物音
午後の日差しが徐々に赤みを帯び、
第二拠点の窓から差し込む光も、柔らかい橙色へ変わっていく。
休養したおかげで身体は軽い。
今日は本当に“何もしないでいい日”だった。
「……夕焼け、綺麗ですね」
彼女が窓辺で腰をおろし、
西の空を眺めながらぽつりとつぶやく。
「久しぶりに、こういう色をゆっくり見た気がします」
「そうだな。こんなに静かな夕方も、珍しい」
彼女は頬杖をつき、窓枠に体を預ける。
その横顔は穏やかで、少し眠たそうでもあった。
俺は壁に立てかけた武器の点検をしつつ、
その横顔を盗み見ていた。
夕方の光に染まる彼女は、
どうしても幻想的に見える。
ふと、彼女がこちらに振り向いた。
「……見てました?」
「いや、その……ちょっと」
「ふふ、なんだか恥ずかしいです」
軽く微笑んだあと、
彼女は背伸びして、ひとつあくびをした。
その瞬間だった――
――コッ
外で、小石を踏むような音がした。
僅か数回。
本当に、ほんのわずかな音。
だけど、休養で張りつめていなかった神経にこそ、
逆に強く響いた。
彼女の肩がぴくりと震える。
「い、今……」
「聞こえた。外だ」
俺はそっと窓辺に近づき、
外の街路を視界の端まで観察する。
霧が薄く漂い、
瓦礫の影が長く伸びている。
何も――いない。
誰も――見えない。
ただ、今までの静けさとは「違う」感じがした。
風の音でもなく、
鳥でも動物でもなく、
“人間の足音”に近い。
だが、姿はない。
「……気のせい、かもしれませんね……」
彼女は不安を押しこめるように言う。
「かもしれない。でも、一応警戒しよう」
俺は入口側の罠を軽く点検し、
扉の支えをもう一段強く固定する。
彼女はそんな俺の背中を、心配そうに見つめていた。
「せっかくの休養日なのに……すみません、私、反応しちゃって」
「いや、正しいよ。
俺たちは生きてるんだ。警戒を忘れたら終わりだ」
安心させるつもりで言ったが、
夕日のその色のせいか、声がどこか硬くなってしまった。
彼女は小さく首を振って近づく。
「……だったら、二人で気をつけましょう。
一緒なら……大丈夫ですから」
その言葉に、胸の緊張が少しほどける。
窓の外は相変わらず静かだ。
ただ、さっきまでの“穏やかな静けさ”ではなく、
“何かが潜んでいるかもしれない静けさ”に変わっていた。
夕日は沈みかけ、空は赤から紫へ。
そして――
夜が、ゆっくりと始まろうとしていた。




