本の知識
雑居ビルの二階に足を踏み入れた瞬間、
足元に積もった埃がふわりと舞い上がった。
薄暗い室内。
割れた窓から光が斜めに差し込み、空気中の埃が金色の粒となって揺れている。
床はぎしぎしと軋むが、抜け落ちる心配はなさそうだ。
何より――一階の崩落が、逆に“天然のバリケード”になっている。
「……ここ、意外といいですね」
彼女が周囲を見渡しながら呟く。
怖がりながらも、声には前向きさがあった。
俺も頷き、まずは入り口――非常階段の扉に近づく。
「まず、ここをなんとかしないとな。
この階段、一応使えるが……逆に言えばここしか侵入経路がない」
「じゃあ、どうします?」
「そうだな、“ここしか侵入経路がない”のは短所だけど、それを逆手に取ろう」
俺は落ちていた金属パイプと折れた机の板を拾い集める。
「これを階段に組んで……よいしょ……」
ギギギッ、と金属が軋みながらも形を作る。
「これ……罠ですか?」
「そう。誰かが階段を踏んだら、パイプがずり落ちて大きな音を立てる。
侵入の“前兆”を知るためのセンサーみたいなものだ」
「すごい……そんなことまで考えられるんですね」
「前にコンビニでサバイバルの本をたくさん調達したろ?それに書いてあった。軍事寄りの本が一冊あって、こんな知識なんの役に立つんだって思ったけど、なんでも学んでおくもんだ」
彼女はわずかに笑ったが、その笑みの奥には信頼が滲んでいた。




