狂人
チェーンソーのエンジンを切る。
倉庫が一瞬にして静寂に戻る。
俺は深い息を吐き、膝に手をついた。
奥から小さな足音。
彼女が駆け寄ってきた。
俺は彼女に振り返り、ニコッと笑ってみせる。
「ハハ……俺、狂人だってさ」
彼女の目は涙で揺れ、肩が震えている。でも、その目にはいたずらを思いついた子供のような笑いがあった。
「フフッ。凄い演技でした。本当に殺しちゃうんじゃないかと思いましたもん。ジェイソンみたいな仮面が無いか、ホームセンターで探してみます?」
二人で笑い合う。それは、戦いに勝った高揚、安心と安全が確保できたことによる安堵。そんな感情と可笑しさが混ざり合った、今までに経験したことのない笑いだった。
笑い合いながら、彼女の距離が近い。まるで、恋人のような。心臓が早打つ。
一歩近づかれたら――抱きしめてしまいそうな距離。
だけど、彼女はギリギリで踏みとどまっている。
「守ってくれて、ありがとう」
俺は視線をそらし、深く息を吸った。
「守るって言ったからな。
あいつらはもう来ない。しばらくは、安全だ」
彼女は小さくうなずき、袖を握るようにそっと触れ、すぐに離した。
「あなたがいてくれて……よかった……」
倉庫には、彼女の震える呼吸だけが残った。
そして――
二人だけの静かな勝利の朝が訪れた。
・・・このあとがきの下にある『☆☆☆☆☆のマーク』を、
ポチッと押すと、誰かがあなたに優しくしてくれます。
押さないと、冷蔵庫のライトがチラつきます。




