強奪
ホームセンターに非常食があるというのは盲点らしく、ほとんど荒らされた形跡は無い。
けど、いつ天井が崩壊するかわからないため、回収に時間は掛けられない。
俺達は毎日、少しずつ自分たちの拠点に物資を運びこんでいた。
その日も、崩れかけのホームセンターで命からがら非常食を集めて袋に詰め、
拠点に帰るところだった。
三人組の男たちが、俺たちに気づくや否や足を止めた。
先日遭遇したのとは、違う男達だった。
「おい……見ろよ、生き残りだ」
先頭の男が、乾いた声で笑う。
その笑いには喜びがなかった。
ただ、欲と焦りと、飢えをにじませたような声色だった。
背後の二人は手ぶらではない。
一本のスコップ。
折れかけた鉄パイプ。
そして、もう一人はリュックを背負っていた。
「なあ、ちょっと話そうぜ。困ってるんだ、俺ら」
彼らは距離を詰めてくる。
俺たちが背負ったホームセンターの袋に、しつこいほど視線を這わせながら。
――物資だ。
狙っているのは、間違いなく。
彼女の指先が俺の袖をそっと掴む。
声は出さない。
ただ、不安を隠しきれない震えが伝わる。
俺は一歩だけ前に出た。
彼女を背中にかばう。
「悪い。こっちも余裕がない」
たったそれだけの言葉に、三人の空気が変わる。
「……はあ? 余裕がない? お前、何持ってるか分かって言ってんのか」
先頭の男がにじり寄ってくる。
空気がひどく重くなる。
次の瞬間。
「なあ、そんなに抱え込んでどうするんだよ。助け合いだろう? 今は」
背後の男が鉄パイプを握り直した。
その音が、乾いた金属音となって響く。
助け合い。
その言葉を口にしながら、目は一点――俺たちの物資だけを見ている。
俺は呼吸を整え、低く言った。
「助け合う気があるなら、武器を置け」
短い沈黙。
風の音の中、男たちは顔を見合わせ――次の瞬間、
にやりと笑った。
「……やっぱ無理だわ、おっさん」
鉄パイプが上がる。
彼女が小さく息を呑む。
俺は腕を伸ばし、彼女の肩を強く引いた。
「走れッ!」
言うより早く、彼女の手首を掴み、全力で駆け出した。
背後で怒号が飛ぶ。
足音が追ってくる。
「待てって言ってんだろ!!」
「物資置いてけ!!!」
走るほどに肺が焼ける。
だが、彼女の手首の細さが、重さが、恐怖が、
走れ、走れ、と背中を押した。
倉庫まであと少し。
あと少し──
倉庫の角を曲がると、さっき出てきた扉が見える。
俺は扉を蹴り開け、彼女を先に押し込んだ。
続いて自分も滑り込み、すぐに内側から鉄パイプで施錠の代わりにドアノブを固定する。
バンッ!
外から扉を叩く音。
「開けろ!!」
「全部置いてけよ、おっさん!!」
金属を叩く衝撃が響く。
扉がわずかにたわむ。
彼女は震えた声で問う。
「ど、どうしよう……」
俺は深く息を吸った。
「ここで開けたら終わりだ。奴らは俺たちを助ける気はない。物資を奪う気だ」
封じていた現実を、言葉にする。
「ここから先は、もう“生き残るための殺し合い”なんだ」
彼女が静かに目を見開く。
その表情が胸を刺す。
「でも、私たちだけで、本当に?」
「やるしかない。生き残るには早い者勝ちだ。
動けるうちに動いた者だけが、明日を迎えられる」
扉の向こうで怒号が響き続ける。
彼女は、俺を見上げるように小さく口を開いた。
「守れる、かな。私たちの場所」
その震えが、胸の奥深くを揺らす。
守りたい。
彼女の信頼も、彼女自身も。
だが、口には出さない。
俺はただ、穏やかに答える。
「守るよ。絶対に」
扉を叩く音が、少しずつ弱くなる。
静かになったのを確認し、俺は倉庫の中央に戻る。
「……これからは、命そのものを守らなきゃいけない。
人からも、災害からも。ここからが正念場だ」
彼女はゆっくり頷く。
「じゃあ、守ろう。二人で」
その言葉は恐ろしく心に響いた。
どこか甘くもあり、残酷でもある。
倉庫の薄闇の中、
ふたりの呼吸だけが重なる。
外の世界は、もう元には戻らない。
だからこそ、
ここにいるこの二人だけが互いを支えるしかなかった。
生存競争は、すでに始まっている。
そして――
守るべき拠点も、守りたい誰かも、
もう俺の中で決まっていた。
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