表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
36/47

寝息




――眠れない。


横では、彼女が穏やかな寝息を立てている。

布団越しに伝わる体温が、妙に近い。距離ではなく、存在そのものが。


……これ、絶対眠れない。


心臓がやかましく暴れている。

呼吸を整えようとしても、彼女のゆるやかな呼吸と重なってしまい、逆に意識してしまう。


――いい匂い、するとか思ってしまうのは、危機感が足りないんじゃないか俺。


むしろ変態なのか俺。


「…………」


俺は天井を見つめながら、小さく息を吸う。


……今は緊張して眠れないだけだ。


でも緊張の理由は、危険ではなく――

彼女がすぐ横にいるという事実。


布団が少し動き、彼女が寝返りをうつ。

俺の肩に、そっと頭が触れた。


心拍数が一気に跳ね上がる。


けれど、驚きより先に、

自然と手が伸び、彼女の頭を守るように布団を直していた。


眠っているときの彼女は、無防備で、柔らかくて、

……守らなきゃ、と思わせる。


俺が眠れないとかどうでもいい。

この状況で安心して寝てるってことは……

それだけ俺を信じてくれてるってことだ。


信頼の重みが、胸にずしりと乗る。


俺はそっと、彼女の寝顔を見ないように目をつぶった。


遠くで、風が建物を撫でる音がする。

時折、小さな瓦礫が落ちる音も――この街には“完全な静寂”なんて存在しない。


だからこそ。


「……大丈夫。何があっても、起きて対処するから」


眠っている彼女に向けて、小さく呟いた。


優しさというより、決意。

彼女に聞こえなくていい。

ただ、自分の心に刻むための言葉。


その数分後。


「……ん……」


寝ぼけた声。


次の瞬間、彼女の腕が、俺のほうに絡む。


ちょおおおおい!?


まるで、寒いときに毛布を抱きしめるみたいな自然さで。


「……あったかい……」


そんな無自覚の一言まで落としていく。


……無理。眠れん。


むしろ、眠れたら人間じゃない。


だが――不思議なことに、その腕の重みは心を落ち着かせた。

“頼られている”という実感が、戦う決意の芯になる。


不安も怖さも、全部ひっくるめて。


「……おやすみ」


今度は本当に小さく、呟いた。


ゆっくりと目を閉じる。

外の風音に混じり、彼女の安らかな寝息が響く。


ようやく――俺のまぶたも、重くなっていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ