絶対に必要なもの。それは睡眠
やがて、彼女が小さく笑った。
「……よかった。
だって、最近……いや、最初っから、すごく怖くて。
崩れたホームセンターも、あの足音みたいな音も……」
「怖いのは普通だ」
「そうでしょうか?
あなたは全然怖がらないように見えるから……」
「そんなことないよ。
俺も怖い。ずっと怖い」
言い切ると、彼女は意外そうに目を丸くした。
「怖いから、動く。怖いから、考える。
……誰より慎重になる。それだけだ」
「……あ、そっか……」
彼女は小さく息をついて、肩の力を抜く。
「それって、強いですね」
俺は苦笑した。
「強いんじゃなくて、臆病なんだよ」
「……じゃあ私と一緒ですね」
その返しは妙に可笑しくて、俺は思わず小さく笑ってしまった。
ランタンの灯りが二人の顔を照らし、
その距離がいつもより近く感じる。
「そろそろ寝ようか。睡眠は体力の回復に、つまり生き残るために何より重要だ」
俺がが作った寝床はベッドの横に並んでいた。
ほんの手の届く距離。
「せっかくベッドと布団があるんだから、ここで寝ていいよ。俺は今まで通り、寝袋を使う」
俺はコンロで作ったココアを飲みながら、彼女にベッドをゆずる。
「……あ、あの」
ん?
彼女は真っ赤になりながら俺を見つめて言った。
「その、ベッドで、一緒のお布団で寝ませんか?」
俺は盛大にココアを吹き出す。
き、貴重なココアが……。
「いやそのっ、変な意味じゃなくて!生き残る為には睡眠が一番重要なんですよねっ!?だったら、二人でちゃんとしたベッドとお布団で眠って、睡眠の質を高めるのって、絶対必要なことだと思うんです!」
彼女は力説する。
「そ、そうだね。たしかに必要なことだ。一緒に眠ろう。そばにいれば、万が一の時にも安心だし」
俺は声が震えないように慎重にしゃべりながら、ベッドに移動し、布団をかぶる。
……やっぱり、寝袋とは全然違う。ふわふわのベッドは、すべてを包み込むような気持良さだ。
少し間をおいて、彼女がベッドの布団の中に潜り込んできた。
……近くない?
彼女は、照れるように言った。
「おやすみなさい。また、明日」
そう言って、よほど疲れていたのか、彼女はすぐにすうすうと寝息を立て始めた。
ありえない状況にバクバクと高鳴る鼓動。
目と鼻の先に、彼女の顔がある。
……眠れないんですけど!!?




