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第二拠点




俺達は、古い井戸の前で立ち止まった。


風が抜けるたび、井戸の石壁がひんやりと軋む音を立てる。

さっき確認した水は、確かにまだ使える。

だが――その水をどう扱うかが問題だ。


俺は井戸を見つめながら、彼女に言った。


「……ここを、完全に独占するのは危険だ」


彼女は目を瞬かせた。

「危険……ですか?」


「ああ。水は……どの時代でも、人が喉から手が出るほど欲しがる資源だ。

 一度、誰かに“ここに水がある”と知られたら……それだけで、俺たちは攻撃の対象になる」


彼女の指が、握っていたバッグの紐をきゅっと掴む。

「……でも、だったら……どうするんですか?」


「ここを“拠点にしない”。

 あくまで、水場として使うだけにする。

 そのかわり――近くに第二の拠点を作る」


「第二の……拠点?」


俺は彼女の顔を正面から見る。


「そうだ。物資は分散させる。

 全部を一箇所に置くと、奪われた瞬間に俺たちは終わりだ。

 それなら、複数の拠点を持って……リスクを分散する」


彼女は息を飲み、そして小さく頷いた。


「……生き延びるための……保険、ですね」


「そういうことだ」


彼女は少しだけ笑った。

その笑みには、昨日までにはなかった何かが宿っていた。


俺は周囲の建物を見渡し、地形や視線の通りを確認する。

井戸からそう遠くなく、しかし一本道ではなく、少し入り組んだ場所。

隠れながら出入りできて、襲われても逃げ道のある構造。


そして――少し離れた所に見つけた。


古い二階建ての雑居ビル。


一階部分は半分潰れているが、二階へつながる非常階段は辛うじて残っている。

窓は割れているが、逆にそれは“人が中にいない”証拠でもある。


俺は指差す。


「……あそこだ。あの建物を第二拠点にする」


彼女はその方向を見つめ、ゆっくりと頷いた。

「確かに……少し離れてますし、目立ちませんね。

 二階の窓を塞げば……寝るくらいならできそう」


「十分だ。物資は第一拠点の倉庫と、ここ第二拠点に分ける。

 もしどちらかが襲われても――全滅は避けられる」


彼女は小さく息を吐き、上目遣いで俺を見つめた。

そのしぐさに少し、ドキッとする。


「本当に……全部考えてるんですね」


「生きるために必要だからな。

 ……二人で生き延びるって言っただろ」


その言葉に、彼女の表情が柔らかくほころぶ。


「……はい。

 二人で、生き延びましょう」


俺たちは雑居ビルへとゆっくり歩き出す。

非常階段の錆びついた音が、霧の中に消えていく。

二階の床はまだ生きている。

窓の割れた穴から差し込む光が、埃を金色に照らす。


ここが――第二の拠点になる。


倉庫が失われても、生きられる場所。

水を確保できる距離にあり、外からは見つかりにくく、逃げ道もある。


ここから、二人の新しい策が動き出す。


「……よし。今日中に、最低限の防御と物資の割り振りをやる。

 ここも、俺たちの“家”にする」


彼女は静かに頷き、俺の隣で周囲を見渡す。


霧の街はまだ静かだ。

だが、この静けさがどれほど続くかは分からない。


だからこそ――

俺たちは生き延びるための準備を、今ここで始めるのだ。

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