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生きてる限り




スープが温まる、やさしい匂いが立ちのぼる。


彼女は小さな鍋の前でしゃがみ込み、

火加減を見ながら、時おり木のスプーンでそっと底をなでる。


「……あ、いい匂いしてきましたね」


「うん、今日はゆっくり食べよう」


昨日までの緊張が嘘みたいだった。

拠点の中は静かで、外の風の音さえ遠い。


彼女はスプーンの先に少しスープをすくい、

ふぅふぅと息を吹きかけてから口に運ぶ。


そして――目を細めた。


「……ん、おいしい」


「それは良かった」


いつもより素直で、いつもより柔らかい声だった。


スープを皿に移しながら、

彼女がふとこちらを見上げて言った。


「昨日まで、けっこう一杯一杯だったんですけど……だいぶ元気になりました」


「寝ただけで回復できたなら、役に立ててよかったよ」


「えへへ……ほんとは、寝ただけじゃないですけどね」


「ん?」


スープ皿を両手で持ちながら、

彼女は視線を落とし、小さく笑う。


「……安心感って、大きいんですよ。

 この世界で、夜が怖くないって……きっと、それだけで、すごく」


その言葉は、嬉しすぎて胸の奥が熱くなる。


「……俺もだよ。

 隣に誰かがいるって、こんなに違うんだなって思った」


「ふふ……じゃあ、おあいこですね」


食卓につき、

二人で温かいスープを啜る。


外の世界がどれだけ荒れてても、

この瞬間だけは安全で、満たされていて、

“普通の朝”みたいだった。


スプーンを置いた彼女が、ぽつりと言う。


「こんな朝が、また来るといいなぁ……」


「来るさ。

 俺たちが生きてる限り、何度でも」


その言葉に、彼女はまた何かを考え込むような表情になる。

確かに、この世界ではそれはとても難しいことなんだろう。

それは俺も分かっている。


それでも、

怖さも疲れも少しずつ溶けていくような――

そんな穏やかな午前だった。

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