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人の価値




日が落ち、街の霧が濃さを増す頃。

割れた窓を塞いだ板の隙間から、かすかな闇だけが入り込んでいた。


薄暗い部屋で、ランタンの小さな灯りが揺れる。

風が吹くたび、建物全体が微かに鳴り、外の世界の荒廃を思い出させる。


彼女は、ため息をついた。


「……今日だけで、すごく疲れましたね」


「ああ。

 移動して、物資集めて、罠も作って……ここまで来れただけで上出来だ」


「でも……」

彼女はこちらをちらりと見て、少し言い淀む。

「……まだ不安です。ここが本当に安全なのかって」


俺はランタンを少し明るくし、部屋の罠と補強を改めて指差す。


「大丈夫、とは言わない。保証なんてない世界だ。でも、対策はした。侵入の前兆も分かる。

 ここなら、少なくとも“寝てる間に何も知らず殺されるってことはない」


彼女の表情に、少しだけ安堵の影が落ちる。


「……あなたがいると、本当にそう思えるんです」


「え?」


「いや、その……。

 あなたって冷静で、ちゃんと考えてて……

 私一人じゃ、絶対ここまでできませんでした」


言葉を選びながら、それでもまっすぐに言ってくる。


俺は少し視線を逸らした。

褒められるのに慣れていない。


「……俺も、一人じゃ無理だよ」


彼女が瞬きをする。


「この拠点を二人で作ってるんだ。

 ただ隣に誰かがいるだけで、人間って判断が狂わずに済む」


「……そうなんですか?」


「孤独だと判断が偏るんだよ。

 楽観的か、悲観的かのどっちかに極端になって……

 死にやすくなる」


彼女はその言葉を噛み締めたように、小さく頷く。


「……じゃあ、私、いてもいいんですか?」


まるで確認するような、弱い声だった。


「いてほしいよ。

 一緒に生き延びるって決めたんだから」


その一言のあと、しばらく沈黙が落ちた。

風の音だけが、外から細く入り込んでいた。

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