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重なる偶然




 次の日。

 また同じ時間に、俺はコンビニの扉を押した。


 別に期待していたわけじゃない。

 ただ――自然と足がそちらへ向くだけだ。


 本当にただそれだけ。絶対に。


 缶コーヒーの棚の前。

 手に取る前に、周囲をグルグルと見回す。


 ……首の運動だ。


 いるはずがないか。

 そう思ってレジに向かおうとしたとき。


「……あ」


 背後から、小さく息を呑むような声が聞こえた。


 振り返ると、また彼女がいた。


 なんという……


 なんという偶然!!

 

「また会いましたね」


 そう言って彼女は笑う。


「……ほんとに。なんか、すみません」


「なんで謝るんですか」


 そう返すと、彼女は胸の前で両手をぎゅっと握った。


「私のほうは、同じ時間に来ちゃうみたいで。癖になってるというか……」


 言葉を濁す彼女に、ふっと笑ってしまう。


 彼女の場合は本当にただの癖。もちろん分かっているさ。


「俺もですよ。習慣って、そういうもんですよね」


 その瞬間、彼女の肩がほんの少しだけ緩んだ。

 安堵と、嬉しさが混ざったような、そんな表情。


「あ……よかった。なんか、変に思われたらどうしようって」


「大丈夫ですよ」


 もちろん、彼女のような若くかわいい子がこんなオッサンに会うために

 こんな時間に来るわけがない。


 *


「今日も、同じやつですか?」


 帰り際、彼女が俺の持つ缶コーヒーを指さした。

 少しずつ、話し方がくだけてきている。


「ああ、うん。こればっかりですね」


「おいしいんですか?」


「慣れです。もう惰性で」


 そう言うと、彼女はくすっと笑った。


「じゃあ……たまには違うのも、いいんじゃないですか?」


 その一言が、なぜか不意に、胸に落ちた。


 “変わらない日常に、少しの変化を”


 そんな意味に聞こえてしまうのは、俺の年のせいか。


「そうですね……じゃあ、今日くらいは」


「え?」


「ファンタグレープにします」


「コーヒーですら無いっ!?」


 二人で、けたけたと笑った。こんなやり取りは久しぶりだった。


 *


 店を出て、再び夜の風にあたる。


 昨日より、夜が少しだけ軽い。

 街灯の下を歩く足取りは、なぜかゆっくりになっていた。


 大きなことはなにも起きていない。

 ただ、たった数分の会話が、妙に胸のどこかを温めている。


 これが何かの始まりになるとは思っていない。

 思ってはいけないのも分かっている。


 けれど――。


 明日、偶然コンビニに行く理由が、ひとつ増えた。






今回の長期連載はギャグを封印して完全シリアスの純文学にしようと心に誓ったのに、早くも雲行きが怪しくなってきた。そのうち異世界に転生とかしたらどうしよう。

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