水源
霧が薄く漂う街路を進む。瓦礫の上を慎重に歩きながら、俺は周囲の建物を観察する。
廃屋の窓はほとんど割れ、倒れかけた看板が風に揺れている。静寂の中、微かな足音や風に揺れる金属音がやけに大きく聞こえた。
「……あそこ、入り口が塞がってないですね」
彼女が指差すのは、小さな建物。入口は半分崩れているが、中は暗く、外から見ても物資がありそうだ。
「よし、行こう。ただし慎重にな」
俺は手を差し出し、彼女もぎゅっと握る。互いに触れた手に、少しだけ安心感が混じる。
建物に近づくと、床には埃と瓦礫が散乱している。
足音を立てないよう、俺は靴底を意識的に転がすように歩く。
「……怖いです」
彼女の小さな声が緊張で震える。
「分かってる。でも、物資が必要だ。食料、水、燃料……それを確保しないと、この先持たない」
俺は低く答え、彼女の肩をそっと押して前に進ませる。
「よし、これだけでもかなり助かる」
建物の中は薄暗く、埃と古い木材の匂いが鼻をつく。棚の上には缶詰や乾物が残っていた。
俺は慎重に手に取り、バッグに詰める。
だが、その瞬間――床の軋む音がした。
「……!?」
俺はすぐに身体を低くし、彼女を庇う。床板の下で何かが動いたような音。
「……大丈夫、たぶん……」
彼女の手が俺の腕に絡む。息が荒くなるが、互いの存在が落ち着きを与える。
外に出ると、街は相変わらず静かだが、瓦礫の向こうに影がちらつく。
誰か、あるいは何か――見えない監視者がいるかもしれない。
「……誰か、いるかもしれません」
彼女の目が鋭くなる。
「分かってる。でも、今は物資を確保して撤退する。それだけだ」
俺はそう告げ、二人は慎重に建物を後にする。
互いの手を握り直す。
目の前の危険も、得られる物資も、すべて二人で共有する。
こうして生き延びる――それだけが、今の俺たちの全てだった。
物資を確認し終えると、次は水の確保だ。建物の裏に古い井戸があり、まだ使えた。
「ここまで来てよかった。少しずつでも、補給できる」
俺の声に、彼女は小さく頷いた。




