニールシート。

壊れた木材。

その隙間に、布団のようなものが押し込まれている。


まるで――

どこかの公園にあるホームレスの隠れ家。

それよりもずっと貧弱で頼りない。


「……ここ、誰かが使ってます」


「足跡はここで終わってる。

 昨夜の侵入者は、この近くに住んでるってことだ」


彼女が震える声で尋ねる。


「……じゃ、じゃあ……敵じゃないって、ことですか?」


「まだ断定できない。ただ――」


俺は周囲を見渡す。


そこには、戦利品の山も、武器も、罠もない。

あるのは、拾い物と、誰かの日用品の残骸。


そして――


それらを覆うように置かれた、

小さな子ども向けの絵のついたタオル。


「……戦う準備をしてる奴らの場所には見えない」


「……誰か……隠れて……生きてる……」


彼女の瞳に、不安と同じくらいの“哀れみ”が浮かんだ。


俺も胸が痛んだ。


だが――

気を抜くわけにはいかない。


「引き返そう。

 ここに長くいるのは危険だ。戻って備えを強化する」


「……はい」


二人は霧の中、足跡を隠すように歩いて戻る。


背中に、誰かの視線を感じるような気がした。


それは敵意か、恐怖か。

いや、分からない。


ただ一つだけ確かだった。


昨夜俺たちの拠点に近づいていたのは――

攻撃者ではなく、“必死で生きようとしている弱者”の可能性が高い。


しかし、それでもなお危険であることは変わらない。


弱者も追い詰められれば――

牙をむく。


そのことだけが、胸に重く残った。

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