襲撃
夜は薄い霧の匂いを含み、倉庫の中に冷たい空気を流し込んでいた。
外は静かすぎた。虫の声すらなく、ただ遠くで時折金属が倒れる音だけがした。
俺たちは、倉庫の奥の簡易ベッドに座っている。
「あの人たち……また来るよね」
「来る。絶対に」
短い沈黙。
彼女は恐怖で肩をすくめ、俺の手を握る。
俺はその手をそっと包み、ゆっくりと押し返すように握り返した。
――この距離感は危険だと思いながら、でも無視できなかった。
「大丈夫だ。
俺がいる。
入ってこようとしたら、必ず止める」
その言葉に、彼女の指先が少しだけ緩んだ。
そのときだった。
外で靴音がした。
コツ、コツ、コツ……
砂利を踏む、重い足音。
一歩、また一歩。
俺と彼女の視線が、無言のまま絡み合う。
「……来た」
彼女の呼吸が強張る。
俺はそっと彼女の背を押し、倉庫奥の棚の影に退避させた。
「ここにいて。絶対に出るな」
「……あなたは?」
「入口を押さえる」
彼女は唇を噛み、でもうなずいた。
俺は静かに倉庫の入口へ向かう。
ランタンの灯りをあえて落とし、闇に目を慣れさせる。
入口の外で、声がした。
「あー……いたよな、ここだな」
昼間の先頭の男の声だった。
あの乾いた笑いを含んだ、刺々しい声。
「昼はよく逃げられたなぁ? おっさん」
背後でもう一人が鉄パイプを持ち直す音がした。
「ここ、物資たっぷりあるだろ?
正直に全部差し出せば……まあ、悪いようにはしねぇよ?」
息を呑むような沈黙を置いて、そいつは続ける。
「もちろん嘘だがな」
仲間たちが笑った。
いやな、乾いた笑い。
俺はゆっくり、静かに、倉庫の扉に手をかける。
扉の向こうで、先頭の男が囁くように言った。
「開けろよ。三秒だけ待ってやる。
3……」
俺は無言で足元の鉄パイプを握りしめた。
「2……」
倉庫の奥で、彼女の衣擦れの音が小さく響いた。
――守らなきゃ、絶対に。
「1――」
扉が蹴り飛ばされる瞬間、俺は扉の影に隠れていた。
男の足が勢いよく倉庫内へ踏み込む。
その瞬間――
俺は鉄パイプを横から叩きつけた。
ガンッ!!
「ぐっ……!??」
男がよろめき、膝から崩れる。
背後の二人が「なっ!?」と声を上げる。
俺は倒れた男の武器――スコップを引き抜き、入口の前に構えた。
「次に入ってきたら、骨が折れるくらい殴る。
帰れ。今すぐに」
本気で言った声に、二人は一瞬怯んだ。
その隙に、俺はもう一歩前に出る。
この狭さでは、三人が一度に入れない。
正面からの人数差は無効化される。
鉄パイプを持った男が唾を吐いた。
「……調子乗んなよ、おっさん!」
こいつが飛び込む。
振り下ろしてくるパイプ。
避ける。
かわす。
スコップで横腹へカウンター気味に叩き込む。
ドスッ!!!
「ぐあっ……!」
そのまま男を入口の外へ突き飛ばす。
残り一人。
リュックの男。
俺を見る目に、もう戦意はなかった。
「……ふざけんなよ。
なんでこんな……」
悔しそうに吐き捨てて、背を向けた。
「行くぞ! 撤退だ!」
二人が倒れた仲間を抱え、暗闇の向こうへ消えていく。
完全に去ったのを確認し、俺は大きく息を吐いた。
すぐに背後から、震える声。
「すご……い……っ」
彼女が、影から出てきていた。
目に涙を浮かべ、安心したような、それでも怯えた表情。
「どうしてそんなに強いの?」
その目が、危ういほど真っ直ぐで――
俺は心臓が一気に跳ね上がるのを、なんとか顔に出さずに受け止めた。
強がるように笑って見せる。
「若い時に、武道を習ってた」
彼女は唇を震わせ、一歩だけ寄る。
だけど、抱きつきはしない。
その距離をぎりぎりで止める。
「……ありがとう」
倉庫の中に、二人の静かな呼吸だけが残った。
外の荒野に、再び夜が落ちていく。
俺たちの“倉庫要塞”の防衛は、
まだ始まったばかりだった。
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