避難所
瓦礫の街を抜け、俺たちは“避難所”と貼られた古い体育館へ辿り着いた。
建物は辛うじて形を残しているが、外壁に亀裂が走り、敷地には避難民が溢れている。
中に入った瞬間、息が詰まった。
戸口から見えるのは、荒れ狂う人々の群れ。
叫び声、罵声、悲鳴、怒声——音が重なり合い、まるで建物全体が暴力で振動しているようだった。
「……なんで、こんなことに」
彼女が小さくつぶやく。目は怯え、肩を震わせている。
俺は彼女の背をそっと抱き、低い声で言った。
「これが現実だ。生きるために、みんな必死なんだ」
入り口付近で争う二人の男が、食料の袋を奪い合って倒れ込む。
倒れた男が呻きながら這い上がると、今度は別の者が蹴り飛ばす。
子どもを抱えた母親が、恐怖で泣き叫ぶ。
老人は腰を丸めて、ただ見つめるしかできない。
彼女は俺の手をぎゅっと握る。
「怖い……」
俺は彼女の手を握り返し、力を込めて支えた。
「手を繋いでいれば大丈夫だ」
心の中で、自分もそう信じなければならなかった。
「どうだ、家族はいるか?」
「……いや、見当たらないです」
避難所を見て回る。
怒号。
泣き声。
罵声。
どこへ行っても濁った空気に、汗と埃と焦燥が混じっていた。
並べられた段ボールの仕切りは既に壊され、
僅かな食料を巡って人が押し合い、叫び合っている。
「……みんな、壊れちゃってる」
彼女がつぶやく。
「でも……生きたいって、こんなにも必死になるんですね」
俺は小さくうなずく。
「だから俺たちも、守るべきものを守らなきゃいけない」
ふと、棚の隙間から見える光景に、俺たちは息を飲んだ。
子どもが大人に押し倒され、手にした食料を奪われている。
母親は必死に取り返そうとするが、力及ばず。
怒りと悲しみが入り混じった光景は、言葉を失わせるほど残酷だった。
「……ここ、やば……」
彼女が俺の腕を小さく掴む。
その手は震えていた。
俺は深呼吸し、周囲を見渡す。
人に見られてないことを確認し、手早く母親と子供に食料と水を手渡す。
「あ、あ、ありがとうございます!」
「おじさん、ありがとー!」
「シッ、すぐに服の下に隠して」
俺がそういうと、母親は服の下に物資を隠すと、こちらに何度もお辞儀をして
去っていった。
「……優しいんですね」
「……いや、そんなんじゃない。自分たちの心を守るためだ」
「心?」
「ああ。目の前の弱い人を守りたい気持ちは、人間の根源的な欲求だ。自分たちの精神の健康の為にも、満たせる余裕があるなら、満たしておいたほうがいい。こんな極限の状況では、精神が先にやられる可能性がある」
「ふふっ、じゃあ、そういうことにしておきます」
彼女は、何だかとても嬉しそうだ。
「そんなことより、家族を探さないと」
「そうでした!くまなく探さなきゃですね!」
ほら。ちょっと元気になったじゃないか。
・・・このあとがきの下にある『☆☆☆☆☆のマーク』を、
ポチッと押すと、電車やバスでいいことが起こるかも。
押さないと、イヤホンが絡まります。




